第3章39話:シャーベット

<ラング視点>


客が増えすぎたことで、大行列となっている。


しかし客の待ち時間が長くなりすぎて、不満の声も上がり始めていた。


夜。


閉店時間を過ぎたあと。


店内で、この問題についてキルティナと話し合った。


「お客さんが行列で待たされすぎている」


と俺は切り出した。


「待つのに疲れた人は、ヴィオーネに流れてるみたいだ」


「ええ、その問題については認識していますわ」


「何か対策はあるのか?」


「そうですわね。手っ取り早いのは2号店を出して、客を分散することですが……」


キルティナが言いよどむ。


俺は尋ねた。


「何か問題でも?」


「実は、手頃てごろな物件が見当たらないのですわ。もし2号店を開くなら、大工さんに頼んで、一から店舗を作っていただくしかありません」


「なるほど」


そうなると時間がかかるな。


キルティナは言った。


「なので、さしあたって店の席数せきすうを増やそうかと考えておりますわ」


「店を増築するということか?」


「いいえ。工事となると時間もかかりますから、増築はいたしません。わたくしが考えているのは【テラスせき】を設けることですわ」


「ああ、なるほどな」


テラス席とは、店内ではなく屋外のテーブル席のことだ。


たしかにテラス席を作るだけなら明日にでも出来る。


まあ、それで行列を解消できるわけではないだろうが……今よりは多少マシにはなるだろう。


「さっそく明日の朝からはじめよう」


「そうですわね」


とキルティナはうなずいた。






ところで。


現在は夏である。


夏でも唐揚げパンは人気だ。


美味しいものは、いつ食べたって美味しい。


しかし夏には、やはり冷たい物を食べたくなるのが人間だろう。


というわけで。


俺は、提案する。


「アイスを作ろう」


昼。


ルナトリアの店内。


定休日なので、お客さんはいない。


この日は、キルティナと俺が、二人でミーティングをしていた。


テーブルの向かいに座ったキルティナが、首をかしげる。


「アイスとは、なんですの?」


異世界人は、アイスという言葉を使わないようだ。


えっと……アイスって、異世界ではなんていうんだっけ?


該当しそうな言葉を、ラングの記憶から掘り起こす。


「アイスとは、冷菓れいかのことだ」


冷たい菓子と書いて、冷菓。


あるいは氷菓ひょうかや、氷菓子こおりがしとも呼んでいる。


「ああ。氷菓子のことですのね」


「そうだ。……で、冷菓を作って販売しないか?」


「いい提案ですわね。しかし、アイディアはあるんですの?」


「もちろんだ」


デザートやアイスクリームのアイディアなんて、いくらでもある。


奇をてらったものを作る必要はない。


ド定番のヤツでいいだろう。


「シャーベットを作ろう」


と俺は提案した。


「シャーベット?」


「シャーベットは、果物のジュースを凍らせた氷菓子のことだ」


「へえ。美味おいしそうですわね」


美味うまいぞ。一つ作ってみよう」


俺はキッチンに入った。


とりあえず5種類の食材を使って、5種類のシャーベットを作ることにする。


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