第4章56話:魔族

髪は肩にかかるぐらいでウェーブがかった紫髪。


瞳の色は赤色。


吊り目で、気の強そうな感じだ。


黒い水着を着たような格好をしている。


海水浴かいすいよくか?


……こんな時期に?


まあ、秋でも海水浴をしたい人もいるか。


趣味は人それぞれ。


とやかく言うことではないな。


俺は女性から視線を外そうとした。


……が。


「……え?」


視界の端に、異常をとらえる。


俺の護衛役ごえいやくだった女性2人が、岩礁がんしょうの下の砂浜に倒れている。


いったい何が……?


混乱する俺に、さきほどの女性が呼びかけてくる。


「おい」


「……?」


俺は再度、女性に視線を向ける。


女性は俺を見ている。


俺以外の誰かに話しかけているわけではないようだ。


「血と魔力をよこせ、人間」


「……え?」


女性は、ずかずかとこちらに向かって歩いてきた。


いきなり距離を詰められてビビった俺は、慌てて立ち上がろうとする……が。


「うぐっ!!?」


その女性が俺の肩をつかんで、いきなり地面に押し倒してきた。


「な、なにしやがる!?」


と俺は怒鳴る。


俺を見下ろす女性。


しかし、さきほどと様相ようそうが違っていた。


女性の白目しろめの部分に、闇色やみいろが広がっていたのだ。


その闇の中心で、赤い瞳が光る。


こ、こいつ……


魔族か!?


俺の護衛を倒したのも、こいつなのだろう。


俺は抵抗しようとする。


「離せ……この!」


だが魔族の女性は、ものすごい力で俺を押さえつけている。


まったく振り払える気がしない。


や、やばい。


「ふふふふ。久しぶりの食事じゃ」


女性がしたなめずりをした。


われる!?


俺は恐怖にられそうになったが……そのとき。


ぐうううぅぅ……ぐるるるる……!


「……!」


ぐきゅるるるるるるぅう……!


「……」


音が鳴る。


女性の腹からだ。


恐怖が一瞬、やわらいで、脱力しそうになる。


「……う」


と女性が短くつぶやいて、歯をむきだしにした。


俺は慌てて叫んだ。


「ま、待て!! メシをくれてやる!」


「……!」


女性の動きが止まる。


「腹が減ってるんだろ!? 美味いメシを食わせてやるよ!」


と俺は必死で提案した。

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