13.利害一致
「くそっ、なんで俺がこんなことっ!!」
少年は、レントを背負いながらぶつぶつ文句を垂れていた。
「だって仕方ないじゃん。お前助けたらこうなったんだもん。」
そんな少年に、レントは少年の背中からふてぶてしい顔で意見する。
「大体頼んでねぇよっ!!」
「お前、あれ、俺直さなかったら死んでたからね。一応俺お前の命の恩人だから。」
「あの傷つけたのもお前だけどな。」
《ギクっ》
「………。」
真っ当な正論をかまされ、何も言えなくなるレント。それに気づいた少年は悪い笑みを浮かべ、、
「ほら言ってみろよ。なんか言い返してみろっ」
「ぬぐぐ………。いや、つーかお前から盗んできたんじゃん。人の金。」
「ちっ、」
何も言い返せない根源にレントが気づいてしまったため、少年は黙って舌を打つ。
そこから沈黙の間が続き、少し気まずくなってレントは、思い切って会話を切り出す。
「お前さ……名前は?」
「なんで教えなきゃいけねぇーんだよっお前なんかに。」
少年はバツの悪そうな顔で、教えようとしないが、、
「いいじゃんほとんど殺し合った仲なんだし、名前ぐらいさ……。」
「なんで殺し合った奴に名前教えなきゃいけねんだよっ!」
確かに少年の言う通りでもある。あるが……
「お前は俺のこと嫌ってるみたいだけど、俺は別に嫌ってねぇーよ。金返してくれたし。」
しっかりと金を返した。それだけで、レントはもう別にいい。それに、傷を直されて、金を大人しく返した……先ほどのやり取りだけで……そもそもレントを今背負っている時点で、少年が義理のある人間だと言うことがわかった。
「どうだかな……。」
「お前、いろんなやつ見てきたんだろ?なら、俺が今本気で言ってるってこともわかるんじゃねぇーの?」
レントがそう言うと、少年はしかめた顔で、、
「ちっ、リーブだ。リーブ=フラット。」
「リーブ……なんか女みたいな名前だなっ」
「うるせぇっ!!」
デリカシーのかけらも無いレントの返事に、少年……リーブは声を荒げる。
「それに……なんか身体柔らかくない?ほんとにお前男かぁ?」
背負われているレントが感じるリーブの体の感触は、男にはない、少しの柔らかさ感じた。
それを指摘され、リーブは一瞬身体をビクリとさせたが、レントは全く気づかない。
「お前なんでそんな柔い身体であんな動きできんだよ?実は柔い肉の下にやべぇ筋肉あんの?」
「うっうるせぇーなっ!どうだっていいだろっ!!あと俺は男だからなっ!」
「冗談だって……。」
そしてまたやってくる沈黙……。
静かな空間でなる音といえば、レントを背負うリーブの足音だけだ。
再び気まずい時間がやってくる。そして今回話を切り出したのは、意外にもリーブだった。
「あのさっ、俺も名前教えたんだ。お前は?」
「あ、あぁ……、レント。ホウライ レント。ちなみに、レントの方が名前ね。」
「変わった名前してんな。」
「まぁこの世界じゃそうだろうな。」
「ーー?」
今この場でレントしか知り得ない情報。
当然、レントの言葉の意味をリーブは理解していない。
「まぁいい。ホウライレントな。覚えた。いや、なんで覚えてんだ……。こんなやつの名前。」
自分で言って自分でツッコむ……天然ノリツッコミをかます、リーブをレントはジト目で見ている。
「あのさ、いい加減その、こんなやつとか、やめてくんない?」
先程から、こんなやつだの、お前なんかだの、ずっとレントを嫌い、敵視しされているが、身に覚えがないことで嫌われるのはレントも流石に気分のいいものじゃない。
なんとか仲を修善できないか、試しにやめてと言ってみたが、リーブは「おい」と前置きを入れ、
「勘違いすんなよ。別に俺はお前と仲良しこよしをしたいから、背負ってるわけじゃねぇ。借りをつくりたくないだけだ。」
「こりゃ修善不可能だな……。」
レントにはわかる。リーブのこれは照れ隠しでもなんでもなく、本心だ。
やはり本気でレントを嫌っている。
と、そんな会話をしていると、、
「ほらっ、着いたぞ。俺の家だ。」
レントを背負うリーブが立ち止まり、そこには建物があった。
「えっ、、でか……つーかスラムにこんな立派な家……なんで?」
