第2章

第2章9話:他者視点

<キルティナ・料理長の視点>



ラングが帰ったあと。


厨房ちゅうぼうに残ったキルティナと料理長。


キルティナは言った。


「本当に美味しかったですわね、ラングの料理」


「ええ……貴族でも、あれほど料理ができる方がいらっしゃるのですね」


と料理長も感心している。


キルティナはつぶやく。


「これからが楽しみですわ」


もともとキルティナは、商売をはじめようと思っていた。


だが商売のネタ、アイディアが思いつかなかった。


ロクなアイディアがないまま、行き当たりばったりで商売をはじめても、成功は難しい。


だからコレという商材しょうざいが見つかるまで、待機していたのだ。


しかし、ラングが現れたことで、いよいよ商売が始められることになった。


商売の費用は安くない。


店舗てんぽを手に入れ、開店にこぎつけるだけでも数千万すうせんまんの費用がかかるのだろう。


しかし……ラングの料理には、それだけの資金を投じる価値がある。


ラングが作る料理は、間違いなくヒットするとキルティナは確信している。


まあ全てが、さっき食べた料理のようなクオリティではないかもしれないが……


最悪、唐揚げやマヨネーズを世に送り出すだけでも、とてつもない利益を生むことは想像できた。


「それはそれとして、」


と料理長は前置きしてから、言った。


「ラング様を囲うことができて、よかったですね。キルティナ様?」


「……どういう意味ですの?」


「キルティナ様のおもびとなんですよね、ラング様は」


「……」


キルティナは顔を赤らめ、黙り込む。


キルティナはラングを料理人として雇ったが、たとえ料理の技術がなくとも、執事として雇うつもりだった。


それは実家から追放されたラングを救いたいという、純粋な善意からの申し出なのだが……


同時に、半分は下心したごころであった。


「好きな人を自分のおりの中に囲いたい……ああ、なんて素敵な純情じゅんじょうなのでしょうか!」


と料理長が目をキラキラさせて言った。


キルティナはツッコミを入れる。


「檻って……言い方が悪いですわよ」


料理長は微笑んだ。


「とにかく、恋が上手くいくといいですね。私、応援していますよ!」


「……」


キルティナも、自分の人生において大きな運が巡ってきていると認識していた。


恋と商売――――どちらも成功させられるビッグチャンス。


それが目の前にやってきているのだ。


(今日から頑張らなきゃいけませんわね)


そうキルティナは意気込いきごむのだった。

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