9.魔法


「痛たたた……。頭いてぇ。うっ。それに気持ち悪い……。うわぁ、頭ぐわんぐわんする。」


 朝……日が差し鳥の囀りに起こされ、起床すると、激しい頭痛と吐き気がレントを襲った。

 ベットから上半身だけを起こすと、頭痛は増していく。

 昨日の清々しい朝とは違い、仕事が決まって二日目の朝は、最悪だ。

 普通なら、急いで病院に駆け込み原因を探してもらうのだろうが、原因ならもうわかっている。

 それは……


「これがあれか……二日酔いってやつか……昨日の……。」




 ーー昨日の夜


「レントっ!お前も飲んでみるか?」


「だから俺……いや、飲んでみまーす!!」


 レントは、大人達が美味しそうに飲む酒に、興味がある。

 美味しそうだから飲んでみたいとかではない、単なる好奇心だ。


 本当に酒を飲めば、酔っ払っていい気分になれるのか、興味はあったが、元いた世界では厳しい法令と環境が許してくれなかった。


 しかしここは……


「異世界なんだし、どうせ法なんてあまっちょろいだろ。」


 ぼそっと呟くと、社長から分けてもらったジョッキを掲げた。

 環境も、酔っぱらいの鉱夫達。レントの予想通り、本気で止める者は誰一人としていない。


「ホウライ レント、初酒いきまーすっ!!」


 そう言ってジョッキに入っている酒を一気に喉に流し込んだ。


「おおいいぞぉ」

「あんまりやりすぎんなよぉー。」

「いけえっ」


酒を一気飲みしてる子供を見て止めないのは、流石にどうかと思うが、レントの一気飲みで鉱夫達はまた盛り上がる。


「ぷはーーーっ!!うーーんっ!!マズイっ!!」


 初酒の感想一言目は、『マズイ』口に広がるアルコール感と苦味、レントの舌はそれをマズイと受け取った。


「はははっ!!そりゃそうだ。酒なんてそんなもんだよ。」

「でもなんか気分が良くならないかっ?」


 マズイとは感じたが、まだ酔っている感覚はない。


「おかしいな……。全然普段と変わらねーぞ」


 顔が赤くなるわけでもなく、皆の言う気分が良いというのも実感がなく、普段通りだ。


「まだまだぁっ!!ホウライ レントっ!二発目いきまーすっ!!」


「「「おおおーーっ!!」」」


 レントは二度目の一気飲みだ。

 鉱夫達も、思わぬ2回目に驚きつつも歓声を上げる。


「まだまだぁぁ〜〜全然酔ってねぇーーぞぉぉ」


 顔が少し赤くなり、ふらつくが、とても楽しくテンションが上がっていた。


「あへへへぁ、なんかめっちゃ楽しいぃぃ〜。」


「いいねぇ、レント」


 それからも、酒を飲んで酔っ払っていくレントと、それを止めない鉱夫達に、酒を渡すホールスタッフはドン引いた顔だ。


「うへへへぇ、もっと酒をつげぇぇ〜」


 ーーそして、翌日……現在に至る。


「やべぇ二日酔い半端ねぇ。」


 まるで脳を内側からどんどん殴られているような感覚。

 レントは顔を手で覆い、ぼーっと何も考えず無心になる。


「ダメだぁぁ。気持ぢわりぃ」


 押し寄せてくる吐き気が、レントを無心にすることを許すはずもなく、仕方なく再び身体全てをベットに預けた。

 枕を顔の上に乗っけて、ベットの上で大の字になりながら、吐き気と格闘する。

 すると、、


「レントさーんご飯だよっ!!」


 と、朝から活気のある声で、トリアはもはや自分の部屋かのようにレントの部屋の扉を開けた。


「ごめん……無理。マジで今無理……。」


 流石に、この状態でものを食べる気にはなれず断ると、トリアは不思議そうに首を傾げ、