てっきり、とんでもなく小さい犬小屋のような家を想像していたが、全くその想像に反しそこそこの大きさの立派な一軒家である。
外装は多少は古くなりボロが目立っているが、全く住めないほどではない。
意外すぎるリーブの家に純粋に驚き口をぽかんと開けていると、、
「ちっ、、ほら、入るぞ。」
そう言って、リーブは家の扉を開け、家の中へ入っていった。
「え……中も割と綺麗……きったねぇー犬小屋みたいなの想像してたんだけど……。」
「おい、喧嘩売ってんのか。」
賞賛の意を込めて放った言葉だったが、リーブは眉間にシワを寄せてご不満のようだ。
しかし、本当に内装は想像の何倍も綺麗である。
古くなり、壁や床に傷がつき劣化はしているが、許せる範囲であり、一通り見ると机や椅子など家具はそれなりに揃っていた。
例えれば、人がいなくなって一ヶ月目の廃墟のような感じである。これだけ聞けば、相当アレだが、レントはもっと劣悪な環境を予想していたのでマシな方だ。
「ほんとにムカつくヤツだな……。」
「そんなことゆうなって。」
リーブはずっと眉間にシワをよせっぱなしだ。
それだけレントを背に乗せるのが嫌だったんだろうが、我慢してここまで連れてくるのだから、根はいいと思える。
「もうとっとと下りろ。」
「いてっ。」
そう言って雑にレントを背から下すと、動けないレントを床に放り投げた。
「あのぉ、床ちょっと硬いんで、できればそこのベットの上にでも乗せてほしい……みたいな感じなんですけど……。」
レントが視線を向ける先には、古いベットがあり、とりあえずはそこに寝かしてもらいたい。
「贅沢言うんじゃねぇ。てめぇには硬い床で十分だ。」
「まぁ、それでもいいけどさぁ……。」
硬い床に落ちてるレントを跨いで、リーブは一人用ソファに腰をかけ、ソファの上であぐらをかぐ。
「動けるようになったら、とっととこれ持って出てけよ。」
不満そうな顔で全く動けないレントを睨むと、大金の入った布袋をレントに放り投げた。
「わかってるよ。言われなくてもな。」
「ちっ、」
横たわるレントを怪訝そうに見て舌を打つと、リーブは近くに置いてある分厚い本を手にとり、ソファの背もたれに背中を全面的に預けると、本の表紙を開く。
「………。」
「………。」
そんなリーブの姿を横目にレントは何も言わずに目を閉じた。
それから多少の時間が経過し、レントが目を開けると、、
《やっと身体が少し動くように……。》
動けるといっても、指や腕を少し動かせるぐらいの微量なものだ。
リーブの方を見ると、まだ本を読むことに集中している。
こちらには目も向けずに、本を輝くような子供相応な目で凝視するリーブの顔は、どこか可愛らしさがあった。
《うーん。身体が完全に動けるようになるまでまだかかりそうだし、暇だな。》
無音な空間で、聞こえるのは本の紙をめくる音だけ。
だんだんと暇に感じ始め、すぐ近くには絶好な話し相手になりそうなリーブ……当然レントは、、
「リーブ、、」
「あ?なんだよ。動けるようになったんなら、とっとと消えろ。」
どうやら、リーブはレントと話す気はないらしい。
しかし、レントは強引に話の話題を引っ張り出す。
「あのさ、なんでお前、金なんか盗んだんだよ。」
「はぁ、そりゃ一つに決まってんだろ。生きてくためだ。」
強引に話をしようとするレントにリーブは大きなため息をついた後、仕方なそうに会話に応じた。
「生きてくためって。こんな立派な場所に住んでるヤツが言うセリフじゃねぇーな。」
生きていくため……確かに、外にいた家かもわからないような小屋に住んでいるスラムの人達が言うならわかる。
しかし、この家と内装の家具を見た感じ、リーブはさほど貧しい生活をしているようには見えない。
「勘違いすんなよレント。俺にこんな家も家具も買えるわけねぇだろ。」
「ーー?」
疑問を浮かべ、不思議そうな顔をするレントにリーブは怪訝そうに続けた。
「全部ゴミ溜めから拾ってきたもんを直して使ってんだよ。この家もぼろぼろで使いもんにならなかったのを、ゴミから漁った材料使って直した。」
