第3章42話:カノリアの対抗

シャーベットが話題になっている頃。


ヴィオーネも、黙って手をこまねいているわけではなかった。


「このままだと、客が根こそぎ持っていかれる!」


と恐れおののいたカノリアは、シャーベットに対抗すべく、新しい氷菓ひょうかを開発した。


氷は高価なので、たとえ売れたとしてももうけは少ない。


しかしルナトリアから話題を取り返すためには、コストを惜しんではいられなかった。


一発逆転の想いを賭けて製作した氷菓。


この氷菓に全てを託すつもりで、大規模な宣伝をおこなった。


だが……


宣伝もむなしく、結局、ルナトリアから話題を取り返すことはできなかった。






街の住人が語り合う。


「ねえ、ルナトリアの新商品は食べた?」


「シャーベットだっけ? ううん、まだ食べてないわよ」


「絶対食べたほうがいいわよ! めちゃくちゃ美味しいから!」


「まあ、ルナトリアだからね……そりゃ外さないでしょ」


「うんうん」


「そういえば、ヴィオーネも新商品を出してたよね?」


「ああ……ヴィオーネの氷菓ね。一応食べたわよ」


「どうだった?」


「うーん、まあ……ヴィオーネって感じ」


「そっかぁ」


「まずくはないんだけどさぁ……どうしてもルナトリアの下位互換って感じがぬぐえないよね」


「ヴィオーネのほうが大手なのにね」


「ルナトリアが強烈すぎるのよ。あそこの料理長は天才だわ」


「料理長って、コルゼンの出身なんだっけ?」


「いいえ。実は、どこかの島の貴族様きぞくさまだって噂があるわよ」


「あはは。まさかぁ。ただの噂でしょ」


「まあ、そうよね。貴族が料理なんて作るわけないもんね」


ルナトリアの料理長・ラングが何者であるか、ということについてはよく語られたが……


誰もラングがもと貴族であると信じる者はいなかった。


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