これが私の黒歴史♪

有宮旭

歴史は青かろうと黒かろうと続くもの

私の黒歴史は、中学校を卒業してから始まった。まだ中学生時代はよかった。せいぜい、深夜の音楽番組のランキングを毎週ノートに書き連ねているくらいだ。…いや、十分痛いか。しかし、それをこじらせてからが、黒歴史の本領発揮である。


時は25年前にさかのぼる。読者の過半数は生まれてもいない時代だ。いや、そもそも読者自体がほとんどいないのだが。閑話休題。時はラノベ創生期だった。角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫、電撃文庫…そしてラノベのアニメ化、メディアミックスが始まったのもこの頃である。

例にもれず、私もラノベに傾倒していった。将来の夢も小説家へと進路を向け始めた。私には理系がわからぬ。だからこそ、物書きの端くれとして、国語の教科書や小説を読み漁り、自分の小説を書こうと思い当たり、登場人物の名前をたくさん考えたものである。


だが、ここで話は冒頭に戻る。私の黒歴史は、一次創作の小説を書くことではない。それが黒歴史になるなら、現在も黒歴史を生み続けていることになる。…あながち間違いではないな、PVは一桁しかつかないのだから、駄文を垂れ流していることに変わりはない。

私の本当の黒歴史は、ノート一冊分に及ぶ、作詞である。正確にはその前半分に当たる。音楽の成績が2でありながら中学時代にのめりこんだJ-POPの音楽を、国語の成績が5である文才を使って書くことで、自分の中のどうしようもない気持ちを昇華させようとしたのだ。


そもそも、なぜ中学卒業してからなのか。答えは至極簡単で、好きだった女の子に告白できなかったからである。しかも、どうやら両想いだったような関係性の女の子に、だ。

悔しかった。なんなら向こうの方から申し出て、放課後2人きりで教室にいたような仲である。それが、結局うやむやのままに終わってしまった。携帯電話も普及していないような時代だ。家の場所はわかっていても、電話をかける勇気はなかった。

そのどうしようもない気持ちを、私は作詞という形で書きなぐることにした。架空のバンドを脳内に思い浮かべながら書きまくった。ちなみにバンドの名前は「Reminiscence」、和訳するなら「思い出」である。文系は辞書を引くことに抵抗がない。和英辞典からこの名前を取った。


まずは詞より先にタイトルをつけていった。もちろん、和英辞典や英和辞典を使いながらである。これだけで九曲のタイトルをつけた。そしてタイトルとにらめっこしながら、思いついた言葉を、韻を踏みながら書いていく。脳内には架空の音楽が鳴っていた。架空の音楽に合わせて、ぶつぶつと歌いながら詞を書いていく。

幸か不幸か、国語の知識はそれなりにあった。そのため、詞には聞いていて耳障りのいい七五調・五七調を使っていった。変に知識をつけているのが中二病の特徴である。

そして、この九曲のタイトルこそが、黒歴史の中でも赤線を引くべきところである。赤線を引きすぎて血の色になりつつあるレベルだ。

九曲の真ん中の曲名は、「~She is loved by me~」である。もちろん、これだけでは普通のタイトルとして成り立つ。問題は前後の「~」である。

私は行き場のなくなった愛情を、彼女の名前を、自分の名前を、それぞれタイトル中の単語に埋め込んだのだ。私も彼女も、漢字で書くと氏名は四文字になる。その一文字一文字をローマ字にして、タイトルの単語の頭文字にして散りばめ、曲を作ったのである。

前半の四曲で彼女の名前を、後半の四曲で自分の名前を、それぞれ構成させ、その真ん中のつなぎとして、「彼女は私に愛されている」という意味のタイトルを使ったのだ。そりゃあ血の色にもなるものだ。何が一番タチが悪いかと言えば、未練を断ち切れなかったため、過去形ではなく現在形で言葉を紡いだのだ。

もちろん、これらは日の目を見ることはなかった。もうタイトルすら忘れてしまった。あの頃のノートは文字通り闇に消え去っていったのだろう。


しかし、歴史というものは唐突に生まれこそすれ、唐突に切れるものではない。それは黒歴史もしかりである。ましてや自分史の一部ともなる黒歴史が、そう簡単に終わることはない。

今でも私は、ノートに書くことこそしないものの、パッと頭に浮かんだ詞に、適当な音楽をつけて口ずさむことがある。それは時に既存の曲の替え歌として。当時使っていた五七調や七五調を使いながら。音楽へのあこがれも、彼女へのあこがれも消えることなく、今も細々と、しかしながら確実に、燃え続けているのである。

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