第5章76話:会議終了

「カノリアさんのせいで、現在、ヴィオーネの経営はくるまです。赤字はもちろん、借金もかさんでおります」


リンは降格および除名の理由を説明する。


「よって、カノリアさんには責任を取って降格していただきます。しかし、ただの降格では、我々にも借金の返済義務へんさいぎむが降りかかってきますので、これを拒否するために、カノリアさんの除名もあわせて提案させていただきます」


除名しなければ、カノリアが作った借金は全員で返していく形式か、もしくは、新たな商会長が負担することになる。


しかしカノリアが除名されれば、全ての借金をカノリア一人が抱えることになる。


「わ、私ひとりに、借金を背負わせるつもりですか!?」


とカノリアが焦りの表情で尋ねた。


リンが答える。


「そもそもあなたが勝手に作った借金でしょう。我々は反対したのに、それを押しきって借りた金を、どうして我々が返さなくてはいけないのですか?」


「くっ……」


カノリアが歯噛はがみする。


リンは司会する。


採決さいけつを取ります。カノリアさんの降格および除名について、賛成の方は挙手をお願いします」


この場にいる会議の参加者は、カノリアをのぞいて全部で7名。


降格の場合は最低5名の賛成。


除名については7名の全会一致ぜんかいいっちが必要であるが……。


まず、1人。


2人。


3人……と手を挙げていく。


「ちょ、ちょっとお待ちなさい! みなさん、冷静になってください。わ、私を降格に追い込むなんて、そんなバカげたこと」


「バカげたことだと思わない者は、多いようですよ」


4人。


5人の挙手。


これで降格は確定だ。


そして、6人目。


「ひっ……」


リン以外の6人が、挙手した。


カノリアが青ざめる。


あとはリンが挙手をすれば、カノリアは除名である。


「り、リン……わかっていますよね?」


とカノリアがおそるおそる告げる。


「このヴィオーネは、私の力で大きくなったんですよ!! その功を無視するつもりですか!?」


「しかし、いまはあなたのせいで破産しようとしていますよね」


「!!」


「我々はこれから、あなたのせいで膨らんだ赤字を取り返していかなくてはいけません。ですから――――」


リンが、最後の手を挙げる。


これで7名だ。


「あなたにはご退会たいかいいただきます。ルナトリアと和解するにあたって、あなたは邪魔でしかありませんから」


カノリアを追放することで、ルナトリアに誠意を見せる。


そのうえで傘下さんかに入ることを申し出る。


これがヴィオーネの経営判断けいえいはんだんである。


「あ、あぁ……ッ」


カノリアが涙を浮かべた。


リンが無慈悲むじひに告げた。


「では、全会一致により、カノリアさんの降格および除名を決定いたします!」


そしてリンが、会議室に控えていた戦士たちに目を向ける。


彼らはヴィオーネ幹部の護衛を担当している者たちだ。


「カノリアさんを商会の外へつまみ出してください」


「は、はいっ!」


と彼らは命令を聞いて、カノリアを取り押さえにかかった。


カノリアは呆然としていたが、すぐに我に返り……


憤怒ふんど形相ぎょうそうを浮かべた。


「リィイイイイインッ!!! おまええええええええっ!!」


カノリアがリンに掴みかかろうとした。


それを、護衛の戦士たちが取り押さえる。


護衛の戦士たちに羽交はがめにされながら、カノリアが叫んだ。


「私をめたな!? ヴィオーネを乗っ取るために、全員に根回しをして、造反ぞうはんさせて! この奸物かんぶつがぁ~~ッ!!」


「……根回ねまわしなどしなくても、全員、あなたのやり方には不満を抱いておりましたよ」


「!!」


「ですから、あなたの自業自得じごうじとくです。もう少し現実的な経営をしていてくれたら、こんなことにはならなかったと思いますよ」


リンが静かにそう告げて、ふたたび護衛たちに命令をした。


「さ、早く連れ出してください。我々は会議の続きをしなければなりません」


「はい!」


と護衛の戦士たちが、カノリアを連れだす。


会議室の扉が閉められるまで、カノリアは発狂し、わめきちらしていた。




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