第4章65話:初冬

季節は流れる。


秋は過ぎていき、初冬しょとうになる。


うろこ雲は消えて、空は淡い水色が広がっていた。


そこからしんしんと雪が降っている。


紅葉や黄葉は枯れて、コルゼン島の山には少しずつ雪が降り積もるようになった。





冬は寒い。


だんらないとこごえてしまう。


ただし異世界では暖房だんぼう暖炉だんろをあまり使わない。


代わりに、火魔石ひませきを使う。


くすんだ赤色の火魔石。


その火魔石をランタンにセットする。


そして魔力を送り込めば、くすんだ赤色が鮮やかな色に変わり、熱を放つ。


その熱で暖を取ることもできるし……


夜ならば、あかりにもなる。


この【火魔石ひませきランタン】は、異世界の冬における必需品ひつじゅひんだ。


もちろん、俺たちも使う。






そして俺は……


キルティナに頼まれていた冬料理ふゆりょうりを、いよいよお披露目ひろめすることにした。


3つ料理を考えたが、そのうち、メインとなるのは、


『タラバガニのガーリックソテー』


……である。


俺が異世界においてカニに注目したのは、何より安いからである。


――――前世でのカニはちょっとした高級食材こうきゅうしょくざいだ。


おいそれと店に出すことはできないし、客も気軽に食べることはできない。


しかし、異世界でのカニは違う。


異世界でカニは安い食材の一種なのだ。


理由は、よくれる食材であるからだ。


カニの漁獲量ぎょかくりょうが多いので、必然的に値段も安くなる。


食卓での位置づけとしては、エビなどと非常に近く、日常的に食べられている。


しかしたいていは素焼きか塩焼きだ。


今回、俺がやるのはバターによるソテー。


バターという調味料は未発見であり、そのソテーは、異世界で初めてのものとなるだろう。






というわけで。


さっそく、キルティナたちに食べてもらうことにした。


商会の食堂にて、俺は料理をこしらえる。


【タラバガニのガーリックソテー】のレシピは、


タラバガニに、


すりおろしにんにくとオリーブオイルを使いながら、


バターで炒める。


……というシンプルなもの。


もともと旨味うまみの強いタラバガニに、にんにくのガーリック風味ふうみはとてもよくマッチする。


身が硬くならないよう、焼きすぎないように気をつける。


さて……


完成したら、4階の会議室に運ぶ。


会議室にいるのは、


キルティナ、


シャロン、


ルウ、


ユミナ、


テュカベリル、


……以上の5人である。


ひとりひとりの前に、ホクホクのガーリックソテーを差し出す。




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