第12話 不幸でも友達たくさんな人生と幸運でも孤独な人生のどっちを選ぶか?

 昴に促されて或斗は話を続ける。


「キャンディーのとある質問を受けたVTuberがね、ここ最近立て続けに不幸な事故に見舞われてるんだ」


「具体的には誰が事故に遭ったんだ?」


「Zooの不裸眠御フラミンゴ、Vスターズのあかつきシャトル、ホワイトスノウの兎耳うさみみバニー、丑三つ時のファンキー=ドンキーだね。それぞれ、階段からの転落、移動中にベランダから植木鉢が落ちて来て衝突、乗ってるタクシーが後ろの車と衝突、食事中に喉に物を詰まらせるといった事情でそれぞれ入院してる」


「…なるほど。それぞれの事務所のホームページにあるお知らせに書いてある通りだな」


 或斗の話を聞きながら、昴は素早くスマホで調べて或斗の言っていることが事実であることを確認した。


 これは或斗の言っていることを疑っている訳ではなく、ライターとしてちゃんとした根拠があることを確認した上で記事を書くために必要な手順なのだ。


「僕もその4人とはコラボしたことがあるから知らない中じゃないんだけどさ、4人が事故に遭ったタイミングがそこまで離れてないから、事故に遭った4人に共通してることは何かあったりしてって気になって調べてみた。その結果、共通のキャンディーの質問に同じ回答をしてたんだ」


「その質問の内容はなんだ?」


「不幸でも友達たくさんな人生と幸運でも孤独な人生のどっちを選ぶか?」


「なんだその質問。一風変わった不幸の手紙とかチェーンメールの類か?」


 不幸の手紙やチェーンメールとは、この手紙やメールを一定数送らないと不幸になるという悪趣味な悪戯である。


 真っ先に昴がそう思い付いたのは、被害者4人が不幸な事故に遭っているからだろうか。


「どうだろうね。とりあえず、事故に遭った4人は全員不幸でも友達たくさんな人生を選んでたよ。ついでに言えば、このキャンディーで幸運でも孤独な人生を選んだVTuberは事故に遭ってないよ」


「ふーん。これは悪質なリスナーによる悪戯ってだけで片付く可能性もあるけど、俺の直感がそうじゃないって警報を鳴らしてるんだよな」


「そっか。それなら昴に記事を書くついでに調査してもらうべきかな。実はね、そのキャンディーの質問が僕にも来てたんだ」


「やっぱりか。そんなことだろうと思ったよ」


 或斗は自分の力で人を助けたいと思うぐらいには優しいが、そうは言ってもスルーできる災難にわざわざ足を踏み入れるような性格ではない。


 だからこそ、昴は或斗に疑惑のある質問が来たのだろうと予想していたが、それは案の定当たっていた。


「バレてたか。一応、今日僕がやろうとしてる配信は歌ってみた配信だからキャンディーは読まないんだけど、そろそろ雑談配信しないとキャンディーが溢れかえってるんだよね。リスナーからもせっつかれてるからさ、できれば遅くとも3日後に心置きなく雑談配信したいんだ。昴、3日でなんとかできる?」


