第5章79話:傘下

1ヶ月後。


ヴィオーネがルナトリアの傘下として、活動を開始する。


ところで……


ヴィオーネがルナトリアの傘下さんかで、営業をおこなうには、レストランの看板に追記ついきが必要となる。


現在のヴィオーネの看板には、


【ヴィオーネ】


とだけ書かれている。


しかし、今後は、




【ヴィオーネ・テュオ・ルナトリア】




と記載しなければならない。


テュオとは異世界の言語で、加盟している、といった意味の言葉だ。


そしてヴィオーネ・テュオ・ルナトリアで『ルナトリアに加盟しているヴィオーネ』という意味になる。


つまり傘下に入っているということを示しているわけだ。


この看板をかかげることで、ようやく正式にヴィオーネが、ルナトリアのもとで営業を開始することができる。





ヴィオーネの看板にテュオ・ルナトリアの文字が刻まれたこと。


この事実はすぐさま、マドリエンヌりょうのあちこちに広まった。


最大手さいおおてだったヴィオーネが、ルナトリアに屈した――――


これはルナトリアによる新時代しんじだい到来とうらいしたことを示している。


しかもルナトリアはヴィオーネを廃業に追いやったわけではなく……


あくまで傘下さんかに組み込んで、吸収している。


ルナトリアはヴィオーネの積み上げてきた情報やノウハウを取り込んで強くなり……


ヴィオーネもまたルナトリアの料理技術りょうりぎじゅつを得て、パワーアップする。


マドリエンヌ領の王者2人が、共闘きょうとうしながら君臨する、新たな時代がまくけたわけだ。





この情勢じょうせいの変化に、最も敏感に反応したのは、中小ちゅうしょうレストランたちだ。


特に、マドリエンヌ領で魚料理さかなりょうりをいとなんでいたレストランの店主てんしゅたちは、恐々きょうきょうとした。


もともとルナトリアとヴィオーネが、それぞれ単体で暴れていたときでさえ、他の店は太刀打たちうちできなかったのだ。


ましてや両者りょうしゃが、上下関係があるとはいえ共闘することになったのであれば、ますます他店主たてんしゅたちは苦境くきょうに追いやられる。


ルナトリア&ヴィオーネの圧倒的な支配力に、真っ向から立ち向かうのは不可能であり……


全ての顧客こきゃくを根こそぎ奪われて、破滅に追いやられるのは時間の問題であった。


それをいち早く理解した店主たちは、すぐさまキルティナ商会へ書簡しょかんを送り……


自分たちもルナトリアの傘下に入れてほしい、と懇願こんがんした。


これはルナトリア側からすると、嬉しい流れであった。


潰しあったり競ったりすることなく、降伏宣言こうふくせんげんをしてくれるなら、極めてラクだからだ。


ただ一方で、あっちもこっちもレストランを傘下に入れるのは、管理が大変になるだろう。


ゆえにキルティナは、これらの中小レストランを、ルナトリアではなく、ヴィオーネの傘下につけて……


ヴィオーネのおさであるリンに管理させることにした。


これを企業経営きぎょうけいえいにたとえると、




親会社おやがいしゃがルナトリア


子会社こがいしゃがヴィオーネ


孫会社まごがいしゃが中小レストランたち




……といった図式になる。


このように体系的な契約関係をとることによって、傘下にある商会たちを効率よく管理することができる。


また、傘下の商会から利益の一部を吸い上げることによって……


キルティナ商会の収益は急激に拡大していくことになった。




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