第4章57話:魔族2

すると女性が冷笑れいしょうする。


莫迦者ばかものが。美味いメシならここにあろう」


「俺は食いモンじゃねえ!」


「いいや、ものじゃ。わらわたち魔族にとってはな」


魔族にとって、人間は、食事の一つだ。


別に人間じゃないと栄養を摂取できないわけではないのだが、食料の一つなので、人間を食う魔族もたびたび現れる。


このまま抵抗せずにいると、俺はこの女に喰われることになるだろう。


「人間を食うより美味うまいもんを、俺は用意できる!」


と俺はさけんだ。


女魔族はせせら笑った。


戯言ざれごとかすな。どうせ命乞いのちごいじゃろう。あきらめてわらわに喰われろ」


「俺は料理人りょうりにんだ!!」


と俺は再度、さけぶ。


「俺は大手の料理店りょうりてんよりも美味い料理を用意できる! あんただって絶賛するような料理を用意できる!」


「……ほう」


と女魔族は興味を示した。


「わらわが絶賛する料理を用意できるとな? わらわは、魔将ましょうと呼ばれる上級魔族じょうきゅうまぞくじゃぞ?」


上級魔族……


俺は驚く。


「いわば貴族のような存在。それでも、わらわの舌を満たせるというのか?」


「……ああ、できる!」


と俺は断言した。


「貴族だろうと魔将だろうと関係ない。必ず美味いと言わせてやるぜ!」


「……そうか」


女魔族が目を閉じる。


「よかろう」


目を開ける女魔族。


その目には闇色が消え、白目しろめに戻っていた。


女魔族が俺から手を離して、立ち上がった。


俺は座ったまま、女魔族を見上げる。


女魔族は言った。


「ならば料理を作ってみよ」


「……おう、わかった」


話は決まった。


俺は立ち上がった。


女魔族が告げた。


「一応、名乗っておく。わらわはテュカベリルと言う」


「俺はラングだ」


「そうか、ラング。さあ、わらわの料理を準備せよ」


「ああ。……その前に」


俺は護衛の女性たちに目を向けた。


依然として砂浜に倒れた護衛たち。


「あいつら……あんたが倒したんだよな?」


「そうじゃな」


「……殺してないよな?」


「ああ。あとで喰ってやろうと思っていたが、殺してはおらん」


とテュカベリルは答える。


俺はホッと安堵あんどした。


「あいつらを安全な場所へ運ぶ。手伝え」


「ちっ……しょうがないのう」


テュカベリルが岩礁がんしょうを飛び降り、ひょいっと護衛2人を持ち上げた。


両腕りょううでわきに、2人を抱える形だ。


その状態でテュカベリルは言った。


「ほれ、いくぞ」


「お、おう」


と俺は答える。


俺は言った。


「まずは街へ向かう」


「わかった。……言っておくが、わらわに料理を振舞ふるまうと見せかけて、助けを呼ぼうなどと考えるなよ? そのときは街ごと、おぬしを滅ぼしてやる」


「……わかったよ」


上級魔族が暴れたら、マジで街が壊滅しかねない。


変な気を起こすのはやめておこう。


そうきもめいじながら、俺はアイリーンの街へと足を向けた。

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