第5章80話:メイドン島

月日つきひが流れる。


夏。


俺はふと海に出たいと思った。


――――魚料理は海のさちをあつかう。


ゆえに、海へ感謝の祈りをささげておこうと思ったのだ。


まあ、前世ではそんなことをしても、ただの自己満足じこまんぞくにしかならないが……


異世界には海の精霊がいる。


精霊に祈ることは、必ずしも無駄ではないのだ。


だから今後の祈願きがんとして、きちんと精霊へお祈りをしておきたい。


ちなみに祈りをする場所は、精霊岩せいれいがんと呼ばれる海上の岩場いわばだ。


マドリエンヌ領のおきにも、精霊岩の岩場があるので、そこに参拝さんぱいすることにしようと思う。






コルゼン島。


商会オフィス、会議室にて。


俺が海上かいじょうに出ることを、キルティナに相談してみると、このように提案してくれた。


「そういうことでしたら、リンを頼ってみてはどうかしら」


「リンに?」


なぜそこでリンの名前が出てくるのか不明だったので、俺は首をかしげた。


キルティナが答える。


「海に出るとなると、船が必要でしょう?」


「そうだな」


「ヴィオーネは、船を何隻なんせきか所有しておりますわ。リンが管理していますので、たのめば貸してもらえると思いますわよ」


……そうだったのか。


船まで所有しているとは、つくづくヴィオーネは大手なのだと実感させられる。


「わかった。じゃあリンに相談してみることにするよ。教えてくれてありがとな」


「いえいえ」


とキルティナは答えた。


俺はリンを探す。


見当たらない。


どうやら商会オフィスにはいないようだ。


居場所に心当たりがないか、オフィス職員に聞いて回ってみると、どうやらリンは【メイドン島】にいるらしい。


メイドン島にはルナトリア5号店と、ヴィオーネ4号店がある。


おそらく両店舗りょうてんぽ視察しさつをしているのだろう。


なので俺は、メイドン島に向かうことにした。






コルゼン島からわたぶねを乗り継いで……


メイドン島へとたどり着く。


メイドン島はマドリエンヌ領の中では、最大の面積を誇る島だ。


島の中央部ちゅうおうぶに、メイドン・マウンテンと呼ばれる巨大な山が鎮座ちんざする。


この山は火山であり、山頂部さんちょうぶはまるで富士山のように雲をまとっている。


島の中央にいくほど大気が高温こうおんになっているので、島民とうみんは、中央から離れた島端とうたんに街を作り、生活をいとなんでいる。


そんな街の一つ――――


メイドンタウンに俺は訪れていた。


芝生しばふのうえに、白くて四角しかく家々いえいえが立ち並ぶ、のどかな街だ。


「……」


俺はリンを探そうと思ったが、その前に。


(せっかくメイドン島に来たんだし、島の名物めいぶつでも食ってからにするか)


この島では、温泉卵おんせんたまごが名物となっている。


古くから、火山の間欠泉かんけつせんまった熱水ねっすいを使って、温泉卵を作る風習があるのだ。


フリヴィチという野鳥やちょうの温泉卵らしい。


食べたことがないので、この機会に、食べておこうと思った。


名物料理めいぶつりょうりなので、そのへんの露店でも販売されている。


俺は近くにあった露店で【フリヴィチの温泉卵】を購入した。


持参じさん容器ようきに温泉卵を3つほど入れてもらう。


歩きながら、食べる。


「うん、うまい」


1つ食べて感動する。


鶏卵けいらんで作る温泉卵より、ふわとろ。


黄身きみ甘味あまみ卵白らんぱく旨味うまみ


加えてスパイシーな味わいがある。


このスパイシーさは、調味料によるものではなく、フリヴィチの卵に特有の味なのであろう。


独特で面白い風味だった。


そのまま残り2つの温泉卵も口に運ぶ。


「ふう……」


食べ終わったら、今度こそリンを探すことにした。

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