16.人質
「くそっ!!」
リーブは拳と足先に、紫色の魔法陣を展開させ、バチバチと青白い稲妻を纏う。
その稲妻の力を行じて瞬間的に移動するが、、
「意味のないことだ。」
男がその不気味な剣の剣先をリーブへ向けると、リーブの纏う稲妻が剣に吸い取られていった。
「こりゃ確かにやべぇな。」
「だから言っただろ。あの剣は俺達の天敵なんだ。」
稲妻を吸い取られ、力が抜けたように地面に這いつくばるリーブが、苛立たしげにその不気味な剣を見る。
確かに、リーブにとっては天敵といえるが、魔力の無いレントからすればどうってことないただの不気味な剣だ。
しかし、、
「計画じゃ、先に商会に潜入する予定だったんだけどな……どうすっか……ここで無駄に体力使うわけにもいかねぇし。アニマ……つかうか。」
レントの考えていた計画は、商会に隠れて潜入しあれこれやるというものだったが、、
先に刺客に出会ってしまった以上、なんとか切り抜けるしかない。
「レント、前みろっ!!」
と、そんなことを考えている場合でもなく、不気味な剣がレントの眼前まで迫っていた。
「ちっ」
レントは仕方なくアニマを使い、時を止めると、後ろに身体をそらしその不気味な剣を蹴り上げ、すぐにアニマを解除。
その間、わずか0.5秒である。
時が動き出した瞬間、男の持つ不気味な剣は真上に吹っ飛んでいった。
「貴様っ何をした!?」
当然男は何が起きたか理解していない。
「道化師のマジックだよ。」
レントは悪い笑みを浮かべ、親指で首を掻っ切るサインをとる。
すると、次の瞬間……
「ーーっ!!」
稲妻を纏ったリーブが背後から、男へ殴りかかった。
だが、、
「あんな剣なくとも、どうにでもなる。」
男は素早いリーブの拳を躱し、懐から取り出したナイフをその腹に突き刺した。
「がふっ」
「こいつ……手練れかよ……。」
リーブが普通の傭兵ならまとめてかかってきても倒せると言っていたことから、今リーブにナイフを突き刺した男は相当な手練れと分かる。
「安心しろ。急所は外してある。貴様は生け捕りという依頼だからな。だが、小僧貴様はここで殺す。」
「そりゃおっかないね……。」
リーブは脇腹と口から血を流しながらも、魔法陣を展開させ、稲妻で男を狙うが、、
「意味がないと言ったはずだぞ。」
宙に上がっていた不気味な剣をキャッチして、その剣先を向ける。
狙っていた稲妻も剣に吸い取られ絶望的状況だ。
「ちっ、こりゃどうするべきか……。」
もはや、リーブは戦える状況ではない。
現在できる一番最良の選択をなんとか考え、、
《いや、ここで無理して戦う必要はねぇか。》
レントは懐からナイフを取り出して、レントは男に斬りかかった。
男はその不気味な剣でレントのナイフを防ぐ。
「リーブ、とっとと逃げろ。」
「ふん。何を言っている?確かに急所は外したが、逃げられる傷ではない。」
確かに、あのままの傷ならばリーブは逃げることはできなかっただろう。
あのままであれば……だが、、
「なんで……お前正気か……?」
リーブは驚きと、動揺が混ざった声と目でレントを見る。
「へへっ、俺はいつだって正気よ。早く逃げろ。」
「くそっ……!!」
リーブは、悔しさでその体を震わせると完全に元通りとなった身体を使い軽い身のこなしでその場から逃げた。
「なに!?なぜ傷が治っている!?」
「へっ、ざんねぇ〜ん。取り逃しちゃったな。」
「貴様っ!!何をした!?」
「だから、道化のマジックだって。」
レントが笑みを浮かべ片目を閉じると、男は激昂しレントの胸ぐらを掴む。
「貴様は、死にたいらしいな。」
「でも、それはできないよな。アイツに逃げられた以上、俺は貴重な人質になる。」
「くそっ!!」
男はそのギョロっとした目でレントを睨みつけると、殴り飛ばした。
