第13話 新しい家族は、双子!?

 真夏の太陽がギラギラと照りつける中、中庭には大柄な男と小さな子供がいた。


「78っ、79っ、80っ…」

「いいぞ!その調子!!」


 今、僕は小さな木の棒で素振りをしている。


「99っ、100っ!終わったー」

「よく頑張った!!少し休憩して、素振りもう100回だ!」


 はぁ!?あと、100回だと…

 こちとら5歳だぞ。

 スパルタにも程があるだろ。


 僕が何故剣の素振りをしているのかと言うと、あれは5歳の誕生日にさかのぼる。


 誕生日プレゼントに父から子供用の木刀を貰ったのだ。


「レン。明日からその木刀で剣術の練習だ!」

「え?」


 どうやら、グラナータ家では代々5歳の誕生日に木刀をプレゼントし、その木刀で次の日から剣術の練習をするという伝統があるらしい。

 兄弟たちも例外なくこの試練を乗り越えたのだとか。

 だが、ここでひとつの問題に当たった。


「うんっしょっと!これ、重すぎない?」


 木刀が重すぎて、抱えることで精一杯だったのだ。

 それもそうだ。

 僕は、兄や、姉と違い邪神によって身体系ステータスが一般人以下なのだ。

 そりゃあ、そこら辺の5歳児がいくら小さくても木刀なんて持てるわけが無い。


「うーん、どうしようかな…」


 父は、困ったように考え出した。

 まさか、グラナータ家の子供が木刀を持てないなんて本来ありえないからだ。

 木刀が持てないなら、このまま剣術練習はお預けか?と思い始めていた時、予想外の援護射撃が来た。


「ねぇ、あなた。木刀が持てないなら、最初は木の棒とかでやってみたら?」


 おい、コラ母よ。

 今、いい感じで無くなりそうだっただろうが!


「あっ、確かに!流石、レジーナ!その手があったか」


 クソっ…

 お父さんも納得してしまった。


「じゃあ、レン。明日から木の棒で剣術練習だからな。魔法もだが、グラナータ家にいる以上、剣術もしっかりやっていかないとな!」

「えぇーーー」



 まぁ、こんなことがありまして現在、僕は素振りをしていたのだ。


「よしっ、十分じゅうぶん休んだな。次は、姿勢を意識しながら素振り100回だ!」


 まだ、休んで10分も経ってないぞコラ。

 5歳児を殺す気か?


「お父さん、あともう少し。 ていうか、もう今日は、終わらない?僕、200回は素振りしたよ?」

「何を言うか。ロイもクロエも乗り越えた道だぞ!お前ならできる、頑張るんだ!!」


 何言ってんだ、このゴリラは…。

 こちとらゴミ邪神によって、ステータス弄られてんやぞ!

 わかってんのか…って分からんか。

 まぁ、しゃあない。

 あと100回だけだぞ、父よ!


「分かったよ。じゃあ、あと10──」



「御館様、御館様!!」

「なんだ、一体」

「お子様が産まれそうです!!」

「何!?」






 あれから、僕とお父さんは急いでお母さんの元に駆けつけた。

 僕たちが着くと、兄や姉も着いておりソワソワしている。

 幸い、子供はまだ産まれて無いみたいで、外で待っておくようにと言われた。


 僕たちが、ドキドキしながら待って1時間。

 突然、壁を突き破るような産声が聞こえてきた。

 僕達は、一斉に立ち上がり部屋の扉を見た。


(ん?何故か産声が2つ聞こえるような…)


 それからすぐの事。

 扉が開き見習いメイドのセルティカが出てきた。


「皆様、もう中に入って大丈夫ですよ?」


 その言葉を聞いた瞬間、父が目にも止まらぬスピードで入って行った。

 僕達兄弟は、その後に続いて部屋に入った。


 部屋に入ると、父のびっくりした声が聞こえた。


「双子!?凄いぞレジーナ。男の子と女の子だ」

「はいはい。分かってるわよ」


 何と、僕に弟と妹が同時にできたらしい。


「わぁ、本当だ。可愛い」

「父さん、僕にも抱かせてくれ」


 姉と兄も一目散に2人のところに行った。

 僕も彼らに遅れないように駆け足で近づいた。


「レン。この子があなたの妹よ」


 そう言って、お母さんは僕に妹を渡してきた。

 しっかりとした重さで、落とさないよう必死に持つ。


(実感はまだないけど、この子が僕の妹か…)


《可愛いじゃないですか!これでマスターも、お兄ちゃんですね》


 前世では、一人っ子だったため、下の兄弟を持つという経験がない。

 というか、赤ちゃんを抱くという経験すらない。


 これが、下の兄弟を持つ気持ちかと、なんとも言い難い不思議な気持ちで胸がいっぱいになった。

 僕にも、守るべき大切な者が増えたようだ。






 ── 4年後 ──




《マスター、10メートル先にジャブリン三体確認しました。5秒後に脇から出て来ると思います》


(了解。結界で迎え撃つよ)


 今、僕は裏山にて、邪獣と戦闘訓練をしている。

 訓練と言ってもガチの殺し合いだ。


 邪獣とは、魔物が邪神の邪気に触れて邪物化じゃぶつかした姿のことだ。

 僕が住んでいるこの島は、元々邪神との最終決戦の場所ということもあり、今だに大量の邪気がそこら中に漂っている。

 そのため、出てくる敵のほとんどが邪物化しているのだ。


 ジャブリンは、ゴブリンを黒と紫で禍々しくカラーリングしたみたいな姿だ。

 まぁ、ほとんど色違いなだけで背格好などは変わらない。


 それに名前もゴブリンの邪物化じゃぶつかだから、ジャブリンというシンプルな名前だ。

 これがコボルトの邪物化じゃぶつかならジャボルト、オークの邪物化じゃぶつかならジャークと言った具合だ。

 元々、この土地でもジャブリンを、ゴブリンと言っていたようなのだが、50年ぐらい前にいきなり名前変更があったらしい。

 その名前変更に僕の父が関わっているとか、いないとか…


 まぁ、そんなことで僕は実践訓練中だ。


《来ますよマスター》


(はいよ!)


 僕は身の回りを見えない結界で包む。

 数秒後、両脇から現れた3匹のジャブリンが一斉に棍棒を振り下ろしてきた。


 ガンッ!


 勢いよく来た棍棒は、僕の結界の前に虚しく止まる。


(よしっ、今!)


 次の瞬間、僕を包んでいた結界がハリセンボンのように周りにトゲを出し、ジャブリン達を滅多刺しにした。


(よっしゃあ!なかなかいい感じだな)


《はい、マスター。これは実践で結構使えますね!》


 最近、やっと結界変形を瞬時に行えるようになった。

 これにより、僕の戦法の幅が、無茶苦茶広がった。


(これで今日、48匹目だね。この魔法にも慣れてきたかな)


《そうですね。なかなかいい感じです。欲を言えばもう少しトゲを多くして、長く伸びるようにしたらさらに強い魔法になりそうです》


(さいですかぁ…。流石、スパルタ鬼教官。ちょっとは喜ばせてくれよ)


《いいじゃないですか。伸びしろがまだまだあるってことですよ!それはそうと、そろそろ日も沈んできましたし、家に帰りましょう!今日は、パーティなのでしょう?》


(まぁな。寂しくなるなぁ。明日からロイ兄と2人か…)


 僕は、アカさんと明日からの修行について話しながら家に帰った。

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