第20話 異世界最ジーさん参上

 ここは、辺境を任されているドルクライム領、領主館。

 そこの裏庭では現在、不思議な事が起きていた。


「うわあああああああ.....ってあれ?生きてる?」


 倒れ込んだ騎士に、ジャルフの鋭い牙が迫った所で、突然騎士の前に透明な壁が現れたり…


「なんだこれ!?」


 騎士とジャルフが対峙していたら、明後日の方向から、透明な棒が飛んできて、あっという間にジャルフを串刺しにしたり…


「ジャルフ達が俺たちを狙ってない?」


 何故か分からないが、騎士と対峙していたジャルフが目の前にいる騎士を無視して、突然走り去ったり…


 ※※※※※※※



 ふはははははは!

 愉快、愉快、、ジャルフどもがゴミのようだ!

 ジャルフの馬鹿どもが、為す術なく串刺しになってらぁ!

 この前、僕に襲ってくるからこうなるんだよ!

 ざまぁみろwww


《マスター。トリップするのやめて貰えません?今も、あそこの人が死にそうなんですけど》


 僕が気持ちよく感じていると、アカさんからの冷静なダメ出しが来た。

 顔は分からないが、ジト目で見られてる気がする...。


(はいはい。分かりましたよっと)


「わああああああ……え?助かっ...た?」


 それから20分、僕は結界を使って死にかけている人達を助けた。

 最初の数分ぐらいは守るだけでよかったのだが、15分過ぎた辺りから、ジャルフ達が僕を目掛けて突撃しているような気がする。


「ガァァ!」


 ドドドドッ!

 バタッ


 現に今も、ジャルフが襲ってきた。

 幸い全自動結界弾フルオート・バリエラパッラの処理範囲内なので、まだ大丈夫なのだが、時間が経つ事に僕を襲ってくるジャルフが増えているような気がする。


(なんで、僕を狙ってくるんだろう?前線の人を無視して、狙ってきてる感があるんだけど...?)


《マスター、忘れたんですか?ご自分にかけられた呪いを》


 呪い...?

 そりゃあ、あれだろ。

 スキルレベルが上がらなくなったり、裏ステが一部を除き低かったり、レベルアップできなかったり。

 あとは・・・あっ!!

 思い出したぞ!

 常に優先して邪に連なる者から襲われる呪いだ!


「ギャオォ!」


 ドドドドッ!

 バタッ


 クソっ、邪神め!

 今まで、忘れていて気にも止めていなかったが、なかなか厄介な呪いを付与してくれたものだ。

 つまり、時間が経つにつれ僕の存在が敵に連鎖的に伝わっていき、段々僕を狙うジャルフが増えてきたってことか。


《思い出していただけました?まぁ、そういうことなので、そろそろここから離れせんか?今はまだ襲ってきてませんが、時期に上位種も襲い出してくるでしょう。そうなる前に、早く!!》


(いや〜、でももうちょっと戦いたいっていうかぁ〜、なんて言うかぁ、ってスタージャルフ来てんじゃん!)


《なんでちょっと嬉しそうなんですか!》


 よぅーし、またまた新魔法!

 単体火力に特化したとっておきだ!


 まずボール状の小さな結界を生成。

 次に、結果内に爆発する炎を仕込む。

 あとは、敵の体内にこの結界を到達させて、結界ごと爆発させれば完成だ。


「よっしゃ、この前の借りのお返しだ!馬鹿みたいに口を開けやがって。流石のお前でも、体内までは固くないだろう」


 僕の手元には、小型の結界もとい、小さな結界爆弾が出来た。


「くらえ『小型結界爆弾ピッコロボム』!」


 僕がデコピンで放った小型結界爆弾ピッコロボムは、スルスルと面白いようにスタージャルフの口の中に吸い込まれて行った。


《見事に入っていきましたね》


(だろ?あいつら基本馬鹿なんだよ)


「ギャオォォ!」

「あとわっと、爆発イグニッション


 次の瞬間、スタージャルフの首元が爆発した。

 お腹にまでは届いていなかったみたいだが、十分だ。


「あははははは。汚ねえ花火だなぁ!」


《マスター。そのネタ誰も分かりませんよ?》


(うっせぇ。それにしても、上手いこと成功したなぁ。何故か避けなかったし)


