第5章77話:面会

<ラング視点>


真冬まふゆが過ぎた。


まだ雪が降っているものの、そろそろ春のきざしが見え始める晩冬ばんとう時節じせつ


レティンウォール島・ヴィオーネ商会より書簡しょかんが届いた。


内容は、商会長のリンより、面会のもうである。


(商会長リン……?)


と俺は首をかしげた。


ヴィオーネ商会のトップはカノリアのはずだが……


とりあえずキルティナが、この書簡に返事を出し、5日後。


わがキルティナ商会のオフィスにて、面会をおこなうことになった。


商会オフィス4階。


会議室にて。


キルティナ、


リン、


俺とテュカベリルの4人がいた。


ルウなどは用事で出ているため、不在である。


「お初にお目にかかりますわ。わたくしが、とう商会しょうかい会長のキルティナです」


とキルティナがあいさつをした。


「私はヴィオーネ商会・現会長げんかいちょうのリンです。このたびは面会に応じていただき、ありがとうございます」


とリンもあいさつをする。


リンは、話を切り出した。


「本日は、キルティナ商会へ、お願いをしたいことがあって参りました」


「お願いしたいことですの?」


「はい。どうか我々、ヴィオーネ商会を、キルティナ商会の傘下さんかに加えていただけないでしょうか」


「……!」


キルティナがわずかに目を見開く。


しかし、ある程度は想定していた申し出なのだろう、驚きの規模は大きくない。


キルティナは尋ねた。


「なるほど、用件はわかりましたわ。ただ、一つお尋ねしたいことがあります」


「なんでしょう?」


「現在あなたがヴィオーネの商会長を担当しているようですが……カノリアさんはどうなさいましたの?」


その質問は、俺が気になっていたことでもある。


リンは答えた。


「カノリアは、わが商会にふさわしくないという判断により、商会から除名処分じょめいしょぶんといたしました」


「なっ……!?」


さすがにキルティナも、俺も驚愕した。


カノリアがヴィオーネから追放されたのか……


リンが端的に説明する。


「カノリアはルナトリアに異様な敵意を持っておりましたし、ルナトリアの料理に対抗するために、多大な借金をつくり、ヴィオーネの経営を圧迫しました。それが除名の理由です」


「なるほど……」


「キルティナ商会の皆様にとっても、カノリアの存在は好ましくないものでしょう。彼女をヴィオーネから追放したことを、我らの誠意と受け取っていただきたく思います」


「ふむ」


トップである商会長がいきなりクビにされるとは、ヴィオーネの経営スタイルはすごいな。


キルティナは言った。


「キルティナ商会の傘下に入るということは、今後、ヴィオーネは我々の方針にしたがい、手足となって動いていただきます。ヴィオーネがあげた利益の一部も、わがキルティナ商会へ献上することになりますが、よろしいんですの?」


「もちろんです」


とリンは即答した。


傘下に入ると、さまざまな制約がつく。


自由に経営方針を決めることは難しくなり、何をするにもキルティナ商会の許可をあおがなければいけなくなる。


ただし、そのかわりキルティナ商会はヴィオーネを庇護ひごする義務が生じる。


庇護……とは、具体的にいえば、倒産しないように守ることだ。


ここには資金提供しきんていきょうなど、さまざまな援助が含まれる。


(いずれにしても、ヴィオーネにとっては、大きな決断だな)


最大手さいおおてであったヴィオーネ。


ルナトリアの傘下に入るということは、最大手の地位を捨てるということ。


しかし、そうしなければ生き残れないと判断したのだろう。


大胆な決断である。


「わかりましたわ」


とキルティナは前置まえおきしてから、告げた。


「キルティナ商会・商会長である私のげんをもって、ヴィオーネを迎え入れることを認めましょう」


「……! ありがとうございます!」


とリンは、椅子から立ち上がり、礼をした。


「ヴィオーネ商会は、キルティナ商会のために、粉骨砕身ふんこつさいしん、尽くすことを誓います。これからよろしくお願いします」


リンの言葉に、キルティナは満足げに微笑んだ。

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