「珍しいね……断るなんて。いつもなら欠かさず毎日ご飯は食べるのに。体調良くないの?」


「めっちゃ悪いの……。」


「なんで?」


「えっ……。いやぁその、えぇ……まぁなんだ。落ちてた食べ物食ったら腹壊した。」


 とてもじゃないが、トリアを含め宿屋の家族には二日酔いだなんて言えない。

 もっとマシな言い訳を考えたかったが、いかんせん頭が全く働かないのだ。


「えぇ……。レントさん馬鹿みたい!!」


「なっ!?」


 たまにトリアはとてつもない尖った言葉をぶつけてくるので恐ろしい。

 とはいえ、アホな言い訳なのには変わらないのだが、、


「トリア……夜は食べに行くから今はゆっくりさせてくれ……。」


「はーい。」


 素直に頼むと、トリアは案外すんなりと言うことを聞きき部屋を出ていった。


「あぁ、だめだ。今日は休もう。」


 結局この日は、二日酔いで仕事を休んだ。



 ――――――――――――


 ーーそのまた翌日


 二日酔いが完全に治ったレントは、現場へ向かった。

 地下に潜る前に、社長が外で何か作業していたため、報告へいく。


「社長……今日採掘しまーす………。」


「おおレント、昨日はどうした?」


「いやぁ、ちょっと二日酔いで……」


 怒られるかと思いながら、恐る恐る二日酔いのことを話すと、社長は吹き出し、大爆笑だ。


「おっおまえ、その歳で二日酔いってっ!うぁっははははははっ!!」


 豪快に笑う社長を見て、怒られると身構えていた緊張が抜け落ち、固い表情が一気に緩んでいく。


 働いたことがなく、よく分からないが、元いた世界で二日酔いで仕事を休もうものなら、それはしこたま怒られるだろう。


「じゃあ今日もやりますかぁ〜。」


 レントは資材置き場から子供用ツルハシを持って、地下採掘場に潜っていった。


 今回も一昨日と同じように、なるべく周りに誠意を見せつけるように採掘をして、周りをチラリと見ると他の鉱夫達も負けずと夢中である。


「見てねーし……。まぁいっか。」


 第一印象で、レントの好印象を周りに刻み込んでいるため、ここからはそれを維持するだけでいい。

 そのため、人にわざと誠意を見せるような採掘はやめ、少し作業に手を抜きつつ、サボりは絶対に避ける。


 これはレントが元いた世界でも、学校や習っていた空手でよく使っていた手だ。


 数十分、普通にツルハシで岩壁を破壊していると、削れた岩壁の中から、、


「ん?これは……。」


 赤や青、緑、黄に光る点々が見え隠れしている。


「まさか、魔石ってやつか。」


 一昨日、社長がレントに説明した魔石……採掘したらそのまま持っていっていいという臨時収入だ。


「ラッキィ〜〜。」


 早速、レントはツルハシでそこの岩壁を破壊して、光る魔石を回収していった。


「え……。マジか、めっちゃ出てくんぞ……!!」


 魔石を回収するために岩壁を破壊すれば、さらにまたその中から魔石が、、


「なんか、魔石がたくさんとれる岩なのか……?」


 ボロボロと出てくる魔石が出てきて、すでに採掘した魔石は積み上がり山を形成している。


 赤い魔石に、緑の魔石、青い魔石、黄色の魔石、白い魔石、黒い魔石、すでに全ての種類の魔石が揃っていた。


「すげえ……まぁ流石に社長が言ってたやつは出てこないよな……。」


 レントはそう言いつつどこか期待して、そこの岩壁を掘り進める。『社長の言っていた魔石』に。


 岩壁を破壊し、掘り進めると、、


「ははっ……あった……。」


 そこにあったのは、透明にそれでも輝きを持った魔石だ。危険な香りを放ち、それでいて美しさを持つその魔石は……


