第14話 誰だって切り抜く。俺だって切り抜く

 1回休みになった水野プルーフは、キャラ的に美味しいから盛り上がった。


 次に賽子を振るのはケイン=ヤクシジであり、振って出た目の数は2だった。


『危ない、2か。ゴブリンを倒して千円貰えた訳だけど、薬士の攻撃で投げる薬品のコスト的には赤字では?』


【細けえことは良いんだよ!】


【つまんねーこと言うなよ!】


【クソゲ脳!】


 リスナーはケイン=ヤクシジに対して冷たかった。


 1周目の最後に賽子を振るのはGTキングだ。


 転がって止まった目の数は3であり、それは全員にとってのギャンブルマスである。


 蟲士のプレイヤーが止まった場合、賽子を振って奇数を出せばキラーマンティスをテイムできて、偶数を出せばテイムに失敗して1回休みとなる。


 乱数はGTキングに味方し、続けて振った賽子の目は1で奇数だったからGTキングはキラーマンティスのテイムに成功した。


『蟷螂ですか。食べられますかね?』


『GTキング、テイムした従魔を食べたら駄目でしょう?』


『ここ切り抜かれたらキツいわ~』


『GTキングなら全然OKじゃね?』


『ノープロブレムです』


 堂々と言ってのけるGTキングに対し、玉子王子達のリアクションが止まった。


 折角テイムした従魔を食べようとするサイコパス加減もそうだが、虫を食べるつもりであることになんと反応すれば良いのか困っているのだ。


【キラーマンティス:オレサマ、シュジン、マルカジリ】


【キラーマンティス:主人に食べられそうになりました】


【GTキングだけ職業技能ジョブスキル要らなかったんじゃね?】


 コメント欄はテイムされたキラーマンティスの気持ちを代弁するものもあれば、GTキングだけ他3人と立っている場所が違うのではと指摘したりしていた。


 それから5ターンが経過し、玉子王子達の武器や装備も整って来た。


『僕の番ですね。目の数は4、おっとギャンブルマスですか』


 奇数を出せばソードリーキに装備を壊されてそれを修理するのに20万円の出費であり、偶数を出せばレッドブルを倒した報酬で20万円貰える。


 玉子王子は乱数に愛されているのか、4の目を出して20万円を貰えた。


『おかしい! 玉子はフォールンゲームズの開発部と寝たに違いない!』


『そんなことしてませんよ。というよりも、Vスターズのアイドルがその発言は不味いんじゃないですか?』


『はっ、しまった!? 切り抜かないで!』


【切り抜くだろ】


【誰だって切り抜く。俺だって切り抜く】


【Vスターズ法務部:水野プルーフ、仕事増やすんじゃねえ!】


 うっかり発言をしてしまった水野プルーフに対し、リスナー達のコメントはプ虐精神に満ちていた。


 そんな水野プルーフは6の目で追い上げており、次に止まったマスは玉子王子の1つ手前の宝箱チャレンジマスだった。


 このますでは6つある内の5つが宝箱で、残る1つがミミックという状態から1つを選ぶことになっている。


 プレイヤーに有利な状況なのだが、水野プルーフは6分の1の確率を引き当ててミミックと戦闘する羽目になる。


『どうしてなのぉぉぉぉぉ!?』


【シンプルに草】


【ゆえちゅ♡】


【それはね、みずのんがみずのんだからだよ】


 愉悦を求めるリスナー達はこうなることを期待していたため、水野プルーフが台パンしながら叫んだ直後にコメントを加速させた。


 ミミックを倒して得られる物は宝箱に比べて価値が低いから、水野プルーフは折角のチャンスを逃したことになる。


 次に賽子を振るのはケイン=ヤクシジで、5の目を出して修練マスに着いた。


 賽子の1と2の目を出せば次の戦闘を伴うギャンブルマスでの勝率が上がり、3と4の目なら逆に勝率が下がる。


 5と6の目が出た場合は勝率に変更がない。


 ケイン=ヤクシジは6の目を出し、プラマイゼロの結果になった。


『クッ、撮れ高的に美味しくない』


『私の不幸を分けてあげようか? 撮れ高的に美味しいよ』


『えっ、要らない』


『どうしてよ!?』


 水野プルーフが抗議するけれど、ケイン=ヤクシジはスルーした。


 マイペースなGTキングは自分の番が来たので賽子を振り始める。


 出た数字は2であり、ケイン=ヤクシジと同じ修練マスに駒を進めた。


 テイマー系である蟲士の場合、賽子の1〜3の目を出せばテイムしたモンスターのどれかがランダムで進化し、4〜6の目ならモンスターに変化はない。


『3ですか。テイムしたモンスターはキラーマンティスだけですから、これが進化する訳ですね。ん? チャームマンティス? 特殊進化ですか』


『妬ましい』


 キラーマンティスは通常進化の場合、アサシンマンティスになるのだが、幸運にも特殊進化でチャームマンティスになった。


