箱庭の魔術師たち

錦木

箱庭の魔術師たち

 薄暗い部屋にいた。

 目の前には、いくつかの玩具が入った箱が置いてある。

 ぼんやりと見ていた。

「こんにちは」

 女が入ってきた。

 小柄の、成人していると言われればそうも見え、まだ高校生だと言われればそうも見える。

 不思議な雰囲気をまとった女性だ。

 童顔だがミステリアスな感じもする。

 無邪気な薄ら笑いを浮かべて俺を見ている。

「私があなたを担当する者です。今日も対話を始めましょうか」

 そう言って真向かいの席に腰を下ろした。

 白衣に、ブラウスと長めのスカートを身につけて上品な印象を受ける。

「……さん。どうぞ力を抜いてください。実は私は研修医を終えたばかりの駆け出しで、まあ未熟者なんです。気軽に話しかけてくれると嬉しいな」

 その喋り方は俺をひとりの患者としてではなく、まるで同級生と話すような気軽さだった。

「無口ですね。何か質問とかありますか?それともこっちから話を振ったほうがいいかな?」

 飄々ひょうひょうとそう語る。

「……失礼ですが、お名前は?何とお呼びすれば?」

 確か前の担当者には名前があったはずだが、白衣の胸には名札もついていない。

 パチクリと瞬きをした。

 そんな顔でさえ、子どものように若々しく見える。

「私?ドクターで構わないよ。医者で博士号ももってるから二重のドクター」

 そう言って、微笑む。

「さあ、あなたはこの箱庭からどんな物語をつむぎ出す?」

 俺は数年前から心療科に通っていた。

 治療の一つとして行われるのがこの箱庭療法であった。

 箱庭に置いてある模型から物語をつくる。

 これはまだ実験段階の研究なのだという話も聞いた。

 援助金を出してもらえると聞いたのでそれでもいいと治療を受けることにした。


「私はここで患者さんたちの紡いだ物語を書きとるのが好きなの。まるで一つの物語のようでしょう」

 カルテを書きながら、楽しそうに話す。

「そして、その物語という名の魔術を行うのがあなたたち」


 私の魔術師さんたち。

 まだまだ物語を聞かせてね。


 そう、女は呟いた。

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箱庭の魔術師たち 錦木 @book2017

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