第5章75話:要求

一人の男性が言う。


「あの……もう諦めませんか?」


「なんですって?」


「ルナトリアに勝つのは、無理です。それに、これ以上予算をかけるのは、さすがに厳しいでしょう」


すでにルナトリアに対抗して、ヴィオーネでも新しい冬料理ふゆりょうりを投入していた。


宣伝費せんでんひ余念よねんなくかけて、おこなっていた。


しかし、ことごとく失敗。


ルナトリアから話題を取り返すことはできず、ただ赤字だけがヴィオーネに蓄積していた。


「ここで退いたら、ヴィオーネは最大手ではいられなくなります! それは絶対に認めてはならないことです!」


カノリアは、そう力説りきせつする。


カノリアの信念は間違っていない。


最大手さいおおてになること、最大手でつづけること。


それは極めて重要だし、2番に甘んじていいことなど一つもない。


とはいえ。


今回ばかりは、相手が悪すぎた。


ヴィオーネでは、どうあがいたってルナトリアに勝てない。


それは、この会議の参加者は誰もが理解していた。


……カノリア以外は。


「新しい料理を考えましょう! そして、借金をしてでも、宣伝予算を用意して――――」


「カノリアさん」


とリンが口を挟んだ。


リンが要求する。


「ルナトリアへの降伏を宣言してください」


「なっ!?」


「そして、ルナトリアの傘下さんかに入ることを、ご決断なさってください。ヴィオーネが生き残るためには、もうそれしかありません」


「馬鹿なことを言わないでください!」


とカノリアが激怒する。


「どうして私が、ヴィオーネが! ルナトリアの下につかなければいけないんですか! そんな屈辱を受け入れるぐらいなら、死んだほうがマシです!」


「……どうしても、ですか?」


「どうしてもです!」


リンの問いに、カノリアが即答する。


リンはため息をついた。


そして、こう述べる。


「それでは……申し訳ありませんが、カノリアさんに対して、不信任決議ふしんにんけつぎを提案させていただきます!」


「!!?」


カノリアが驚愕した。


「わ、私に降格を求めると?」


「降格……および、商会からの除名ですね。ルナトリアへ私怨しえんを募らせているあなたの存在は、ヴィオーネのえきにはならない」


「なっ……」


トップからの降格。


および除名じょめい処分しょぶん


リンの要求に、カノリアは狼狽ろうばいする。

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