8.鉱夫の天敵
社長は、採掘に向かおうとするレントを止め、人差し指を立てながら、、
「あと一個、この採掘場、鉱物以外にも『魔石』も採掘できるんだが、、」
「魔石?」
久しぶりの異世界用語だ。
「魔素があるだろ?魔素が凝縮して石のような結晶になったものが魔石だ。ほら、そこら中で光ってるだろ。んで、その魔石だがもし採掘したら、自由に持ってっていいぞ。臨時収入みたいな感じだ。あぁだからって魔石採掘に集中して、他の採掘サボったら給料天引きだからな。」
先程から気になっていた採掘場内で光っていたものの正体……それは魔石らしい。
「マジすかっ!!って魔石って何に使うんですか?」
「普通に使うだろ?生活してれば。」
「あぁ〜。」
おそらく、『魔石』の使い道はこの世界の常識的なことであり、日本から来た異邦人のレントの弊害だ。
「例えばですよぉ。例えば、どんなことに使うとか……」
「例えば……料理をしたりする時は火の魔石を使うだろ?洗濯したりする時は水の魔石を使って……なんでいちいち聞くんだ?そんなこと。」
「なるほど……。ありがとうございまーす。」
「ーー?」
社長は不思議な顔をしていたが、おかげで魔石の使い道について知ることができた。
《あっちの世界でゆうライターとかそんな感じか……》
こちらでの生活必需品……それが魔石らしい。
火、水、と来たらおそらくまだ種類はある。
「ちなみに、魔石の種類ってなんでしたっけ……。」
「そりゃあ、炎、水、風、土、闇、光だろ。」
社長は、社長からすれば当たり前のことを聞いてくるレントに、顔を傾けて不思議がっていた。
《炎、水、風、土、闇、光……?どっかで聞いたような……。》
最近どこかで聞いたことのある種別だ。
自分の脳に働きかけ、記憶を遡っていくと、、
《そうだ!!世界をつくった原初の神だ。》
この世界をつくりだしたとされる原初の六神。
おそらく、偶然ではないだろう。
しかし、それについて詳しく考えると気が遠くなりそうなので、そこは割愛。
「わかりましたぁ。ありがとうございます!!」
「あっ、あと、そうだ。基本とっていいんだが、無色の魔石だけは、見つけても触れるな。見つけたら、俺でも他の鉱夫にでも言ってくれ。」
「無色の魔石?」
無色の魔石、聞いただけならなんの役にも立たなそうな魔石だが、社長は真剣な表情で話している。
「普通の魔石は、溜めた魔素を火だったり風だったり、魔法のように形として放出できるだろ?だが、無色の魔石はそれができない。溜め込んじまうんだ。」
「へぇ……。」
「で、溜め込んだものを放出できずに魔素でパンパンになる。そこに、衝撃が加えられ亀裂でも入るとどうなると思う?」
「えぇ〜。破裂する?」
レントのぼけっとした回答に、社長は人差し指を立て、、
「惜しい。もっとひどい。溜め込んだ魔素が一気に解放されたことで暴発し、爆発を引き起こす。」
「爆発……!!」
「そして、恐ろしいのはこっからだ。その近くに他の無色の魔石がたまたま埋まっていれば、爆発の衝撃でそっちにも亀裂が入り、爆発の連鎖が起こるんだ。」
「………。」
「無色の魔石が埋まってるのは、地表からはだいぶ離れた距離だから、地表で爆発が起こっても問題はない。だが、こうゆう地下で爆発が起これば、無色の魔石が埋まっている岩壁の内側まで衝撃がいく。そうすりゃ連鎖爆発が起きちまう。」
「連鎖爆発……か。」
「実際、連鎖爆発が起きて、岩盤が崩れ多くの鉱夫が生き埋めになったって事件もある。俺達地下で採掘をする人間が死ぬほとんどの原因がこれだ。鉱夫の間では『殺人石』だなんて呼ばれてる。」
「ーーひっ。」
聞いてて背筋が凍る事件だ。ただ、その鉱夫から恐れられる『殺人石』不思議と少し興味が湧いてしまい、、
「その殺人石は、見つけたらどうするんすか?」
「ありゃ危険な代物だからな。事故を避けるために、慎重に取り除いて、森の開拓連中に譲るようにしてる。」
「開拓?なんで?」
「平地にするための爆破さ。」
確かに、森などの障害物しかない場所を平地にするためは、爆破させるのが一番効率的だ。
元いた世界でも、大きい建物を解体する時はダイナマイトなどで爆破して解体すると聞いたことがある。
しかしそれよりも、、
「え、その殺人石、普通に道具として使えるんですか?」
殺人石はダイナマイトとは違い、自然から生まれた危険物。
衝撃を与えただけで爆破するなんてレベルの代物を人間が操れるのか?
