第3章28話:向かいの商会長

しかし。


夕方のことだった。


店舗にいたとき、ふと、一人の来客が訪れた。


女性である。


水色のショートヘアで、瞳の色は黄色。


落ち着いた顔立ちの女性だ。


しかし、どことなく嫌な雰囲気を感じる。


俺は言った。


「申し訳ありません。まだ、うちのレストランは開店しておりません」


「ああ、いえいえ。私は客ではありませんよ」


「え?」


「私は、向かいの……レストラン・ヴィオーネを経営する商会長しょうかいちょうをしております」


「!!」


「名前は、カノリアと申します。以後、お見知りおきを」


カノリアと名乗った女性は、礼儀正れいぎただしく一礼いちれいしてきた。


このひと……向かいの商会長なのか。


「あ、自分は、ラングです。よろしくお願いします」


名乗り返す。


カノリアさんは言った。


「お向かい同士ですから、一言、ご挨拶をと思いまして」


「ああ、そうでしたか。わざわざ、すみません」


「ええ。ヴィオーネは7日後に開店となりますから、早めにご挨拶をしておいたほうがいいかなと」


「……え? 7日後?」


7日後といえば。


俺たちと同じ開店日かいてんびだ。


……偶然か?


作為的さくいてきなものを感じる。


「お、俺たちも、7日後なのですが……」


と口にしてしまう。


するとカノリアさんは上品に笑った。


「ふふふ。では当日は、お客さんの取り合いになってしまいますね?」


静かに笑うカノリアさん。


その瞳の中に、確かなあざけりを感じた。


俺は嫌な気分になる。


「お手柔らかに、お願いいたします。ラングさん」


そう告げて、カノリアさんは立ち去っていく。


俺は立ち尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る