第2章25話:メニューの決定

翌日。


朝。


晴れ。


レストランの店内ホールにて。


俺は店のメニューを考える。


ところで、俺はあることに感心していた。


(この異世界は、塩と砂糖が制限なく手に入るんだよな)


本来、中世ヨーロッパなどでは塩と砂糖は高級品だ。


しかしこの異世界には……


塩草しおくさ砂糖草さとうぐさと呼ばれる植物があちこちに生えている。


塩草は沸騰した水につけると塩水しおみずに、


砂糖草は沸騰した水につけると砂糖水さとうみずに、


それぞれ変わる。


この塩草や砂糖草は、本当に無限に生えているので……


異世界では、塩や砂糖が無限に手に入るのだ。


(塩と砂糖が安価で手に入るのはありがたいな)


塩や砂糖は料理に必須だ。


なくてはならない。


それが安価に入手できることで、作れない料理はかなり少なくなる。


料理人にとって嬉しい環境である。


「んー、メニューはこんな感じでいいかな」


俺はあれこれ悩んだ末に、メニューを完成させる。


以下だ。






魚介スープ


魚の唐揚げ


焼き魚


焼き魚定食


唐揚げ定食


タマゴサンド


コーンスープ


シーフードサラダ


焼きリンゴ







……以上、9品。


さらにドリンクジュースを4種類で、13品。


ひとまずこれでいいか。


あとは値段を書いていく。


価格を書き終えたとき、ちょうどキルティナが店にやってきた。


俺は考えたメニューを伝える。


するとキルティナが要求してきた。


「そのメニューを、一度すべて食べさせていただきたいですわ」


「味見したい、ということか?」


「ええ」


「わかった。じゃあ、今から作るよ」


俺はテーブルを立ち上がり、キッチンに入る。


メニューを上から順番に作っていく。


完成次第かんせいしだい、キルティナのもとへ持っていく。


キルティナはテーブルの椅子に座って、食べていく。


「美味しいですわ!!」


「この焼き魚も、素晴らしいですわね!」


「んー!! たかがサラダですのに、なんという上品な味わい。新しい味覚が開拓されていくようですわ!」


……などと感嘆の言葉を連続させる。


やがてキルティナは、全てのメニューをひとつまみずつ、味見あじみしていった。


「ふう……素晴らしいご馳走ちそうでしたわ」


「お粗末様。……で、どうだ? このメニューでいいか?」


「んー、そうですわね」


とキルティナは難色なんしょくを示した。


彼女は述べる。


「味は抜群ばつぐんに良いと思いますわ」


「ありがとよ」


「ただ……良すぎると思いましたわね」


「ふむ」


「明らかに庶民料理しょみんりょうり逸脱いつだつしたクオリティです。これらの料理が、全て1万ディリン以上の価格で売られるならともかく、現在の価格設定は安すぎますわ」


ディリンというのは異世界の通貨で、だいたい1ディリン=1円。


この感覚で、俺の料理は500ディリンや1000ディリンに設定している。


前世だったら、この手の料理はワンコインか1000円で食えるからだ。


しかし、さすがに異世界では安すぎる価格設定か。


「良質すぎる品を、安すぎる価格で出すと、市場しじょうが崩壊してしまいますわ」


「市場の崩壊……ちょっと大げさじゃないか?」


「いいえ。あなたの料理は、本当に規格外きかくがいですから、市場に大きな打撃を与えることは間違いないでしょう」


……そこまでか。


うーん。


ならばどうすればいいのか。


キルティナが解決案かいけつあんを提示してくる。


「価格を吊り上げるか、味を落とすしかありませんわね」


「……ふむ」


価格を吊り上げるのは、店のコンセプトに合わない。


ならば味を落とすしかない……か。


つまり今後は手加減して作る、ということ。


料理人としては、わざとクオリティを下げるというのは、忸怩じくじたる思いを感じるが。


「1000ディリン程度で食べられる、大衆向けというコンセプトは残したい。味のほうを引き下げよう」


と俺は提案する。


「承知しましたわ」


とキルティナはうなずいた。



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