第18話

「あ、あれがオーク……。けれどオークって10層で出てくるモンスターじゃありませんでしたか?」


 何やらワーグ達に指示を出しているオークを見たアイリスのそんな疑問に、凛子さんが冷や汗を書きながら答えた。


「本来であればそうだ。しかし、ダンジョンでは極々稀にイレギュラーが発生することがある。フロア全体のモンスターが遥か下層のモンスターと入れ替わったり、遭遇すれば死あるのみの化け物が徘徊したり、モンスターの大群が襲い掛かってきたりと洒落にならない事態が発生するんだ。そういう時は撤退するに限る」


 そう言うと、凛子さんは丸い球体の様なものをポーチから取り出す。


「あの黒いオークの実力は未知数な上、イレギュラーが発生した場合大抵はダンジョン全体に波及している。だからこの脱出の宝珠を使って地上に帰還するぞ。皆! 私の下に集まってくれ!」


 そして凛子さんがその脱出の宝珠を投げ、僕達を光が包もうとしたのだが……。


「馬鹿な! 脱出の宝珠が使えない!?」


 光が僕達を覆いつくし、これで帰れるのかと安堵した瞬間。光は何かに砕かれる様に消え去ってしまった。

 

 僕達がその光景に呆然としていると、ワーグ達がこちらに向かって襲い掛かって来る。


「ッ……。戦うしかないのか。石塚君! すまないが行くぞ! 一年生の皆は後ろに下がっていてくれ!」


 石塚副会長が魔法で援護し、凛子さんが槍でワーグを蹴散らしオークに突撃した。


「これでッ!」


 石塚副会長はファイアーボール、凛子さんは槍に炎を纏わせてオークに攻撃する。だが……。


「何ッ? 炎が弾かれる!?」


「だッ……」


 ダメだ。強化オークに炎は効かない、雷を使うんだと叫びかけて僕はグッとこらえた。知識の出所を聞かれる訳にはいかないからだ。しかし、凛子さんや石塚副会長のレベルは高い。弱点を突けなくても余裕だろう、そう思いながらも何も出来ない自分自身に歯嚙みする。


「石塚君、順番に各属性を試してみてくれ。私が注意を引き付ける」


 凛子さんが強化オークを惹きつけ、その隙に石塚副会長が各属性の魔法を行使して弱点を探る作戦にしたらしい。凛子さんが深く踏み込まないようにしつつ、オークの気を引いている。


 そして各属性を試している内に雷の魔法を喰らい、今までよりも露骨にダメージを負ったオークを見て石塚副会長と凛子さんは頷き、それぞれの雷属性の攻撃を駆使して倒し切った。


「ふぅ……。なんだったんだコイツは。高難易度ダンジョンに出没するらしい亜種オークでもない、見たこともない新種だったな……」


「大丈夫ですか? 凛子さん」


「大丈夫、多少硬かったが問題ないよ」


 戦闘が終わり槍を振って血を払う凛子さんに駆け寄りながらも、僕は先程の戦闘で覚えた違和感について考えていた。


 おかしい、本来ならば25レべの凛子さん達であれば弱点を突かずとも通常攻撃で倒せた筈だ。しかし、実際オークは凛子さん達の攻撃を耐えていた。普通ならば有り得ない。そう、普通ならだ。しかし、邪神が居るダンジョンでは邪神に関わるモンスターにバフが掛かる。まさか……。


「どうしたんだ、スエヒロ君」


「いえ、なんでもないです」


 多分、2人だったから時間が掛かったんだろう。そうに違いない。


 凛子さんに不思議そうに声を掛けられ、僕は微笑みながら考えるのを辞めた。見たくない現実から目を逸らして。


「脱出の宝珠が使えないとなると、どうしますか。会長」


「セーフゾーンがあるのは5階層だ。遠すぎる。そしてこの場に留まるのは、無謀な上助けが来るとは限らない。だから多少は危険だが、徒歩で地上を目指そう」


「分かりました」


「よし! 皆話は聞いていたな! これから、来た道を戻り地上を目指す。モンスターとの戦闘はなるべく避け、万が一戦闘になった際には私と石塚君が戦う! さぁ、出発……」


『困りますねぇ、もうお帰りになるなんて』


 どうにかして地上に戻る為に出発する直前、何処からか声が響く。


「誰だッ!!」


『いやはや、そこに居る出来損ないの失敗作に用事がありましてね。このまま帰られると困るんですよ』


 出来損ないの失敗作? つまりは主人公に用事があるという事だろうか? それにこの声は……まさか山羊座の邪神、カプリコルヌス!? そんな馬鹿な! なんでこんな所に!? ゲームじゃこんな序盤に出て来なかったぞ!


『なので』


 唐突に床に魔法陣が走り、僕達は狼狽える。


「まさかこれは転移!?」


「ッ……!? 皆、今すぐに!?」


『それでは、お待ちしておりますよ』


 その声を最後に、僕達は光に包まれた。




「ここは……」


 魔法で転移させられ、どこに来たのか解らず僕は周りを見渡す。


「……ここは10層。ボス部屋前だな」


「えっ……」


 苦虫を嚙み潰したような顔で、凛子さんが僕の疑問に答える。


「ボス部屋前に置いてある帰還装置は……ダメか。機能していない」


「じゃあ階段は! ……えっ、嘘」


 愛華はそう言い、階段を確認すると絶句した。


「会長ダメです、階段が崩落している」


「そんな! じゃあ俺ら、ここから出られないって事かよ!」


「まだっ、まだ何か希望はあるはずです!」


 そんな時、ボス部屋の扉がゆっくりと開いていき僕達はそちらを見る。そこには強化オークではなく、羊の頭蓋のような頭を持った異形の怪物が待ち構えていた。


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 アニソンランキングは……うん……。

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