リーブが目を向ける先を見ると、確かにこの家の資材とは違う資材で上から直された形跡がある。
「家具も家も、住むために必要なもんは全部ゴミ溜めから拾ってんだ。……だけど、食いもんは落ちてない……。」
リーブは舌を打ち、拳を強く握りながら、レントを睨みつけるが、その鋭い眼光の先にはどこか苦しみがあるように見えた。
「………。」
そんな目を見ていると、レントは何も言うことができず、、
「食いもん手に入れるためには金が必要だ。でも金もゴミ溜めには落ちてねぇ。なら、金集めるために働こうと思ったよ。でもっ!!誰も……どいつもこいつも俺をガキっつって、まるで相手にしねぇっ!!」
悲痛な叫びだ。
レントも仕事を探しては断られる生活をしていたため、その気持ちはよくわかる。
「それは……。」
「だから、盗んでやったんだよっ!この街の連中は、結局クソみたい目を向けるだけでなんもしようとしねぇ!アイツらのかわいそうみたいな取り繕った顔を見てると、吐き気がするっ!!」
涙を少しだけ浮かばせたその目でレントを思いっきり睨みつけると、、
「お前もだレント。取り繕った笑顔振りまいてんのがムカつく。そしてその下じゃ苦しそうな顔してる……お前みたいな人にも力にも恵まれたようなヤツがそうゆう苦しそうな顔してんのもムカつく。全部……お前はほんとにアイツにそっくりだ。お前を見てると、思い出すんだよッ!!俺が一番大嫌いな顔をッ!!」
「苦しそうな顔……俺、そんな顔……してたのか……。」
初めて指摘された問題点。
この異世界にやってきて、ずっと相手に好印象を与えようと笑顔を振りまいてきた。それは認める。
だが、レントは自分自身が苦しそうな顔をしているという自覚はなかった。
苦しそうな顔……レント本人です気づいていない苦しみ。
心当たりがあるとすればそれは……
「……………メシアか。」
ぼそっと誰にも聞こえないような声で呟く。
レントは動くようになった上半身を起こし、リーブの目を見ると、
「俺さぁ、仲間がいたんだよね。大切な仲間だ。だけど、離れ離れになった。下手すりゃ一生会えないかもしんない。だから俺はそいつに会うために、必死こいて生きてんだ。」
「何言ってーー」
「お前の言う通り、俺はいい奴らに恵まれたよ。」
リーブの言葉を遮り、続ける。
いい奴ら、本当にいい人達だ。
ジークスに、宿屋の家族に、社長に、レッキレ。
「そう恵まれたんだよ。そいつらも、この街の……お前が吐き気がするとか言ってたこの街の住民だ。」
「ーーっ!?」
「確かに、俺もいろいろと散々だったさ、お前の言うこともわかる。けど、中には、本当にいいヤツってのもいるもんだぜ?」
「それは……。」
「それに、恵まれた力なんて……俺のはそんな都合のいい代物じゃねぇーよ。弱点、デメリット付きのポンコツ能力だ。今だってそのせいでこうなってる。」
アニマにはずいぶんと助けられてはきたが、デメリットがとんでもなくデカい。
そんなに都合のいい能力なら、レントは今頃魔物狩りのトップにでも君臨しているところだ。
「だから、自分にできること精一杯やって生きてるだけ。お前と同じだ俺は。」
リーブも話しを聞くに、ゴミ溜めからものを漁って住める環境を自分でつくって、その身軽さを活かして盗みをする。
やり方は違えど、レントもリーブも必死にできることをやって生きているという点では同じだ。
「ちっ、もういいっ!!動けんならとっとと帰れ。」
リーブは顔をそっぽ向け、手で払いのける動作をして、レントを家から追い出そうとしてる。
しかし、レントは立ち上がるが家を出ていく素振りをみせない。
「そこで提案なんだけど、今俺住む場所を探しててね、この家がいいなって思ってさ、どう?」
「はぁ?てめぇー何言ってんだ?とっとと出ていかねぇとまた痛み目見せるぞ。」
レントの意味のわからない言動に、リーブはついに堪忍袋が切れたようで、拳を鳴らしレントを睨みつける。
「冗談なんかじゃねぇよ。お前食うもんがないんだろ?もし俺をここに住ませてくれりゃ、朝昼夜の飯は提供する。俺は住む場所を見つけられるし、お前は腹一杯食える。お互いメリットだらけよ。」
