第4章59話:料理完成

さて、何を作ろうか?


相手は上級魔族じょうきゅうまぞく


人間でいえば貴族のような生き物だが……


たぶん雑食ざっしょくだろう。


生身なまみの人間を喰おうとしていたぐらいだしな。


美味うまい料理は食べてきただろうが、とくべつしたえているわけではないはず。


だったら、そうだな……


(貴族と庶民、どちらでも楽しめる料理にするか)


そういうちょうど良い料理といえば。


ムニエルなんてどうだろうか?


庶民にも、貴族にも、好評をもらえる料理だと思う。


「……よし」


俺は食材を確認する。


ムニエルといえばさけだが……


残念ながら、現在の食堂に鮭はない。


なので白身魚しろみざかなを使うことにした。


ルカベラという魚を使う。


ルカベラとは、異世界で獲れる、少し大きめのベラである。


まずはフライパンに、


バター


パセリ


料理酒


レモン



……を入れて焼き、ソースを作る。


このソースに刻んだパセリも一緒に入れておく。


そのとき、背後で俺の調理を見学していた女性2人が語り合う。


「うわぁ……レモンのしぼじるを入れたよ?」


「味がまったく予想できないわね」


「ラング様はプロを越えたプロだからね。きっと私たちでは想像もつかない料理をおつくりになっているんだわ」


「ええ、そうね!」


俺はそんな声を背中に聞きつつ……


別のフライパンを用意する。


ルカベラをにしてから、小麦粉こむぎこをまぶしてフライパンで焼く。


焼き上がったら、ソースをルカベラに垂らした。


よし……


完成だ。


俺はキッチンを出て、出来上できあがった料理を食堂へと持っていった。


「できたぞ。ルカベラのムニエルだ」


「……ほう」


テュカベリルが、ムニエルを見て、感嘆かんたんの声を漏らす。


「見たことがない料理だが……ふむ。思ったより美味うまそうではないか? おぬしが料理人りょうりにんというのは、本当のようじゃな?」


「ああ、ウソは言ってないぞ」


「ふむ。しかし、肝心かんじんなのは味じゃ。見た目やニオイが良くても、味がまずければ意味がないぞ」


「そうだな。是非ぜひ食ってみてくれ」


「うむ」


テュカベリルがナイフとフォークを手に取る。


ナイフで切る。


フォークで突き刺して……ムニエルを口に放り込む。


咀嚼そしゃくするテュカベリル。


次の瞬間。


「んん!!?」


テュカベリルが目をカッと見開いた。


「な、ななななななんじゃこれは!?」


「どうだ? 味は?」


と俺が尋ねる。


テュカベリルは叫ぶように言った。


美味うまい!! わらわが食べてきたどんな料理よりも! これは絶品ぜっぴんぞ!!」


「……そうか。よかった」


「レモンの風味と、魚のふっくらした食感がじつい! 味がしっかりと濃厚なのに、上品なフレッシュさもあるな!」


「ああ、そういうところを意識した料理なんだ」


と俺は応じる。


このムニエルには、ルカベラ本来の旨味うまみに、バターが加わっているので、味わいは濃厚だ。


しかし決してこってりしているわけではなく、レモンによってあぶらっぽさが中和ちゅうわされている。


テュカベリルが『上品なフレッシュさ』と表現した味わいは、まさにレモンの持つ酸味さんみ爽快感そうかいかんのことだろう。


レモンの酸味さんみによって、バターのあぶらみを打ち消し、さっぱりとした口当くちあたりを実現しているのが、ムニエルという料理なのだ。


テュカベリルが再度、ムニエルを口にして「ん~っ」と満足げにうなずく。


「おぬしは確かに、料理に関してえらそうなクチを叩いただけはあるな。このムニエルとかいう料理は、魔族界まぞくかい宮廷料理きゅうていりょうりとしても通用するぞ」


そうテュカベリルが言い、夢中になってムニエルを食べていく。


満足してもらえたようで、俺は微笑みを浮かべるのだった。






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