第17話 怪しげな会話

《ちょっと、マスター。この前の実験って裏山を全焼させようとした悪魔の実験のことですか?》


(悪魔の実験ってアカさん。あれは、あれで成功だったんだよ.....多分)


《多分って。でも、本当にやるんですか?》


(あったりまえよ。このまま守っていてもいずれロイ兄が助けに来るだろうけど・・・僕、何時間もずっと守るのしんどいです!ってことでロイ兄に、打ち上げ花火で知らせようって訳よ)


 この前の実験とは、結界内に超高温空間をつくり、結界が限界になったところを一気に解放するというものだ。

 前回は、調子に乗って空間魔法を使い結界内に酸素も転送した事で、想像もつかないほどの熱になっていて、それに気づかずに解放したから失敗したのだ。


 今回は、前回のように酸素を転送せず純粋に火魔法だけで行う。

 僕の極弱火魔法でも、魔力量にもの言わせて連続で何回も火を出すことで強引に高温を作り出すことができるのだ。


(じゃあ、作るから空間遮断結界、張るのよろしくね)


《分かりました。ちゃんと調整してくださいね》


(ほいほーい)



 それから、約5分後僕の手のひらには中に浮いている真っ赤に光る結界があった。


(ふぅ。やっと完成した。じゃあ早速、空中に飛ばそうかね)


《お疲れ様です。今回のは前回みたいに危なくはなさそうですけど、念の為、結界を張っときますね》


(はーい。 じゃあ飛ばすよ)


 僕の手のひらから、ふらふらと小さな結界が浮き上がっていった。

 ジャルフ達も、突然上がった結界に戸惑いを隠すことができず保おけている。


(じゃあ、解放するよ。準備はいい?)


《大丈夫です。結界の方も張り終えました》


「よしっ!小さな箱 ミノルソーレ・庭の太陽ジャルディーノ解放リベラ


 ドッゴォォォン


 僕が唱えた瞬間、空が一面真っ赤になった。

 よしゃあああああ!!

 大成功だ。

 被害は上だけ、下は無傷。

 完璧だ!!


 これで、ロイ兄も気づいて、来てくれるだろう。

 ジャルフ達よ、それまでチキチキ耐久合戦じゃあ!!





 それから10分。

 ジャルフ達は、まだ僕の結界を突破することができていない。

 周りのジャルフを牽制しながら結界でマッハジャルフの突進を守っていると、突然辺りが寒くなってきた。


(来たかな?)


 僕が、ロイ兄の到着を心待ちにしていると、目の前がいきなり音もなく氷景色に変わった。

 あの苦戦させられたマッハジャルフまで、突進する格好のまま凍りついている。


「ふぅ、何とか間に合った。大丈夫だったか?」


 ロイ兄登場である!!


 僕が苦戦していたマッハジャルフまで、一瞬で氷漬けにしてしまった。

 流石は、グラナータ家長男。

 やることが規格外すぎる。


「うん、結界で守ってたから無事だよ。それにしても、早かったね」

「当たり前だろ。とりあえず、さっさと家に帰るぞ」

「はーーい」


 はぁ。

 結局ジャークは見つからなかったなぁ。

 まぁ、明日もあるし今日のところはこれで帰るか。

 僕は、ロイ兄の後ろからついて行っていると、突然ロイ兄が後ろを振り向いた。


「どうしたの?なにかいた?」


 ロイ兄は、少しの間集中したように後ろを確認した。

 数秒した後、首をひねりながら前に向いた。


「いや、なんでもない。それより、早く帰るぞ。お風呂に入らないと、レン泥まみれだぞ」

「え!?ほんとだ。集中してて、気づかなかった。じゃあ、帰ろう帰ろう」


 僕は、ロイ兄を追い越し家に向かった。




 ※※※※※※※※※※



「おい、どうだ。あの方に通信は繋がりそうか?」

「ああ、もうちょっとだな。それより、そっちの方はどうだったんだ?」


 うす暗い空間に、2人の男がいた。

 1人は、怪しい祭壇の上に乗ってある水晶をいじっている。

 もう1人は、今到着したのか、空いているイスにドカッと腰を下ろした。


「ありゃあ、雑魚だな。確かに長男の方は化け物だが、今回のターゲットのガキはまだまだだ。マッハジャルフに苦戦するぐらいだからな。意外と楽勝かもな」

「ふむ。それは僥倖ぎょうこう。サクッと終わらせて、あの方に認めてもらうぞ」

「当たり前だ」


 それから数分、いきなり水晶が輝き出した。


「よしっ。繋がったぞ。あの方だ」


『あーあー、聞こえる?』


「はっ、聞こえます」

「自分も、聞こえております」


 先程まで、だらけていた男も声を聞くなり、水晶に向かって膝をつき頭を下げた。


『それで、どうだった?例のガキは。殺せそうか?』


「はい。問題無いかと。マッハジャルフにすら苦戦しているようでしたので。決行の日には、ギガントスタージャルフを投入する予定です」


『おー、あいつを手なずけたか。やるなぁ』


「ありがたきお言葉。こちらも3日後には、スタンピードを起こし、グラナータ家の戦闘員を全て、森に引きつける予定です。その後、レオーヴィル率いる約100体のジャルフ種がグラナータ家本館を襲撃。そこで、ターゲットを殺す予定です」


『うんうん。いいんじゃない?あっ、ちょっと待って。・・・はいっ。冒険者依頼ですか? 了解しました。資料を確認次第、お呼びするので、あちらの席で待っていただけますか? はい。ありがとうございます。・・・・ふぅ、あぁごめんごめん。何となく状況は分かった。邪神様が神託をしてまで殺させようとしてるんだ。例のガキに、油断しないようにな』


「はいっ。このレオーヴィル、いざとなれば自ら殺しに行く所存です。お任せ下さい」

「マルヴェーク、この名にかけて、完璧に陽動を成功させてみせます」


『うんうん、頼もしい限りだね。じゃあ、頑張って。期待してる』


 この言葉を最後に水晶は、輝きを失った。


「じゃあ、俺はちょっくら寝てくるわ」

「分かりました。私は、邪獣達の確認をしに行きます。ではまた後で」


 男たち2人は、それぞれ部屋を出て行った。

 部屋には、怪しい祭壇の上に乗った水晶が1つぽつんと置かれたまま。

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