しかし、レントの言う通り男はレントを殺さない。
レントがナイフをしまって降参と言わんばかりに手をあげると、男はレントに手枷をはめた。
《へへっ、厳重な警備の商会にこっそり隠れて潜入するより、人質として商会に潜入する方が好都合だ。》
レントは殴られて出てきた鼻血を直さず、すすると、悪い笑みを浮かべる。
《悪いが、アイツに嫌われる俺に人質の価値はねぇぜ。》
リーブはレントに嫌われている。おそらく人質にとられてもレントなら、意味がないだろう。
しかし、これを知っているのはレントとリーブの二人だけ。
商会はよりにもよって、一番厄介な存在を人質にしてしまったのだ。
――――――――
暗い夜に朝日が差し、朝がやってくる。
早朝、スラム民達が起き始め、ぼーっと朝日を眺める中を、スラム街に戻ってきたリーブは歩いていた。
リーブは住んでいた家に戻り、その扉を開け中に入る。
最近は、レントがいたためなかなか騒がしかったが、そのレントはもういない。
いつもレントが座っていたソファに乱雑に座り、顔を手で抑えると、身体を震わせた。
怒りなのか、恐怖なのか、それとも悲しさなのか、本人ですらわかっていない。
「なんなんだ……!!アイツは……意味わかんねぇよっ!!なんで……!!なんで……なんで俺を……なんで……アタシなんかをっ……!!」
ふいに、昔使っていた一人称が出てしまう。
それだけ、リーブは混乱していた。
意味のわからない存在……レント。
リーブは自分がどうすればいいか、どう押し寄せてくる感情を潰すか考える。
しかし、何も浮かばなかった。
ふと、机を見ると身に覚えがない紙切れが置いてある。
「んだよ、これ……。」
その紙切れを手に取り、その文字を読むと………
『貴様と一緒にいた小僧の命は、今我々の手の中にある。救いたければ、昼時までにここへ来い。来なければ小僧は殺す。』
と書かれており、その下には地図とその目的地が記されていた。
「あいつら……レントを人質に……。ってことはまだ生きてるのか……。」
その紙切れを見て、レントの存命を確認したリーブはどこか安心をしていて、、
「はっ!なんで俺は安心してんだっ……!!」
すぐに自分の持つ安心という異常な感情を否定する。
「なんで俺が……アイツを助けるために……」
リーブは葛藤していた。本心では助けなければと思っていても、表面上のプライドがそれを邪魔するのだ。
《あの時、アイツがついてこなかったら、アイツは今頃普通に寝てただろうな……。俺のせいでアイツは……》
「本当に……本当にっムカつくやつだっ!!」
リーブはそう言って、家を飛び出した。
ーー同時刻、、ルービル商会の地下牢にて……
「うっうぉげぇぇぇ。」
手枷をはめられたままレントは赤い液体を口からおもむろにビチャビチャと出した。
「おいっ小僧!!こんなところで死ねば人質の意味無くなるだろっ!!」
走ってきた見張りの男が地下牢の鍵を開け、レントのいる牢獄に入って、赤い液体を確認すると、、
「これは……血じゃないな……。」
「ははっ、バレちゃった。マジックの小道具に買ったよくわかんねぇ赤い液体だよ。」
レントが笑うと、見張りの男は怒って人差し指をレントの額に突きつけた。
「ややこしい真似すんなよ!!いいかお前、自分の立場分かってんのか?人質だぞ?」
「分かってますよ。」
「お前はあのガキを呼ぶためのエサだから生かされてんの忘れるな。まぁもっとも、あのガキを捕まえれば、お前なんてすぐ処分だけどなっ!ははっ!」
見張りの男は、レントが手枷をしていて安心しているのか、舌を出し煽る。
「へぇ、教えてくれてどうも。」
その瞬間レントは、器用にナイフを取り出し、手枷の鎖を見張りの男の首に引っ掛けると、その背後に回った。
「あっあがが」
