第3章44話:決着

<ラング視点>


俺はヴィオーネ6号店の店内に入る。


いらっしゃいませ……の声はない。


カノリアだけがいた。


他のスタッフは出払っているのか?


まあ、いい。


俺はカノリアに近づいた。


「……何の用ですか」


とカノリアがにらみながら尋ねてきた。


俺は答える。


「いや、ルナトリアの大先輩だいせんぱいであるヴィオーネさんが、どれだけ繁盛しているか見たくてな」


と俺は言ってから、フンと鼻を鳴らした。


「立場が逆になったな?」


「……ッ」


カノリアが歯ぎしりをする。


俺はせせら笑う。


「一つ提案してやるよ――――店をたため。ヴィオーネを廃業しろ」


「なん……ですって!」


カノリアが拳をにぎめる。


「あんたが以前に言ったことだぞ?」


カノリアは、以前、客が来ないルナトリアに対してこう述べた。




『レストランを廃業したらどうか、と言ったのです。ふふふふふ』


『あなたがたの店は人気がありませんし、お客さんもいませんよね?』


『こんな店を経営していても、時間の無駄でしょう? 先は見えているのですから、さっさと商売を打ち切ったほうが賢明ですよ?』





俺はカノリアに告げる。


「あのときの言葉を、そっくりそのまま返してやるぜ。こんな店を経営していても、時間の無駄だ。さっさと商売を打ち切れ」


「くっ……!!」


カノリアが怒りで顔を真っ赤にする。


俺は続けて告げた。


「あんたがこの店を立ち退いたら、うちがこの店舗てんぽを買うよ」


「……は?」


「見ての通り、うちは繁盛はんじょうしてるからな。もっと料理を販売できるスペースが欲しいんだよな。ヴィオーネがいなくなった後は、ここを俺たちの2号店にしよう」


「わ、私は、まだ店をたたむとは言ってません!」


「いや、ヴィオーネは赤字続あかじつづきだろ? これ以上、損をする前に、さっさと撤退したほうがいいだろ。それに……」


と、俺は一拍置いっぱくおいてから告げた。


「お客さんも、ここにヴィオーネがあるより、ルナトリア2号店があったほうが、嬉しいんじゃないか?」


「――――――」


「だから、店舗てんぽわたしてくれる日を待ってるぜ。……さて、伝えたいことはそれだけなんで、失礼するわ」


カノリアは、心が折れたようにひざをつく。


俺はヴィオーネを退散たいさんした。







その二週間後、カノリアはヴィオーネ6号店を閉めることになった。


かくして、ルナトリアとヴィオーネの争いは終幕しゅうまくするのだった。






第3章 完




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