第4章47話:キルティナの提案

<ラング視点>


夏の終わり。


ある日の夜。


ルナトリアの店内にて。


俺はテーブルに着いていた。


向かいにキルティナが座る。


キルティナは言った。


「店長の仕事を、少しずつ引き継いでいきなさい」


「引き継ぐ?」


「ええ。いまのあなたははたらめですわよね?」


「まあ、そうだな」


「それを少しずつ解消して、自分の時間を作っていただきたいのです。そのために、店長の引き継ぎをおこなってほしい……ということですわ」


キルティナの発言の意図がよくわからなかった。


そんな俺の困惑を察したのか、キルティナが説明する。


「天才的なレシピや調味料を生む、あなたの才能はとても貴重ですわ。その才能を、大衆料理たいしゅうりょうりを量産する時間についやしてしまうのは、大きな損失だと思いませんか?」


「ふむ……つまり、店のことは他人に任せ、いた時間を作って、レシピや調味料を考えろということか?」


「はい。もちろん、料理に関わることであれば、レシピや調味料だけでなく、さまざまなことに取り組んでいただいて構いませんが」


キルティナは続ける。


「あなたには、レストラン店主としてではなく、もっと広い視野をもって、料理の道をこころざしていただきたいと思いましたの。……余計なお世話でしょうか?」


「いいや」


キルティナの言わんとすることはわかる。


店を持つことは俺の夢だった。


だからレストラン店主をやるのは、とても楽しい。


しかし店主はしょせん、同じ作業の繰り返しだ。


料理において最もワクワクする、創造的でクリエイティブな作業は、ほとんどしない。


たまに新商品や新キャンペーンを考えるときに、少し頭を使うぐらいである。


(料理のために、もっといろんなことをやってみろということか)


異世界には未知の食材がある。


未知の魚がいる。


見たことのない食文化もある。


そういったものに触れ、自分の中に取り入れることで、料理の道は拡大していく。


そのためには、確かに、レストラン店主は時間を取られすぎる。


「キルティナの言いたいことはわかった」


と俺は言った。


「店主の引き継ぎ、ぼちぼちやっていくよ」


「ええ。では……店主候補てんしゅこうほが見つかったら、教えてください」


とキルティナは答える。


その日から、俺は店主探てんしゅさがしを始めるのだった。




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