第13話 玉子王子が奇術士なのは解釈一致だわ

 昴達がノートパソコンと大画面のテレビに繋いでそこで或斗の配信が始まるのを待つ。


 或斗のVtuberとしての姿である玉子王子は、今日の配信では他のVTuberコラボでゲーム配信を行うことになっている。


 ホストは玉子王子らしく、We Tubeの画面の左下には玉子王子チャンネルの文字があった。


 玉子王子のアイコンだが、黄色いネクタイに白い上下のスーツという目玉焼きカラーのホストである。


 なかなかこの色のスーツが似合う者は少ないのだが、そこは二次元の存在だから上手いこと調和されている。


 VTuberによっては時間通りに配信されずに遅刻することもあるけれど、玉子王子は定刻通りに配信が始まる。


 オープニングアニメーションが終わったところで、玉子王子が早速話し始める。


『お嬢様方いらっしゃいませ。茹で卵はハードボイルドよりも半熟派の玉子王子です。よろしくお願いします』


【今日もイケボで耳が幸せ! (指名料:1,000円)】


【この時のために今日も働いて来た (指名料:1,000円)】


【安心して下さいまし。金ならありますわ (指名料:50,000円)】


 (マジかよ。いきなり赤スパ出たんだが)


 We Tubeにおいて玉子王子チャンネルではスパチャ、正式にはスーパーチャットが解禁されていて、We Tubeに手数料を3割取られるけれども挨拶だけで36,400円稼いだ玉子王子に昴は戦慄している。


『最初からご指名ありがとうございます。この一時を楽しんでもらえると嬉しいです。さて、今日はフォールンゲームズの冒険者双六をやりますよ。勿論、僕だけでやるなんて寂しいことはしません。早速一緒に遊ぶメンバーを紹介していきましょう。まずはVスターズの元気印、水野プルーフちゃん!』


『はーい! 皆さんこんみず~! Vスターズゲーム担当水野プルーフで~す! よろしくお願いしま~す!』


 水色の髪のロリアイドルが元気に挨拶すると、玉子王子が微笑みながらそれをいじる。


『みずのんって何時からVスターズのゲーム担当でしたっけ? Golem Battle OnlineのNPC瞬殺RTA配信見たんだけど大丈夫ですか?』


『スゥ~…。違うんです! あの時はゲーミングチェアにコーラ零しちゃって、動作不良が起きてたんです!』


『はい、ということだそうなので今日は動作不良の関係ない双六で思う存分実力を発揮してもらいましょう』


 (ちゃんと相手のキャラをわかっていじってるな。やるじゃん)


 水野プルーフはVスターズの中でもお調子者なので、この扱いが理想的というのが一般的な解釈だろう。


 それゆえ、昴も玉子王子の進行を見てプロは違うなと感じた。


【王子はちゃんと見てるね】


【みずのん雑魚なんだよなぁ】


【あれは酷くて草しか生えない】


 コメント欄も水野プルーフに対して辛辣なぐらいが丁度良いようだ。


 時間は有限だから、玉子王子は次のゲストである黒縁眼鏡の男性研究者の紹介に映る。


『お次は白衣のくせに理系らしさを感じない、ゲーム大好き丑三つ時のケイン=ヤクシジ君!』


『結果には必ず原因がある。世にクソゲーがあるのは俺がクリアするため。どうも、クソゲーマーのケイン=ヤクシジです』


 クールに決めるケイン=ヤクシジに対し、玉子王子はニッコリと笑みを浮かべながらいじる。


『ケイン君の穴を掘っては埋めるゲームの配信を見ました。あれの何が面白いんですか?』


『VTuberにはああいう意味のない作業に没頭して自分を見つめ直す時間が必要なんだ! 君達だって配信しない日は部屋の隅で膝を抱えて天井をじっと眺めたりするだろう!?』


