ある都市伝説

まる・みく

 ある都市伝説

 「この道を抜けて行くと目的のものがあります」と運転手は言葉少なに言った。繁華街の裏手を抜けて、ある雑居ビルの前で降ろされると「じゃ、私の仕事はここまでです」

 素っ気なく言うと、車を走らせて夜の闇に消えた。


 雑居ビルを上がると、よくあるスナックや酒場のネオンが光、奥の方に黒服の男が立っていた。


 「…様のご紹介ですね。承っております。会員証を拝見させて頂きます」


 秘密裏にやっている特殊な娼館で、場所も特定されないように、一か月毎に、場所を移し変える。


 その情報を手に入れて、ようやくここまでやって来た。


 中に入ると、小さな舞台と観客が数人、声を潜めていた。


 「今回の出しものは『これ』でございます」


 舞台の上の司会者は布を被せた中央の『これ』を見せた。


 『これ』を見た人間は息を飲む音が聞こえた。


 本当に『これ』があったのか。


 ただ、見物に来ただけかもしれない、行為に及ぼうとする物好きもいただろう。


 そこには四肢を切断された若い娘がいた。


 かなりな衰弱が見られて快活さはなかった。


 『これ』は舞台から私を見つけると、微かな息を吐くような声で言った。


 「…お父さん…」


 私は所持していたコルトでフロアにいる関係者と客をひとり、また、ひとり撃ち殺した。

 スペアのコルトで反撃しようとした店先いた黒服も射殺した。


 『これ』は私の娘だった。


 変な男に騙されて、借金を背負い行方不明になったのが、三年前だった。


 女子大に通う一年生で快活でよく笑う娘だった。


 付き合っていた男から、事情を聞き出し娘が何処に行ったかを聞き出そうしたが、中々、言わないので強硬手段に出た。


 椅子に縛り付けてから、指を一本一本を折って、激痛に苦しむ表情と共に、ようやく娘があるアンダーグラウンドな組織に売り飛ばされた事を聞き出した。


 そこまで聞くと、私はコルトの引き金を引き、彼の頭の中央を撃ち抜いた。


 組織を追いかけて、三年、ようやく、娘を見つけ出した。


 娘は「…お父さん…ごめんなさい」と涙を流しながら言った。


 「もう、いいんだ。何も考える事はないよ」


 娘の頭にコルトを当て、引き金を引いた。


 娘も覚悟していたのだろう。おとなしくしてくれた。


 用意していたプラスティック爆弾を着火すると、私の身体が四散するのが判った。

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ある都市伝説 まる・みく @marumixi

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