レントは後ろから鎖で、ギチギチと見張りの男の首を締め上げ、取り出したナイフの刃先を器用に見張りの男の後頭部に突きつけると、、
「このナイフで頭ブッ刺されたくないだろ?じゃあたんまり隠してある武器の場所と雇ってる傭兵の数を言え。」
おそらく、商会は魔食の剣を含めた武器をたんまりとどこかに隠している。
武器がなければ、いくら傭兵といえど戦闘は困難だ。
「あっあががっ、分かった……話す……!!最上階の応接室から繋がる隠し通路の先だっ!そこにあるっ!傭兵の数は……32だ……!!教えたぞっ!!だからっ……あががっ」
「おっけい。どうもありがとう。」
レントはしっかりと感謝を述べ、見張りの男の首を強く締め上げるとその男は気を失い、ばたりと倒れた。
「あ、悪い。強く締めすぎた。」
レントは気を失った男の服を漁り、手枷の鍵を見つけ、その鍵を器用に使い解錠すると、両手に自由が戻る。
「やろうと思えば、案外うまくいくもんだな」
もし失敗すれば時間停止で見張りを倒そうと思っていたが、能力を使うまでもなく成功した。
「さて、ここが地下で……最上階って何階だ?実際に見なきゃわかんねーや。」
当然レントはここにきたのが初めてであり、建物の見取り図など把握しているはずがない。
把握しているのは、一階から地下……ここに連れてこられた時に見たルートだけ。
「とりあえず、連れてこられた時のルートで一階にいくか。」
とはいっても、見張りが多く、地下から抜け出すだけで困難だ。
「ちっ、さっそくやるしかねぇーか……。止まれ。」
レントのアニマの力が発動し、世界の時は止まった。
把握しているルートを、物理を無視した速さで駆け抜け、一気に一階まで到達。
その間かかった時間は2秒。
5秒使えば、体力を完全に消費して動けなくなってしまうため、実質使える時間は4秒であり、そのうちの2秒を使ったので、残りの時間停止は2秒だけだ。
「やべえ、結構キツイかも。」
しかし、現在が早朝ということもあり、一階は人があまりいない。
「ラッキーっ、これならなんとか人を避けていけば……」
その上、一階にいる人達は武器も携帯しておらず、見張りではない。
《武器も持ってねぇし、警戒してる様子もない……この商会で働いてる一般人か……。》
壁にそって歩き、そこにいる人達の視線の死角をついて進んでいき、二階への階段を発見。
「よっしゃぁ……。来たぁ。」
誰にも聞こえない声で歓喜し、目立たないようにガッツポーズをして階段を登った。
階段を登ると、、
「ラッキィ〜、こりゃついてんな。」
階段を登った先には、続いて、上へ上がる階段がある。
二階の階段を探す手間が省けたわけだ。
そのまま登ると、さらに三階へ続く階段があり、、
おそらく建物の構造上、階段が最上階まで繋がっている。奇跡的だ。
その奇跡に感謝し、レントは一気に階段を登って行った。
すると、何やら声が上の階から階段を伝って近づいてくる。
「やっやべぇ……、、」
隠れようにもどこにも隠れる場所などない。
緊張感で呼吸が乱れ、心臓の音が鳴り止まずに、変な汗が背中に滲む。
「とりあえず一旦……。」
現在レントがいる場所は三階と四階を繋ぐ階段。
《三階に降りて、三階のどっかに隠れてやり過ごせばなんとかなる。》と思い、三階へ降りようとすると、、
「………だ。」
「ああその通りだな。」
という声が下から近づいてくる。
《やっやべぇ挟まれた……。》
四階から降りてくる者と四階へ上がろうとする者に挟まれ、完全に逃げ場を塞がれてしまった。
「ちっ、こうなりゃやるしかねぇか。」
レントは余儀なく、アニマを発動し世界の時間を止める。
なるべく早くそこから離れるために、1秒を使い階段を駆け上っていき、ついに最上階まで登りきった。
1秒消費して、使える残りの時間はあと1秒である。
