第4章61話:護衛

要求はわかる。


だが……気軽に雇えない理由がある。


俺は小声こごえで告げる。


「お前は魔族だろ? 仮に雇ったとして、お前が魔族だとバレたら大変だ」


「人間の中には、魔族を武力として雇っている者もいると聞くが?」


とテュカベリルが言い返してくる。


俺は告げた。


「それは人類に敵対的じゃない魔族に限る。お前は敵対的だろ?」


魔族の中には、人類に敵対的な勢力と、そうではない勢力がいる。


前者とは人類は争っているが、後者の場合、友好関係ゆうこうかんけいを結んでいることも多い。


だが……テュカベリルはどう考えても前者だ。


仲良くはできない。


「たしかに、わらわの所属する魔族は人類に敵対的じゃ」


「ほらな」


「じゃから、わらわは自分の勢力を脱退することにしよう」


「は?」


俺はぽかんとした。


テュカベリルはアイテムバッグから、バッジを取り出す。


「このバッジが何かわかるか?」


と尋ねてきた。


俺は答える。


「……魔族の所属をあらわすバッジか」


「そうじゃ。これはわらわが、グラージア族に所属していることを証明するバッジじゃ。これを壊す」


「なっ……」


俺が何かを言う前に。


テュカベリルはバッジを握りつぶした。


ぐしゃぐしゃに破壊されたバッジを、俺に見せつけてくる。


「……これでわらわはグラージア族の所属ではなくなり、無所属むしょぞくとなった。つまりわらわは、人類に敵対する魔族から脱退したことになる」


俺は驚愕する。


自分の所属を破壊するなんて……


人間でたとえるなら、国籍こくせきをみずから捨てるぐらいの衝撃があるはずだ。


俺は尋ねた。


「な、なんでそこまで?」


「決まっておろう、それだけおぬしの料理を気に入ったからじゃ」


「……」


俺はしばし唖然あぜんとする。


しかし、やがて俺は笑った。


「くく、そうかよ……はぁ。そこまでされたら、しょうがねえな」


「お?」


「わかったよ。あんたを護衛として雇う!」


「おお! 本当か?」


「ああ」


俺の料理をこれからも食べるために、自分の所属を捨て去ったテュカベリル。


そこまで覚悟を見せられては、応じないわけにはいかない。


「だけど約束しろ。今後は人間を襲うなよ?」


と俺は忠告しておいた。


テュカベリルはうなずく。


「ああ、わかっておる。しかし、おぬしを襲おうとしている者ならば、例外じゃぞ?」


「おう。そんときは頼むわ」


と俺は言った。


かくしてテュカベリルが俺の護衛として働くことになるのだった。


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