「殺人石……。」


 多くの鉱夫を殺したと言われる最悪の魔石。無色の魔石……殺人石である。


「ここで社長とか先輩達を呼べば、間違いなくこれは手に入んねぇ……。でも……。」


 無色の魔石の危険さは、社長に念押しされるくらい説明された。

 ここで素直に、他の鉱夫達や社長にこれを伝えれば、慎重な採掘で掘り出され、森の開拓連中に渡ってしまう。

 レントが手にすることは万にひとつもあり得ないだろう。

 しかし……だからこそ……


「欲しいっ……!!爆発するやべぇ石……。」


 レントは危ない笑みを浮かべ、それと同時にバレる心配や危険物への緊張感から汗が頬を流れ落ちる。


《俺には、まだこの魔石を傷つけないで掘り出す技術はないが……》


 鉱夫をはじめてまだ二日目、子供用のツルハシを使って採掘するような、ど初心者だ。

 一つのもの傷つけず掘り出す技術など持ち合わせていない。しかし、、


 《ひび入って、爆発するまでに時間があんなら別だ……!!》


 レントは思いっきりツルハシを振り、無色の魔石を削り取った。

 すると、当然無色の魔石にひびが入ってしまい、光が一気に強くなる。

 放っておけば、数秒後か数十秒後か……爆発し、レントはもちろん他の鉱夫達も死ぬだろう。


 だが、


《時を戻せ……魔石。》


 レントのアニマが発動し、魔石の時間を戻した。

 入ったひびが逆行してなくなり、放っていた強い光も一瞬で消えていく。


 残ったのは、綺麗に掘り出された透明な魔石。


 レントはそれをすぐに拾い上げると、何事もなかったかのようにポケットに突っ込んだ。


「あれ、今一瞬光らなかったか?」

「まさか殺人石がっ!!」

「バカかっ。だったら今頃ここら一帯吹っ飛んでるよ。」

「気のせいか……。」


 一瞬の強い光で、鉱夫達はざわついたが、一瞬すぎる光だったため、気のせいだということで終わる。


 レントはポケットの中に手を入れ、入っている無色の魔石を優しく撫でるように触り、、


 《時間を戻す能力……様々だぜっ!》


 レントのアニマの時間操作の一つである、物体の時間逆行。自分の肉体の再生だけでなく、このような便利な使い方もできるのだ。

 その利便性には感謝である。


「は、はは……。爆発する殺人石……ゲット。社長や先輩達には悪いけど……俺は欲しいもんは絶対に手に入れたいんだ。」


 いくら、時間を逆行する能力を持っていても、100%確実とは言い切れない。

 もし、、無色の魔石の時間を戻せなかったり、そもそもアニマが発動しなかったり、そんなことがあれば、社長も鉱夫達も巻き込んで殺していた。


 普通ならば、自分の力を信じていても、恐ろしくてできない。


 しかし、レントは『物欲』という己の欲望に忠実であった。

 地獄の森に行き、メシアに出会うという確実に不可能に近い目的を持つのも、『欲しいものは絶対に手に入れたい』というレントの性格からきている。


 それが、良くも悪くもレントの性質タチなのだ。


「とりあえず、これは衝撃を与えねぇように、大切に保管しとくか。」


 レントは首に巻いていた汗拭きの布で、無色の魔石を厳重に包み込み、大事にポケットにしまった。


 山積みにされた他の魔石も布袋にしまい、しっかりと回収する。


 ちなみに、この布や布袋は資材置き場にあった、自由に持ち出してもいいものだ。


 その後は、いくら岩壁を掘り進めても無色の魔石はおろか、他の魔石も出てこなかった。


「あの魔石で、最後だったのか……。」


 ーーそれから、数時間後……

 