「あぁ、衝撃を与えてから爆発するまで数秒の時間があるからな。手順をちゃんと守れば十分使える。でもなんでそんなこと……」
爆発……開拓や解体以外にも使える。
憎き魔物を蹴散らすのにも、使えるかもしれない。
悪い笑みを浮かべるレントに気づいた社長は厳しい顔で、、
「絶対ダメだぞ。」
「わかってますよぉ〜、んなおっかないことしませんって」
「ならいいが……。」
《上手く使えば……いいね。》
ようやく長い説明を終えて、レントはいよいよ採掘を始めた。
教えられたことを思い出し、鉱物をその小さいツルハシで削っていき、削ったものを台車に入れて運ぶ。
わからない鉱石を見つけては、周りにいる鉱夫に聞いて、何度も何度もツルハシを振るった。
「おりゃあぁぁっ!!」
ツルハシで岩壁を破壊して、鉱石を削り、、
「そらぁぁぁっ!!」
積んだ鉱物を全力で運ぶ。
ようやく見つけた仕事をクビになるのだけは避けたい、というよりも、クビになればもうあとがないのだ。
そのために……
《さぁ見ろっ俺の頑張ってる姿をっ!そして好感を持てっ!!》
何事も人から信頼、信用されることが大切だ。
そして、そのためにはまず自分の好印象を相手に焼き付けさせなければならない。
それを狙い、レントは全力で自分の誠意を見せつけるように仕事に勤しんだ。
結果レントの思惑通り……最初はレントに子供を見るような視線を送っていた鉱夫達がだんだんと感心の視線を向けるようになっていく。
そうこう作業しているうちに、あっという間に、時間は過ぎていき、、
「今日はここまでだっ!!上がるぞぉっ!」という、社長の声で、今日のレントの作業は終わった。
作業が終わり、地下採掘場から外へ出ると、もう外は夕暮れになっている。
「いやぁ今日も終わったぁ。」
「さっそく飲みにいくかぁ」
「あぁ、肩痛てぇ……、、」
鉱夫達は体を伸ばしたり、首を鳴らしたり、腕を回したり、しながら持っていたツルハシを資材置き場に戻した。
それに習って、レントもツルハシを資材置き場に戻していると、いきなり後ろから肩に腕を回され、
「新入りっ!!今日よかったぞっ!」
腕を回したのは、若干筋肉のある若い男だ。
「確かレントだっけ!!よろしくなっ!」
「よろしくお願いしますっ!!」
「おっ、いい返事だ!ほら、今日の給料もらいにいくぞっ!」
「はっはいっ!!」
男は見ていて気持ちのいい笑顔で、腕を回したままレントを社長の元へ連れていく。
社長は腕を組み、満面の笑顔だ。
「レントっ!今日はよく頑張ったくれたなぁっ!ほら、手を出せっ!」
言われたままにレントが手を出すと、社長は銀貨一枚と、銅貨三枚をレントの手に置いた。
「あっ、ありがとうございます!!」
「いや、こっちこそだっ!」
《銀貨一枚が一万デウスで、銅貨一枚が千デウスだから……13000デウス!!》
地下採掘場での日給は、13000デウス。
バイトとしては結構いい額である。
その後、社長が鉱夫達に金を支払っていき、全員に払い終えると、、
「よしお前らっ、飲みにいくぞっ!!」
「おおっ社長のおごりですかいっ?」
「そうだなぁ……レントの歓迎会だっ!!奢ってやるっ!!」
「「「「「うおおぉぉぉぉっ!!!!」」」」」
気前のいい社長の宣言に、疲れた表情をしていた鉱夫達は一気に歓声をあげた。