「なっ……そんな、なんで……なんでお前とっ!」
「悪い条件じゃないだろ?」
「んぐっ……。ちっ、勝手にしろ。あくまでお互いのためだ。てめぇと馴れ合うつもりはねぇからな。」
「じゃっ、成立なっ!」
「おい、今の聞いてたか!?」
「ヤッタァ。住まいゲットぉ!!」
全くリーブの話しを聞かずに、レントは飛び跳ね、嬉しさを身体で表明する。
ーーレントは家を手に入れた。
――――――――――――
ーー一翌日。
「ぐずっ、レントさんほんとに行っちゃうの……?」
朝から、宿屋の娘……トリアは泣いていた。
理由は、レントがついに宿屋から旅立つからである。
「泣くなってぇ〜トリア。別に一生会えないってわけでもねぇし、たぶん。」
「たぶん!?」
「いっいやいや、違う。絶対会えるって。」
ものを全て詰め込んだトランクケースを持つレントは、泣くトリアの頭を優しく撫でた。
「絶対だよ……絶対会いにきてね。」
「わかったって。会いにいく。」
レントはそう言って、もう一度トリアの頭を撫でる。
「じゃ、トリーさん、店主、いろいろありがとうございましたっ!!」
トリアと一緒にレントを見送る宿屋夫婦に、今までのお礼をきっちりと伝えて、お辞儀すると、
「いいってことだ。レントくん。トリアの言う通りまた来てくれ。」
「あまり無茶しないようにねぇ。」
「はいっ!」
と、夫婦も暖かくレントを見送り、レントも精一杯の元気な挨拶を返した。
「じゃーねぇっ!!レントさぁん!!」
泣きべそかいて、大きく手を振るトリアにレントも半分涙目だ。
「じゃぁーーねぇーっ!!」
街中だと言うのに、それは大きな声で別れを告げ、レントは旅だった。
スラム街の一角、ほとんどが廃墟と壊れた家、家とも言えないスラム民達の建物に埋もれる中、その場違いに立派な建物は堂々と建っている。
その扉を開けて「おじゃましまぁーす。」という一言をいれてから、中へ入っていった。
「ほんとに来やがった。部屋は勝手に使え。二階の一番端の部屋には入んなよ。俺の部屋だ。」
そう言って、腕を組み出てきたのがリーブだ。
ずっと顔が怖いで、歓迎されている気はしないが、とりあえずはルームメイトにあいさつである。
「おっけ。じゃ、よろしく頼む。」
と握手を申し出るが、リーブは興味がないようで無視。
その代わりに人差し指をレントの胸に突きつけ、、
「あと、約束のもん持ってきただろうなっ?」
「わかってるよ。ほら……」
レントはトランクケースをガチャリとあけ、中からいろいろ取り出した。
「りんごに、なんかの肉に、パン、卵、あと野菜もろもろ。ちゃんと買ってきた。」
先程、このスラムに来る前に買ってきた食べ物達だ。
「ひっ……ひさしぶりにみた……。そんな食いもん。」
レントが見せた食べ物を、リーブは神をも見るかのような目で凝視し、口から一滴の唾液をたらりと垂らす。
「おぉ、そんなに腹減ってたのか。食いたきゃ今食っても別にいいぞ。」
「はっ。余計なお世話だっ。……一応、礼は……言っとく。」
レントに醜態を晒していると気付いたリーブは、急いで垂れる唾液をすすりもどし、顔を赤くして感謝を述べた。
「えっ!今なんて言った!?なんて言ったんですか!?」
「うるせぇっ!!」
「あぶはっ」
その感謝に反応したレントが、半分悪い顔でその顔を近づけると、リーブの蹴りが飛んでくる。
「いてて……。乱暴なやつだな。」
「言ったはずだぞ。お前と馴れ合うつもりはないって。ただ利害が一致しただけ。馴れ馴れしくすんじゃねぇよ。」
「えぇ〜、まだそんなに俺のこと嫌い?昨日なんかめっちゃいい感じのこと言ったじゃん俺。」
いつまで経っても上がらないレントの好感度。多少なりとも心を開いてくれているとは思いたいが、リーブの態度を見るに仲良くなるには相当時間がかかりそうだ。
「チッ。」
舌を打ちながら、もらった食べ物をテーブルに並べ、何も言わずに二階へ去っていく。
そんなリーブの様子を、レントはやれやれと肩をすくめて、見ていた。
《こりゃ厳しいな。》
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