「はぁはぁ……はぁ。」


 子供用の小さいツルハシといっても、レントではやはり少し重く、ずっと振っていると当然疲労が溜まっていく。


 呼吸が乱れ、大量の汗が頬から首筋へたらりと流れ落ちていくため、一旦ツルハシを置いて休憩していると、、


「お、レント……休憩すんならあっちに行こうぜ。ちょうど俺も休憩しようとしてたんだ。」


 と、一昨日のレントの肩に腕を巻いた若者が、鉱夫達の休憩スペースを指差す。


「あぁ、そうっすねぇ。」


 レントもその提案には全肯定であり、疲労した身体を少し回復させるため、二人は休憩スペースへ向かった。


 座れるように細工された岩に腰を下ろし、レントが身体の力を抜いていると、流れる汗がポタポタと岩に垂れていき、、


「おいレント、汗垂れてるぞ。汗拭き布はどうした?」


「いやぁ、ちょっと忘れちゃってぇ」


 嘘である。

 汗拭きの布は、現在無色の魔石を包んでいるため、レントの汗を拭くことはできない。


「仕方ねぇな。ほらっ使え。今日はまだ一回も使ってない。」


「あっ、ありがとうございます……。えっと……。」


「そうか、まだ名乗ってなかったな。俺はレッキレだ。」


「おお、レッキレ先輩……!」


 若い鉱夫……レッキレの汗拭き布を受け取り、レントはポタポタと流れる汗を拭いた。


 レントが布で汗を拭いていると、レッキレは懐からタバコのようなものを取り出し、口に咥える。


「レッキレ先輩……それタバコっすか?」


「あぁそうだ。酒はいいが、流石にこれはダメだぞ?」


 タバコを口に咥えながら器用に話すレッキレから、タバコのようなものは実際タバコであることが判明。


 タバコを吸うためには火をつけることが大前提だが、レッキレはライターなどの火付道具を出す素振りは見せない。

 その代わり……


「燃えよ。」


 と、レッキレが人差し指をタバコに向けながら言うと、人差し指の先に小さな赤い魔法陣が現れ、そこから小さい火がタバコへ飛んでいった。


 飛んでいった火がタバコの先に着火し、煙が出てくる。


 今レントが見た光景は間違いなく、、


「魔法……!!」


「あぁ、そうだ。俺の魔法だ。」


 この異世界にやってきて、二度目の魔法。

 以前は、メシアが風魔法を使っていたが、地獄の森から抜け出してから初めて見る魔法だ。


 「やっぱ魔法使えるんだ……。異世界人。」


 ぼそりと呟き、、ふと疑問が浮かぶ。


「ってか、魔法があんなら、なんでわざわざツルハシなんか使って採掘してんだ?」


 レントが手を自分の顎をつけ、独り言を言いながら考えていると、その独り言を聞いたレッキレが、、


「何言ってんだレント、そりゃ全員魔法が使えりゃ楽だが、魔法なんて誰これ使えるもんじゃないだろ?」


「え、そうなんすか?」


「いや……そうだろ。」


 レントの驚いた反応に、逆にレッキレが驚いている。

『全員が魔法を使えるものではない』おそらく、これも異世界の常識なのだろう。


「あの、全員使えるわけじゃないって?」


 無知と思われるのを覚悟でレッキレに聞くと、やはりレッキレは心底不思議そうな顔だ。


「いや、そりゃ『基礎魔法』ならちゃんと勉強して猛訓練すりゃ使えるが、『属性魔法』は素質がなきゃ無理だし……」


『属性魔法』『基礎魔法』今の会話だけで知らない言葉が二つも出てきた。

 この異世界にいる以上、魔法について知ることは必須だ。

 ここは、なんとしてでも詳しく聞く必要がある。


「あの、魔法について詳しくっ!俺、ちょっといろいろ記憶なくて……ほら、この国戦争やってるじゃないですか……。それで……。」


「そっ……そうだったのか……。お前も戦争孤児ってわけか。詳しくは聞かないが、わかった。」

 

 全くの大嘘だ。

 嘘をついてものを聞き出すのは忍びないが、魔法という必須事項について詳しく知るためには仕方ない。


「魔法についてだったか。まず、基礎魔法からだな。」


 レッキレはそう言って実際に手を上に掲げると、


「守れ。」


 すると、レッキレの魔力は魔法へと変わり、レッキレの周りに結界のようなものが形成された。


「うおおっ!」


「これが基礎魔法の一つ、基礎防御魔法だ。俺に触れてみろ。」


 レッキレに言われ、レントが触れようとすると結界のような防御魔法がそれを許さない。


「見ての通り、術者を守ってくれるわけだ。まっ、所詮は基礎魔法だからな、耐えきれない力を受ければ破壊される。」


 レッキレは防御魔法を解除し、人差し指を立てる。


「で、他にも魔力をそのままエネルギーの塊に変え攻撃する基礎攻撃魔法。身体能力を底上げする基礎強化魔法。この三つが基礎魔法だ。」


「基礎魔法……。すげぇ。」


「この基礎魔法は、しっかり勉強して、猛特訓すれば誰でもできるようになるが、相当な努力が必要になるぞ。大抵のやつは学校に通って習得する。学校はまぁ金がいるからな、ほとんど基礎魔法を使えるやつは、そこそこ裕福なやつが多い。」


