第4章46話:ロンバート視点2

<他者視点・続き>


そのときだった。


「ぎゃんぎゃんうるさいぞ、ロンバート?」


そう告げる女性の声があった。


「イリネア……」


ロンバートがつぶやきつつ、睨みつける。


現れたのはイリネア・フォン・マドリエンヌ。


身長172cm。


青い髪のロングヘア。髪は先端で切りそろえたぱっつんスタイル。


瞳の色は赤色。


高貴な魔法のローブに身を包んでいる。


彼女は、この【マドリエンヌりょう】の領主たる女性である。


爵位は子爵。


ロンバートと互角の貴族であった。


「貴様! 私の入領にゅうりょうを拒否するとは、どういった了見りょうけんだ!?」


とロンバートは、イリネアに向かって怒鳴った。


イリネアは肩をすくめて答える。


「どういった了見だと? わかりきったことだろ」


「なに!?」


「私は、お前を自分の領地に入れたくない。それだけのことだ」


「……! それは理由になっていないだろう!?」


ロンバートが苛立いらだたしげに問いかける。


イリネアはくすくすと笑う。


「ならば正確に言ってやろう。私は、お前が嫌いだ。嫌いゆえに、お前が最も嫌がることをしたくなる」


「……最も嫌がることだと?」


「ああ。……お前、自分の子息たちに見捨てられたらしいではないか?」


「……!」


ロンバートは顔をしかめる。


彼は歯ぎしりしながら答える。


「息子は確かに、私がみずから追放した。だが、娘たちは違う。ヤツらは、あの愚かな息子を追いかけて出て行ったのだ」


「ふむふむ」


「だがきちんと話しあえば、私の判断の正しさを、娘たちに理解してもらえるだろう! 無能な息子など、存在しないほうがマシだということをな!」


「そうかそうか」


「だからそこを退け! 私は、娘たちと会わねばならんのだ!」


「うんうん、娘たちに会いたいな? 話し合って理解してもらいたいな?」


イリネアはニィッと三日月みかづきのように口をゆがめる。


「だから、私はソレを妨害するのだ!!」


「なっ―――――」


「お前が娘たちに会いたいなら、私は、全力で会わせないようにつとめよう!! 娘たちとの会合かいごうを、全身全霊ぜんしんぜんれいで妨害しよう!! ふふ、ふはははははは!」


「き、貴様ぁ……ッ!!」


ロンバートは血管けっかんがぶちぎれかねないぐらい、憤怒ふんど形相ぎょうそうを浮かべた。


イリネアはカラカラと笑いながら、衛兵たちに言った。


「聞け衛兵ども」


「はっ!」


「ロンバートを決して領地に入れるな。もしロンバートが、強引に立ち入ってこようとしたなら、叩きのめし、海に蹴落けおとして構わん。いいな? 絶対に入れるなよ!」


「はっ!! 了解いたしました!」


衛兵の返事に満足したイリネアがきびすを返す。


静かに立ち去っていく。


その背中に、ロンバートが叫ぶ。


「ま、待て! イリネア! 待たんかぁ!!」


怒気どき懇願こんがんじった声で、イリネアを呼び止めようとするロンバート。


しかしイリネアは、そんなロンバートを完全に無視して、立ち去るのだった。

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