第1章8話:提案

と。


そのときだった。


「ラング」


と、キルティナが真面目な声で言ってから、テーブルを立ち上がった。


ちなみにキルティナは、いつのまにか唐揚げを完食していた。


「あなた……わたくしのもとで、店を持ちませんか?」


「……え?」


俺はぽかんとした。


聞き返す。


「店を持つ、とは?」


「そのままの意味ですわ。あなたを店主てんしゅとして、レストランを開きませんか? 唐揚げやマヨネーズ、その他の料理を使って」


俺は驚愕する。


まさか、そんな申し出をされるとは思っていなかった。


キルティナが言う。


「あなたの作った料理―――唐揚げは、お世辞抜せじぬきで素晴らしいものでしたわ」


嬉しい言葉だ。


キルティナは続ける。


「わたくしは商人の娘として、あなたの料理を高く評価します。見事な調味料を生み出す、あなたのスキルも。……そして、その才能を、ただの厨房料理人ちゅうぼうりょうりにんとして使い潰したくはありません」


厨房料理長である料理長がそばにいるのに、その発言は大丈夫かと思ったが……


料理長は、ウンウンとうなずいている。


キルティナは続ける。


「だからあなたの料理と、調味料を主軸しゅじくにして、料理店りょうりてんを開きたいと思いましたの。開店に必要な費用などは、わたくしが出しますわ。わたくしと一緒に、レストラン経営を行いませんか?」


つまり……キルティナは。


俺の料理をプロデュースしてくれると言っているわけだ。


なんて嬉しい言葉だろう。


俺の前世の技術。


それから、俺がスキルで作った調味料。


その二つを、最大限評価さいだいげんひょうかしてくれているのだ。


俺は感謝の言葉を述べた。


「キルティナ……ありがとう」


そして返事については、もちろん。


「断るわけがない。レストランの店主、やらせてもらいたいと思う」


俺は真面目な顔で、答えた。


キルティナが微笑んで、言った。


「ありがとうございます。ちなみにコンセプトは、唐揚げの専門店せんもんてんということでよろしいかしら?」


「……いや、唐揚げ以外にもいろいろ作れる。唐揚げにこだわってもらわなくても大丈夫だぞ」


「なら……魚料理の店というのはいかがでしょう? あなた、魚料理なら誰にも負けないとおっしゃっていましたわよね?」


「そうだな」


前世での俺は料亭りょうていの息子だった。


幼いころから魚料理については、叩きこまれている。


ゆえに自信がある。


「魚料理は俺の一番の得意分野だ」


「なら、コンセプトは魚料理の店ということにしましょうか」


「ああ、それでいい」


と俺は肯定した。


キルティナは言った。


「では、ラング。これからよろしくお願いいたしますわね」


「こちらこそよろしくな、キルティナ」


俺とキルティナが握手あくしゅわす。


かくして俺たちは、レストランの設立に向けて動き出すことになった。







第1章・プロローグ 完

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