「学校……。」


 やはり異世界でも、学校というものがあるらしい。

 魔法を学べる学校というのはとても興味があるが、、


 《俺魔力ねぇーから結局意味ねぇーんだよな。》


「基礎魔法を鍛え上げて、相当優秀なやつなら、そっから『応用魔法』がつかえるようになる。空飛んだり、強力な防御やら攻撃やら強化やら、いろいろできるぞ。まぁそのレベルになると、宮廷魔導士レベルだがな。さすがに俺もできない。」


「宮廷魔導士か……。」


 『宮廷魔導士』また新たに出てきた異世界単語だが、レントでも、大体想像がつく。


「で、さっきまで話したのは、努力次第じゃ誰でもできる魔法だ。だが、『属性魔法』は違う。炎、風、水、土、闇、光の属性を持つ魔法は、その素質を持つ者にしか使えないんだ。俺は運良く炎魔法の素質があって使えるが、大抵の人はそんな素質は持ってない。」


「属性……またその組み合わせか。」


 聞き覚えのある種別。魔石の種類や、原初の神々が司るものと同じである。


「まぁ、通常属性魔法は、その六種類の属性しかないんだが、本当にごく稀に新たな、六種に含まれない特殊な属性を持って生まれてくるやつがいてな、その属性はそいつだけにしか使えない。だから『固有魔法』って言われてる。」


「固有魔法っ!!なんだそれっ!おもしろいっ!!」

 

 誰も持たない新たな特殊な魔法。そう言うのが好きなレントは、目を輝かせ一瞬飛び跳ねた。


 アニマの力も魔法ではないが、誰も持たない自分だけの固有能力って点は同じである。


「ま、今説明したのが、詳しい魔法についてだな。俺もガキの時に学校に通わず猛特訓したんだ。」


 タバコを吸い、口から煙を出しながらレッキレは懐かしそうな顔をしていた。


「だからまぁ、魔法ってのは使える人間の方が少ないってわけだ。もし、特訓もせずに魔法を扱えるやつがいたなら、そいつは『天才』だ。」


「天才……か。いんのかな、そんな天才。」


「さあな。」


 そこで会話が途切れ、数分後……レッキレの吸っていたタバコがほとんどなくなった頃、、


 レントにさらに新たな疑問が生まれる。


「待て……レッキレ先輩、じゃあその属性魔法の使い手で、基礎魔法も使えるってことっすよね?」


「まぁそうだな。」


「そんな才能ありゃ、もっといいところで働けたんじゃないっすか?」


 レッキレの話を聞くに、魔法を使える者はこの世界ではとても貴重な存在だ。

 宮廷魔導士とは言わずとも、地位も名誉もそこそこ確立できてもおかしくない才能の持ち主である。


「あぁ、それはな、俺は社長に大恩があんだ。」


「大恩?」


「俺も、戦争孤児だった。しかもこの国じゃない、隣の帝国のな。捕虜としてこの国連れてこられ、解放されはしたが、食うもんもなくて、行き場もなかった。そんな時に、俺を拾って雇ってくれたのが社長なんだ。」


「なるほど……。社長かっけぇ!マジ尊敬しちゃいますね!」


 普段は好印象づくりのために、そう見せるレントだが、今回のは素直な本音でそう思っている。

 出会った当初、ハゲとか言ったのが申し訳なくなるほどいい人だ。


「へへっ、そうだろ?だから、俺はいくら才能があってもここで働き続ける。」


「いいと思うっすよぉ。めっちゃいいと思います。」


 そして、才能があろうと、律儀に恩に報いろうとしているレッキレもレントからすれば尊敬できる人である。


「へっ、話が長くなっちまったな。そろそろ仕事に戻るぞっ!」


「はいっ!」


 そう言ってレント達は仕事へ戻り、共に夕方まで採掘して、一日の採掘を終えた。


「ほらっレント、今日の給料だ。」


「あざっす!!」


 夕暮れの空の下、レントは今日も給料……13000デウスを受けり、満面の笑みだ。

 これで前回の給料と合わせ、26000デウスである。


 現場から宿屋に帰る帰り道、金の入った布袋と魔石の入った布袋を見ながらレントはニヤけた。


「金に、無色の魔石に、魔法の情報。今日はめっちゃ収穫が多かったなっ!」


 珍しく、レントの異世界生活は順調だ。


 


 

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