第4章48話:商会オフィス

店主候補てんしゅこうほを探し……


無事に発見することができた。


名前はミレーユという。


肩にかかるぐらいの青髪。黄色い瞳。


はつらつとした女性だ。


俺とキルティナは、ミレーユを次期店主じきてんしゅとして育成をはじめた。


少しずつルナトリアの業務を引き継いでいくつもりだ。








夏が過ぎる。


秋。


陽射ひざしが優しくなった涼しい季節。


コルゼン島の山々やまやまは、紅葉こうよう黄葉おうようの色に染まっており……


空にはうろこ雲がたなびいている。






俺が屋敷を追放されてから、そろそろ半年が経つ。


長いようで短いような半年だった。


異世界の生活にも、とっくに慣れた。


俺はこの日、キルティナに連れられて街を歩いていた。


アイリーン下層かそうの街。


赤い屋根の家や、アパートメントが建ち並ぶ。


ところどころに露店が出ている。


下層の中央にある噴水広場ふんすいひろばを左に曲がり、目抜めぬどおりをまっすぐ進む。


さらに左の横道よこみちに入り、路地ろじを進むと、そこに一つの大きな建物があった。


階建かいだての立派な建物。


レンガづくりの四角しかく建造物けんぞうぶつである。


キルティナは言った。


「わたくしの商会しょうかいオフィスですわ」


その建物が【キルティナ商会】のオフィスであると、彼女は告げる。


俺はぽつりと声を漏らす。


「ここが……」


商会を経営するにあたっては、さまざまな作業が必要となる。


必要書類の作成。


商談。


幹部による会議と意思決定。


そういった商会経営しょうかいけいえいにおける、総合的な仕事をおこなう場所が【商会しょうかいオフィス】である。








商会オフィスの中に入る。


小綺麗こぎれいなロビーを抜けて、最上階さいじょうかい―――4階へとあがった。


会議室に入る。


長いテーブルがあった。


そのテーブルの椅子にシャロンとルウが座っていた。


「あ、ラングくん!」


とシャロンが立ち上がった。


ルウも椅子に座ったまま、こちら振り返る。


「兄さんも、商会オフィスにいらしてたんですか」


「ああ。キルティナの案内でいま来たところだ」


と俺は答える。


キルティナが言った。


「いまからこの4人で会議を行いますわ。着席してくださいませ」


俺はうなずき、手近てぢかな席に座る。


シャロンも席に戻った。


キルティナが上座に着いた。


キルティナが告げた。


「それでは会議を開始いたしますわ」


「会議か……何の話をするんだ?」


と俺は尋ねる。


キルティナが答えた。


「本日の議題は、キルティナ商会の目標と、その目標の実現について話し合おうと思っておりますわ」


「ふむ……」


「その前に……まずキルティナ商会の幹部について紹介させていただきたいと思いますわ」


幹部、ね。


いったいどんなヤツなんだろう?


……と思っていると。


「シャロンさん、ルウさん、改めてラングに自己紹介をお願いいたします」


……え?


「はいはーい! 私こと、シャロン・グレフィンドは、キルティナ商会・政治部門の幹部に就任いたしました! よろしくね!」


……はい?


「私ことルウ・グレフィンドは、同じくキルティナ商会・政治部門の幹部に就任いたしました。よろしくお願いします」


えええ!?


俺は思わず声をあげた。


「シャロンとルウが、商会の幹部になったのか!?」


「そういうことですわ」


とキルティナが肯定した。


まじか……。


いつの間にそんなことに。


俺は驚きを隠せない。



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