第5章73話:カニ鍋

さらに1ヶ月が経つ。


5つの島ではじめた、5店舗の同時どうじ開店かいてん


いまのところ、全ての島で成功を収めているようだ。





ところで、冬が深まってきている。


季節としては年末年始ねんまつねんし


真冬まふゆだ。


雪がしんしんと降り積もり、コルゼン島はすっかり雪景色ゆきげしき


山や森、建物など、どこでも積雪せきせつし、しま全体ぜんたいしろに染まっている。


カレン島やレティンウォール島など、別の島でも同様の状態になっていた。


こんな真冬でも、海を眺めれば、漁に出ていく漁船ぎょせんの姿がある。


「漁師さんたちには頭が上がらないな」


冬でも魚やカニが滞りなく入荷にゅうかできているのは、彼らのおかげだ。


俺は海に向かって感謝の気持ちをささげた。






さて。


ここまで冬が極まってきたところで、俺は新しいカニ料理を投下することにした。


カニ鍋である。


寒い冬に食べたいホット商品として、考案した。


さらにたくさん魚を入れて魚介ぎょかいなべにする。


本当は野菜を入れたいところだったが、冬は野菜が高騰こうとうしがちなので、やめておくことにした。


「……よし、できた」


商会オフィスの厨房ちゅうぼうを借りて、鍋を完成させる。


カニの海鮮かいせんなべだ。


使った具材はカニと魚と、少量の野菜、キノコ。


費用はそれほどかからない。


販売すれば、ちゃんと儲けが出るだろう。


「おおっ!」


と、隣にいたテュカベリルが鍋をのぞきこんできた。


「めちゃくちゃうまそうではないか! これは鍋か?」


「ああ。カニの海鮮鍋だ。……食べてみるか?」


「うむ。食いたいぞ!」


テュカベリルは全力で食欲を示した。


――――テュカベリルが俺の護衛となってから、約束通り、俺はメシを振舞っている。


とはいえ毎日ではない。


だいたい週1~2回ぐらいのペースだ。


テュカベリルが数日おきにメシを要求してくるので、それにあわせて作っているスタイルである。


「よし。たんと召し上がれ」


と食堂へと鍋を運んでから、俺は言った。


テュカベリルが食べ始める。


「もぐもぐ……うむむむ!!! 美味うまい! カニもいいが、スープも美味いな!」


「冬に鍋を食べるとあたたまるよな」


「そうじゃな。身体の中から熱が広がって、心地いいわい」


テュカベリルは満足げに言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る