第5章78話:料理の伝授

翌日から、ヴィオーネをキルティナ商会へと受け入れる手続てつづきが始まった。


まず書類上しょるいじょうの手続きをおこなう。


ヴィオーネが傘下になることを書類に記し、商業ギルドへと提出する。





それが終わったら、次に技術指導ぎじゅつしどうだ。


ルナトリアがあつかう料理のレシピを、ヴィオーネの料理人にも伝授する。


このとき、料理人がレシピを口外こうがいしないように【契約魔法けいやくまほう】を交わしておく。


契約魔法によって交わされた約束事は、精霊の力によって、必ず守られる。


レシピが漏洩ろうえいする心配はなくなるわけだ。


ちなみにルナトリアの料理人にも、同様の契約魔法を適用しており、おかげでレシピの漏洩は一度も起こっていない。





なおヴィオーネへの料理指導りょうりしどうは、もちろん、俺がおこなう。


――――キルティナ商会の食堂。


俺はヴィオーネの料理人たちに、ルナトリアであつかっている焼き魚や、唐揚げの作り方を教えていた。


「と、このように包丁で切ったあとは、塩揉しおもみをして、なるべく水気みずけを切る。水分にも近づけない。そうすると魚の身が引き締まるんだ」


といったように、美味しい魚の作り方を解説していく。


料理人が口々に言う。


「なるほど……こんな技法が」


「だからルナトリアの魚は美味しいんですね」


「あのふっくらとした焼き魚の食感は、この処理のおかげなのかしら」


「というか……包丁さばきが凄い」


感嘆したり、分析を口にする料理人たち。


次にタラバガニのバターソテーも披露した。


すると料理人の一人が尋ねてくる。


「あの……見慣れない調味料が多いですが、全部ラング様が開発なさっておられるのですか?」


「ああ、そうだ。俺の【料理錬金術】というユニークスキルで開発している」


と俺は答えた。


すると料理人が、質問を重ねる。


「……とすると、私たちは、ラング様のユニークスキルがないと、同じ料理を作れないということでしょうか」


もっともな疑問である。


俺は答えた。


「いいや、そんなことはない。……そうだな、せっかくだし、調味料の作り方についても教えておこうか」


ちょうどアイテムバッグの中に、バターメーカーを所持していたので、取り出すことにした。


木製のバター製造機である。


箱のような形をしていて、外にハンドルがついている。


「たとえばこのバターという調味料は、牛乳を使って作るんだ。しぼりたての牛乳を加熱処理かねつしょりしたあと、容器に入れ、このようにかき回すことで作ることができる」


俺はバターメーカーの蓋をあけて牛乳を入れる。


蓋を閉じる。


あとは外についているハンドルをぐるぐると回した。


「まあ、すぐにバターは完成しない。小一時間こいちじかんほど、ハンドルを回し続ければ、少しずつバターっぽくなっていくはずだ」


「それだけで、ラング様の調味料が作れるんですね」


「すごい道具ですね」


と料理人たちが目を輝かせた。


他にもケチャップやマヨネーズなど、俺の【料理錬金術】がなくても作れるもののレシピを、伝えていく。


もちろん『決して調味料のレシピを口外してはならない』という契約魔法を交わしておく。


これで漏洩ろうえいを心配することなく、レシピを伝授することができる。


このあと日が暮れるまで、俺はさまざまな料理や調味料について、ヴィオーネの料理人たちに教えた。

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