第5章70話:リンの考え

<ヴィオーネ視点・続き>


そのとき、会議の参加者である一人の男性が告げる。


「そ、そうはいいましてもカノリア様。ルナトリアは極めて手強てごわい相手です。戦うのではなく、うまく付き合うべきでは……」


「わ、わたしもそう思います。なんなら、ルナトリアの傘下さんかに入ることも検討すべきだと思います」


と、別の男性が同意する。


すると、カノリアは発狂はっきょうした。


「ルナトリアの傘下に入るですって!? 言語道断ごんごどうだんです! あなたたちは、勝負をあきらめるのですか!? ヴィオーネには、あらゆる技術やノウハウがあるのに!」


その技術とノウハウを結集させても、ルナトリアに惨敗したんじゃないか……


会議の参加者の多くが、そう述べたかったが、ぐっとこらえた。


カノリアは告げる。


「だいたい1週間後に開店なんて、うちへのあてつけです。ルナトリアからの挑発ですよ!」


かつてヴィオーネは、1週間という電撃的でんげきてきな速さで開店し、ルナトリアにぶつけたことがある。


今回のルナトリアのやり方は、まるでそのときの仕返しかえしのようだ。


「ここで退いては、ヴィオーネの名折なおれですよ! 大手レストランの意地を見せなければなりません!!」


気炎きえんをあげるカノリアに対し、リンは冷静に考えていた。


(ヴィオーネの味では、ルナトリアに勝てない……)


ヴィオーネ6号店が完膚かんぷなきまでの敗北はいぼくきっしたルナトリアの味。


リンも興味があったので、コルゼン島に訪れて、食べてみたことがあったが……


衝撃を受けた。


ルナトリアの料理は、時代を変えてしまうようなレベルに達していると。


料理人であるリンには、すぐに理解できた。


だから。


(この戦いは勝てない。カノリアさんに、降伏宣言こうふくせんげんをしてもらうしかない)


もしここで、ルナトリアと争うことを選んだなら……


ヴィオーネ6号店のときのように、多大な借金を抱えて、事業じぎょう撤退てったいに追い込まれかねない。


ゆえに争うのではなく、ルナトリアの邪魔をしない範囲で、細々と商売をやっていく方針に切り替えるべきである。


しかし、カノリアは徹底抗戦てっていこうせんの構えである。


(ならば……カノリアさんを追放することも考えるべきか……)


ヴィオーネの経営は合議制ごうぎせいである。


ゆえに、不信任ふしんにん決議けつぎをおこない、カノリアをトップの座から引きずりおろすことも可能なのだ。


まあ、よほどの事態がない限り、トップが失脚しっきゃくすることはないが……


今回は「よほどの事態」である。


ちなみにいえば、ルナトリアと敵対したのはカノリアが原因でもある。


今回のルナトリアは、まるでヴィオーネに宣戦布告せんせんふこくをするかのような動きだ。


つまりルナトリアに目をつけられているのだ、うちは。


その理由は、かつてカノリアがルナトリアを潰す気で商売をやったことにあるだろう。


(ルナトリアに敵視されているのはカノリアのせい。なら、カノリアの首を切れば、許してもらえるかもしれない)


カノリアを追放することで、こちらの誠意を示す。


そのうえでルナトリアの傘下さんかれてもらう。


リンの頭の中に、そのような絵図えずが浮かんだ。


「とにかく新メニューを考え、ルナトリアと対抗します! ルナトリアに打ち勝つつもりで動きなさい!」


とカノリアが告げた。


その言葉を、リンは冷めた表情で聞いていた。



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