「はぁはぁ、まずい。」
まだ戦闘すら行っていないのに、体力をだいぶ消費してしまった。
「でもよかった……この階人がいない。」
最上階……一気に内装が高級なものへと変わり、全くの無人だ。
高級ホテルかのような廊下であり、赤いカーペットが敷かれ、シャンデリアの照明が規則的に設置されていた。
まるで貴族の屋敷にでも入った気分である。
「なんだ……この成金がつくったような構造。」
無人なだけあって動きやすく、レントはいろいろな部屋を開け、確認していった。
《応接室って……ほとんど同じ部屋じゃねぇーか》
レントが締め上げた見張りの男が言っていた……応接室から繋がる隠し通路。
応接室を探していたが、最上階の部屋はほとんどが同じような部屋で、家具も配置も似たような感じである。
「これもしかしてわざとか……。あぁもうめんどくせぇし、最上階全部やっちまうか。」
レントはそう言って、ポケットから取り出した魔石……無色の魔石を机の下に置いた。
《武器がたんまりある場所だけ爆破しようかと思ったけど、最上階人いないし、まるまる爆破しちまうか。》
商会の溜め込んでる武器を爆破して、なるべく無力化しようというのが、レントの計画の一つであったが、いかんせんそれがどこにあるかわからない。
そのため計画を変更し、最上階全てを爆破することにした。
レントは各部屋を開け、無色の魔石をどんどん設置していく。
行為だけ見ればもはやテロ犯だが、そんなことを気にしている余裕はもうない。
やって来た通り、その部屋の扉も開け、無色の魔石を設置しようと中に入ると、どこか違和感を感じる。
他の部屋にはない違和感……それは、奥に置いてある本棚だ。
先程まで部屋にはなかった本棚。
それに気になったレントが、本棚を力一杯横にずらすと、、
「ビンゴだ……。」
幅1mにも満たない穴があり、その中には通路らしきものがあった。
その通路に足を踏み入れ、歩き進んでいくと古い木製の扉がある。
その扉を開けると中には、、
「やってんなぁ………。」
昨夜の戦いで見かけた不気味な剣……魔食の剣が何十個と保管されており、他にも見るからに怪しいものが大量に保管されていた。
「ん?なんだこれ……写真……?」
ふと目についたものは、レントがこの異世界に来て初めて見るもの……写真だ。
《写真なんてこの世界あるのか……。》
写真といってもカラー付きではなく、白黒写真だが、しっかりとした写真である。
しかし、それよりもその写真に写っているものの方がレントは気になった。
「女の子の……写真?なんだこの紙……。」
少女の写真と文字は読めないが何か文字が書かれた用紙とセットで保管されている。
よく見れば、似たような用紙と写真がたくさん保管されていた。
そして、それが一体なんなのか……リーブの話を思い出し理解する。
「これ……あぁそうゆうこと……。」
その写真の者達はほとんどが子供。
そして、リーブは裏で人攫いをやっていると言っていた。
そこから繋がるものは……攫われて売られた子供達の写真と、売買契約書といったところだろうか?
「つまり、この商会はやっぱ潰れといた方がいいってことか。」
レントはその写真と用紙を何セットか懐に入れ、辺りに無色の魔石を三個設置する。
レントがその部屋を後にして、先程の応接室に戻ると、、
「よう、お前がこの商会のボスね。」
「小汚いガキが私の部屋を汚しおって。即刻殺せ。」
「「「「はっ。」」」」
ちょび髭を生やし、小太りの見てるだけで腹が立ってくるような男……おそらくこの商会のトップが立っており、その周りには昨夜戦ったギョロ目の男を筆頭に何十人もの剣を持った傭兵達がレントを囲んでいた。
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