漂流者の箱
かきはらともえ
漂流者の箱
僕が知るその人物の名前はスコットという。
スコットは色白で
僕が務めている場所は『箱庭』と呼ばれている。
性質で言えば収容所のような場所だ。この『箱庭』には千人前後の人間がいる。彼らに共通して言えるのは身元が不明ということ、そして僕たちでは考えられない価値観や習慣や生態系をしているということだ。
「最近になって入ってきた老人がいただろう。彼は空を見て驚いていた。空は明るい紫色だという。あそこを歩いている女の子は太陽の元じゃ生きられない。だからって
スコットが通路側から言う。
「そういう私もこちら側だがね」
穏やかなに肩を竦めている。僕はスコットに対して『そういうきみは僕たちとどう違うんだ?』と聞きたかったが、余計なことは言わないようにした。
ここに収容されている人物は『漂流者』と呼ぶ。条件は不明だが、別世界から『こちらの世界』にやってくる者がいる。具体的な表現方法はわからないけれど、昨今のサブカルチャー的に言えば異世界という表現が相応しいのかもしれない。詳しくは知らないけれど、僕の上司は『神隠しってあるだろ、あんな感じだろう』と言っていた。誰もよくわかっていない。だけど、そういう人たちを一箇所に集めてこんなふうに閉じ込めるようになったのだ。
『箱庭』と外を繋ぐ門の警備員が僕の仕事である。先ほどまで勤務中だった人物と午後十時のタイミングで交替した。申し送りを受けて、勤務に従事する。夜勤とはいえ、その『漂流者』の中には生活を夜間帯にする者がいる。スコットもそのうちのひとりだ。
彼らはどうやれば元の世界に戻れるのだろうか。
いや、そんな手段はないのかもしれない。あれば、こんなことになっていない。
■
『箱庭』ができたのは十数年前だという。ある日のことだった。別の世界から一枚の紙が漂流してきた。その言語は解読できなかったが、何年か経って読める人物が現れた。
その人物はドイツ人で、何年も前に街中で狂言を繰り返して、精神を病んでいるとされて長期に
一枚目が届いてから何年も経っていて、その便りは何枚にも及んでいた。
漂流した人物の返還に関する便りだったという。それの交渉に関する便りが何通にも及んで届いていた。
ほかにもこちらの世界から向こう側に漂流した者の引き取りに関する便りなどもあった。大暴れしているようで、それの帰還させる手続きをしたいということだった。
しかし、最後に解読を行った三日前に届いた便りに記載されている内容が騒然とさせた。
『
それからそうかからないうちに現実には説明できない現象が確認されるようになった。
ある国の砂漠ではいきなりぽっかりと穴が空いてその奥では炎が燃えている。それは溶岩のようなものなのか、はたまた大気中の何かを燃焼しているのか……。ある国から始まりある国まで続いている巨大な川が突如として真っ二つに分断された。百メートルに及ぶ滝になって近隣への影響まで調査が及んでいない……。ある国にある遺跡の調査隊との連絡が絶たれた。救助たちは周辺に高濃度の二酸化炭素が発生しているとのことで救助活動は未だに行えていない……。
こういう自然現象に基づく奇妙な土地は存在するが、それらが突如として世界各地で起きるのは話が違う。
これを『攻撃』だと判断した。
人類文明には、この別世界からの便りに応えて返還をすることどころか、返信することもできない。
そうして、十数年前に『箱庭』ができて、『漂流者』が集められるようになった。それらの便りは今も届いているが、既にそのドイツ人の女性は亡くなっている。『箱庭』に掻き集められた人間の中から
■
僕たち人類は、真っ暗な森の中を歩いているようなものである。
狩人はどこかに潜んでいて、どこかから銃声が聞こえてくる。それに脅えながら草木を掻き分けながら歩くしかない。
狩人は暗闇の中で
漂流者の箱 かきはらともえ @rakud
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