 この魔法、実は大きな欠陥がある。

 それは、魔法完成までの速度も、相手までに到達する速度も遅いということだ。


 小型結界爆弾ピッコロボム完成まで、約5秒。

 それから、時速100キロぐらいで飛んでいくので、邪獣達なら余裕で避けることができる。

 それに進む方向も今のところ、直線しか出来ない。


《でも、これで満足出来ましたね?ほらっ、さっさとしますよ》


(はーい。じゃあ、転移して逃げるか)


 僕が後方に空間認識するため、集中を向けたその瞬間、僕の影からジャルフの黒い爪が伸びてきた。


「うおぉ!危ねぇ」


 咄嗟に結界を張ってガードすることに成功したが、結界にも傷が少し入った。


 おいおい、どういうことだ?

 いきなり、僕の影から攻撃してきたぞ!?


《マスター、あれはシャドウジャルフです。さっきのスタージャルフよりも遥かに格上になります。ここは一心不乱に逃げましょう...って、あれはマッハジャルフ!?》


 おいおい、次から次に上位種がバンバン出てきやがって。

 これじゃあ、転移も出来なくなったぞ。


「グルゥオ!!」


 ガキーーン!


 くそっ、流石にマッハジャルフは強いな。

 一撃で結界に大きなヒビが入った。


 それから、僕は一心不乱に逃げ回った。

 マッハジャルフから突撃されるわ、シャドウジャルフからは死角から攻めてこられるわで短距離転移を使ったりして必死に逃げた。

 とにかく、逃げに逃げた。


「ガァァ!」

「ふん、馬鹿め!その攻撃は見切ってんだよ」


 ドゴォォン!


 僕がシャドウジャルフの、攻撃から結界で守ろうとした瞬間、シャドウジャルフがいきなり明後日の方に吹き飛んで行った。


「あ、あんたは──」


《マスター、後ろ!!マッハジャルフが突撃してきます》


 僕は慌てて後ろを振り返り、結界を張ろうとした瞬間、またもやいきなり目の前に大きな体が現れた。


 ガキーーーン!


「ふんぬ!おい、マッジョル。早く殺れ」

「分かっていますよ」


 ドゴォォォォォォォン!!!!


 気がつくと、大きな音と共に辺りが静かになった。

 どうやら、マッハジャルフは、地面に叩き潰されたらしい。


「マッジョルさんに、トムさん!どうしてここに?」

「どうしてもこうしても、坊ちゃんが危なそうだったからでしょう」

「そうですよ。レン様は、我らが大切なお人。先程から気になってはいましたが、何故こんな前線に立っているのですか?」

「えぇーと、、、面白そうだから?」


 すると、またしても呆れた顔をされた。

 はいはい!

 分かってたって、その反応!!


「まぁ、レン様のわがままは置いといて先程から何故か、ジャルフ達が他の者なんぞ目もくれずレン様を狙ってるんですけど…。レン様なにかしました?」


 ギクッ。


「い、いやぁ〜。なんでだろう?僕も分かんないやぁ。モテ期かなぁ…?」

「本当ですかねぇ?」


 鋭い眼差しが痛い…。

 マッジョルさんは、完全に僕のことを疑っているようだ。

 もしかして、呪いに気づかれた?


「おい、マッジョル。そんなことに時間使ってる場合じゃねぇだろうよ」

「うーん、まぁ、それもそうですね。それで、どうします?レン様を一旦返します?」

「それもアリなんだが...。今、俺たちが戦線から抜けるとヤバいだろ?それに──」


「グルゥオォォォォ!!」


 トムさんが、今後のことを話していると、森の方からとてつもない音量の咆哮ほうこうが響き渡った。


「おいおい、なんだよありゃあ」

「見たことも無い、ジャルフですね。とてつもなく大きい」


 方向が鳴り止むのと同時に、裏山の方から頭に星マークがあり、スタージャルフの何倍も大きなジャルフが現れた。

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