 この幸運に不運の持ち主筆頭の水野プルーフは妬まずにはいられない。


 それからしばらくターンが進み、そろそろ終わりが見えて来たところで、スタンピードフェイズが訪れた。


 スタンピードフェイズとは、モンスターがダンジョンから溢れて人間の住む場所を侵略する強制イベントだ。


 プレイヤーがどのマスにいようと、必ず巻き込まれることになっている。


 その時、水野プルーフのイラストが窓から消えた。


『おや、みずのんの接続が切れましたね』


『なんだって、敵前逃亡だと!? 許せねえよなぁ!』


『このまま進めるのは良くないですね。王子、みずのんから連絡はありますか?』


『回線の不具合だそうです。幸い、毎ターンセーブされてますので、復旧できるまで優雅に雑談でもしましょうか。幸いなことに、キャンディーは箱から溢れるぐらいありますので』


 接続トラブルがあったようだが、玉子王子はクールに対応してみせた。


 (まさか件のキャンディーは読まないよな?)


 玉子王子の中身である或斗がそんなことはしないと思ったが、昴は少しだけ心配した。


 幸い、昴の心配は杞憂に終わり、玉子王子によって読み上げられた質問はVTuber配信あるあるの質問が選ばれた。


『今日は何時に起きましたか? ということですが、ケイン君から訊いてみましょう』


『スゥ~…、9時』


『まさかとは思いますけど、午前ですよね?』


『午後9時』


『ちゃんと人間して下さいよ』


『人間だよ!』


 (人間するって動詞はないんだよなぁ。意味はわかるけど)


 玉子王子がその場で口にした言葉に対し、昴は心の中でツッコんだ。


 リスナー達の反応は二分されており、夜に起きた者達は自分もそんなものだと好意的な意見を示し、朝起きる人達は自分がちゃんと人間していたとコメントした。


『さて、GTキングはどうですか?』


『午前4時ですね』


『ケイン君と違って早起きですね。その時間に起きて何してたんですか?』


『朝食に使える野草とカメノテ、昆虫を採ってました』


【GTキング、頼むからちゃんとした物食べて (ご飯代:10,000円)】


 野草とカメノテまではまだスルーできたが、昆虫は無視できなくてスパチャを投げるリスナーが現れた。


 それについて玉子王子が触れると、GTキングは好きで食べているから安心して下さいとにこやかに返した。


 雑談している内に準備が整い、水野プルーフが冒険者双六に復帰した。


『みずのん、お帰りなさい。今日何時に起きましたか?』


『ただいま。朝の7時だね』


『人間してますね。ちなみに僕はその1時間後の8時ですので、人間してないのはケイン君だけでした』


『解せぬ。食べてる物はGTキングよりも俺の方が人間的なのに…』


 それは確かにというコメントが多発したあたり、まだまだ雑食普及の道のりは遠いらしい。


 ゲームに戻るが、スタンピードフェイズはリアルのトラブルとは違って波乱なく終わり、そのまま順位発表に映った。


 結果として、1位から順番に玉子王子、GTキング、ケイン=ヤクシジ、水野プルーフで終わった。


『はい、ということで順位が出揃いましたね。楽しかった時間もそろそろ終わりが近づいて来ましたので、コラボ企画で3回もやったのに4位のみずのんから感想を貰いましょう』


『言い方ァ! 王子ってば死体蹴りは良くない! 次は玉子王子のスマイルを悔しい表情にさせてわからせてやるわ!』


 コメント欄は大草原が広がっており、500円~1,000円でのコント代というスパチャが飛びまくった。


『できるものならやってみろということで、お次は3位のケイン君に感想を貰いましょう』


『無性にクソゲーがやりたくなって来た。これ終わったらさぞ楽しいクソゲーができるはずだ』


『禁断症状が出て震えてるんだよな』


『人間してないクソゲーハンターってどうなん?』


『良ゲーを箸休めにするなw』


 コメント欄はケイン=ヤクシジのコメントを受け、水野プルーフの感想とは違う観点で笑っていた。


『人間失格候補はおいとくとして、GTキングはいかがでした?』


『明日はリアルで虫をテイムできないか挑戦したいと思います』


『子供に虫相撲を仕掛けたりしないで下さいね。はい、僕も今日は初めて冒険者双六に触れてみましたが、初めてなりに楽しく遊べました。友達を誘ってまたやろうと思います。おつ王子でした。お嬢様方はGTキングのモンスターと戦って自分磨きでございます』


『『『おつ王子でした』』』


 配信が終わり、画面がエンディングアニメーションに切り替わった。


 (ちょっと気になるコメントがあったな。調べてみるか)


 昴は配信を楽しめたけれど、それと同時に気になることができたためすぐに調べ物を始めた。

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