『しません』


『しないよ』


 玉子王子も水野プルーフも即座に否定した。


 このレスポンスの速さにはケイン=ヤクシジが衝撃を受ける。


『マイナーなのは俺…だと…!?』


『クソゲーマーの時点でマイナーでしょうが。はい、次行きましょう』


 バッサリと斬り捨てる玉子王子を見て、リスナー達のコメントは大草原不可避である。


 最後に残ったのはサングラスをかけたハードボイルドな料理人だった。


『お待たせしました。料理の趣味こそアレですが、実はゲームも美味いと言われる無所属、GTキングさん!』


『3,2,1,雑食雑食。雑食追い求めて35年、GTキングです。よろしくお願いします。お近づきの印にコオロギビスケットをどうぞ』


【やめろォ! (掃除代:500円)】


【雑食テロすんじゃねえ!】


【やはり雑食! 雑食は全てを台無しにする!】


 リスナーのコメントはGTキングの雑食に対して否定的なものが多かった。


 それはGTキングが癖の強い雑食ばかり布教しようとするからであり、もう少しハードルの低い雑食を出せば反応はマシになるだろう。


 そんなリスナー達程ではないが、玉子王子も冷静にGTキングの好意に遠慮する。


『GTキングさん、気持ちだけありがたくいただきます。改めて今日は皆さんご存じの冒険者双六をやる訳ですが、皆さんはやったことありますか?』


『コラボ企画で3回やったよ!』


『クソゲーじゃないから触れてない』


『少し前にコラボで1回やりました』


 玉子王子の投げかけた質問への回答を聞き、リスナー達が最も反応を示したのはケイン=ヤクシジの回答である。


【クソゲーじゃないから触れてないは草なんよ】


【穴掘って埋める暇があるなら良ゲーに触れろ】


【丑三つ時の同期コラボでこいつがいなかった理由それかよwww】


 リスナーのコメントで頷けるものがあったから、玉子王子もそれを拾う。


『冒険者双六は良ゲーですよね。ケイン君が今回コラボの誘いに応じてくれたのはなんででしょうか?』


『マネージャーからクソゲーばっかりやってると頭がクソになるぞって怒られたので、たまには良ゲーに触れて口直しをすることにしたんだ』


『あくまでクソゲーのためにやるんですね、わかりました。では、ここで知らない方のために冒険者双六について説明します』


 玉子王子はケイン=ヤクシジのクソゲーへの拘りをこれ以上掘り下げるつもりはなかったため、冒険者双六について説明を始める。


 1~4人で対戦可能であり、プレイヤーはダンジョンが出現した世界で職業技能ジョブスキルに目覚めた冒険者として双六をするゲームだ。


 ゴールした際のプレイヤーの所持金や強さで総合的に順位が判断されるから、資産で順位を決める面白おかしい人生を切り抜いた双六とはやや異なる。


 最初は画面に映るスタートボタンを押し、そうすることでプレイヤー全員の職業技能ジョブスキルを決める必要がある。


 4人が順番にスタートボタンを押した結果、玉子王子が奇術士で水野プルーフが笛戦士、ケイン=ヤクシジが薬士、GTキングが蟲士に決まった。


 (玉子王子が奇術士なのは解釈一致だわ)


 昴は玉子王子のイラストを見て、奇術士の職業技能ジョブスキルは玉子王子にぴったりだと感じた。


 ちなみに、昴は冒険者双六が発売された時に新商品プレイ記事を書いたため、このゲームについてちゃんと理解している。


 風華は昴がその記事を書く際、マルチプレイも試した方が良い記事が書けるはずと提案し、ちゃっかり一緒にプレイしたことがあった。


 その一方、ユキはこっちに来てまだ1ヶ月しか経っていないから、ゲームの存在も最近ようやく理解して来たところである。


「昴、私も冒険者双六をやってみたい」


「それなら後で或斗に借りに行こうか。それか或斗とここの3人でやる? 丁度4人対戦になるし」


「賛成!」


「偶には良いんじゃない?」


「よし、決まりだ」


 冒険者双六をやれると知り、ユキは尻尾をブンブン振っている。


 それが体に触れてくすぐったいが、昴は嫌な顔をせず喜ぶユキの頭を優しく撫でた。


 そうしている間に、画面の中では賽子を振る順番がランダムに決まっていた。


 偶然にも順番は変わらず、玉子王子、水野プルーフ、ケイン=ヤクシジ、GTキングのままである。


 一番手の玉子王子は賽子で5を出し、オークを倒すアニメーションが終わってから5千円貰った。


『ふぅ、幸先良いですね』


『奇術士ってトランプじゃなくて、色んな小道具を投げるんだね。クソゲみを感じる』


『白い鳩を食べてみたいですね』


『クソゲみや鳩よりも次は私のターン!』


 ケイン=ヤクシジとGTキングの発言を深堀りさせてはいけないと思い、水野プルーフが賽子を振る。


 結果として、賽子の目は1だった。


『装備が壊れて1回休み!? そんなぁ…』


【草】


【流石水野プルーフ! 俺達の期待を裏切らない!】


【大草原不可避】


 水野プルーフが1回休みになったことでコメント欄が沸いた。

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