「随分とタイトなスケジュールだが、やれるだけやってみよう」


「ありがとう。調査にかかった費用があったら遠慮なく言ってね。こう見えてもお金ならあるから」


「経費は発生したらちゃんと請求するさ。それはそれとして、或斗はダボダボした服ばっか何着も買わないで、少しは外行きの服を買え。日没後は外に出られるだろうが」


「うぐっ…」


 昴の言葉に或斗は胸に手を当てて呻いた。


 或斗は基本外に出ないから、ほとんど全ての時間をスウェットやジャージを着て過ごしている。


 外出用の服もない訳じゃないが、昴が知っている限りでは2着しかない。


 折角整った顔立ちでスタイルも良いというのに、素材の無駄遣いをしているから昴はツッコんだ。


 なお、このツッコミを或斗は風華にもされている。


 むしろ、風華はモデルだから昴よりも衣服について圧が強かったりする。


 ダメージを負っている或斗に対し、これから早速調査に向かうと言って或斗の部屋を出た。


 それから、昴は自分の部屋に戻った。


 風華は仕事があって出かけたらしく、リビングで人を駄目にするクッションに乗ってぐでーっとしているユキだけがいた。


「ユキ、出かけるぞ。ライターの方の仕事だ」


「お出かけ? すぐ準備する!」


 ずっと局員寮の中にいるのは退屈らしく、昴と一緒に外出できると聞いてユキはすぐさま犬スタイルに変身した。


 早く外に出たいと尻尾をブンブン振るユキに対し、昴は犬スタイル用の服を持って来てユキに着させる。


「こら、着させてあげてるんだから尻尾を振るんじゃない」


「お~でかけ♪ お~でかけ♪」


 どうやらテンションが上がってしまい、昴の注意がまるで聞こえていないらしい。


 仕方なく、不要な抵抗を受けつつ時間をかけて昴はユキに服を着させた。


 それから、昴は今回の一連の出来事が異世界人の関与を疑い、局用車の使用申請を行った。


 或斗から話を聞いた時、直感的に異世界人が関わっている気がしたからである。


 VTuber4人に関する記事を読んだが、いずれも人為的な事件の疑いはないと報道されており、いずれも不慮の事故として取り扱われていた。


 だがちょっと待ってほしい。


 不運な事故で1週間に1人ずつVTuberがが入院する確率がどれだけあるだろうか。


 ないとは言わないけれど、高確率で起こるとはとてもではないが考えられない。


 この申請は円香局長に行うのだが、調査対象を聞いてすぐに許可が下りた。


 昴が記事にしようとする時、それはそこそこの頻度で異世界人が絡んでいるから、その嗅覚を見込んでの許可である。


 ユキを助手席に乗せて、昴は4人のVtuberが事故を起こした場所を局用車で回る。


 その目的は聞き込みもしつつ、ログウィードの種を植えて過去の情報を集めるためだ。


 この聞き込みの際、意外にもユキはこんな風に役に立った。


「可愛い~♡ お兄さん、この子なんて名前なんですか?」


「ユキです。人懐っこい女の子なんで仲良くして下さいね」


「ユキちゃんか~。頭撫でさせて~」


「ワフン」


 ユキがスッと頭を差し出せば、女子大学生2人組が変わりばんこでユキの頭を撫でる。


 このようにして、ユキがいることで聞き込みをする際に相手の警戒心を解くことができるようになったのだ。


 今まではほんの少しだけ異能を使い、フェロモンで女性から情報を引き出していたけれど、ユキがいれば異能を使わずに情報収集ができるから、ユキの同行は昴にとってプラスに働いている。


 ほとんど1日かけて4人が事故に遭った現場で情報を集め、局員寮に戻ってから回収した膨大な寮の情報を整理する作業を始める。


 その時には既に風華も帰って来ており、休むことなく作業を始める昴にコーヒーを淹れて持って来た。


「お帰り。コーヒー淹れたわ。ブラックで良かったよね?」


「ありがとう。助かるよ」


 風華はちゃっかり昴のコーヒーの好みを把握しているアピールをして、帰った途端に獣人の姿に戻って人を駄目にするクッションでだらけるユキに違いを見せつけた。


 しまったと思ったユキは、クッションから跳び起きて昴に駆け寄る。


「昴、私も何か手伝えることない?」


「おとなしくしててくれ。それが一番ありがたい」


「そんなぁ…」


 今は集中して作業をしたいから、昴は放っておいてくれとユキに告げた。


 その辺のところを風華はわかっているので、コーヒーを渡したら風華はソファーで自分のスマホをいじってプライベートタイムに入っている。


 ユキの場合、スマホを持っていないから簡単に暇潰しできるものも無いので、シェアハウス内にある昴が書いた記事の載った雑誌を読むことにした。


 昴に対する理解度という点で、残念ながらユキは風華に負けている。


 それゆえ、ユキは昴が書いた記事を読んで昴に対する理解を深めようと考えたのだ。


 一般常識はまだまだ覚えられていないことも多いが、昴に対する気持ちは誰にも負けないつもりらしい。


 1時間程かけてノートパソコンにて情報の整理を終えたため、昴のタイピングする手が止まった。


 その音が止んだことを素早く察知したユキは、犬スタイルに変身して昴に近寄る。


「クゥ~ン」


 獣人スタイルで甘えるよりも、犬スタイルで甘える方が風華に邪魔されにくいとわかっているから、ユキは犬スタイルになっている。


 また、昴も犬スタイルの方がスキンシップしてくれるから、この姿で甘えるのがベストという訳だ。


 そういうことを考えられるあたり、ユキもユキで短期間ながら昴と風華について理解しつつあるのだろう。


 先程は少し雑な対応をしてしまった負い目もあったため、昴はやれやれと言いつつユキを抱っこして風華の座るソファーに移った。


「丁度これから或斗の配信があるんだが、風華も一緒に見るか?」


「折角だから見ようかな」


 或斗には悪いが、風華はこうすることで昴の隣にいても違和感のない口実を手に入れられたと内心ガッツポーズしている。


 ユキもユキでこのままなら、昴の膝の上で甘え続けられるということで喜んでいる。


 昴はみんなで同期の活躍を見ようとしているため、この中で一番純粋なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る