「もちろん、レントもいくよなっ?」
「えっ?」
先程レントの肩に腕を巻いていた男が、帰ろうとするレントの肩を叩き、止める。
「いや……俺、まだ12っすよ?」
今年で13歳になるが、まだ誕生日を迎えていないため、12歳だ。
どちらにしろ、酒を飲める年齢ではない。
もっとも、それはレントが元いた世界であるが……
「え、もしかして12でも飲めるんすか?」
「飲めるわけねぇじゃん。酒は18になってからだろ?」
「へぇ……。」
レントが元いた世界では20歳からだが、この世界では18歳かららしい。
レント自身も少し、酒には興味があったので期待したのだが、当然と言えば当然だ。
「ま、お前が飲みたいってんなら、たぶん誰も止めはしないけどなっ!」
確かに、今日一日鉱夫達を見てきたが、未成年飲酒を止めるような堅い人はいない気がする。
《正直帰って寝たいけど、親交深めとかなきゃな》
こうして、レントは飲み会に参加することとなった。
――――――――――
「今日はお疲れさん!!乾杯だっ!!」
社長が、木でできたジョッキを掲げて乾杯を言うと、
「「「「「乾杯っ!!」」」」」
鉱夫達が続いて乾杯をした。
レントは、ジョッキに入ったオレンジジュースを飲んでいる。
「それにしても、社長、どこでレント拾ったんですか?」
木でできたジョッキに入っている酒……エールを飲みながら、先程の若い男が社長に聞くと、
「そうだ。なんでだ?」
「確かに頑張ってたけどまだ子供だよな。」
「いいじゃねーかそんなの」
「詳しく教えてくれよ。」
その会話に反応した鉱夫達が続いて、社長を詰めた。
「そうだな。昨日のことだ。」
「えっ、昨日って、社長飲み過ぎて酔っ払って帰りませんでしたっけ?」
「おお?そうだったか?」
全く自覚のない顔で、ジョッキのエールを喉を鳴らしながら飲む。
レントはオレンジジュースを一気に飲み干すと、
「社長っ!酒飲んでたんすか!?」
《あの時、酔っ払ってたんかい!!》
確かに、社長との初対面の時と、普段の頼りになりそうな社長。酒で酔っていたと考えれば納得が行く。
「確かなぁ、俺が噴水で休んでる時に……俺をハゲとかバカとか言ったひどいやつがいたんだよっ」
《ギクっ……ん?おい、俺バカは言ってねぇーぞっ!話盛るんじゃねぇー。》
「ひどいやつもいるんですねぇ社長。」
「ハゲとかひでぇなぁ、どいつだ?んなひどいことゆう輩はっ!」
「許せねぇ」
鉱夫達は、自分達の社長をハゲと馬鹿にした輩(レント)に立腹する。
その横で、おかわりしたオレンジジュースを飲むレントは冷や汗がダラダラだ。
「なぁ、レントっ!許せねぇよなっ」
「ふぇっ!?あ……あぁ、マジ許せないっすねぇ、ぶっ潰してやりましょうよ。そいつぅ。」
唐突に若い鉱夫から話を振られ、とっさに返すが、全て自分のことである。
社長が「ごほん」と咳払いをして、
「それでな、おじさん傷ついてる時に、レントは励ましてくれたんだっ!!近いうち絶対もっさもさになるって」
《だから言ってねぇーーっ!盛ってんじゃねぇーよっ!!》
「はっ……はは、そうだそうだ言いましたよねぇ。大丈夫です!もっさもさっすよぉ〜」
「レント、お前いいやつだな……。」
若い鉱夫は優しくレントの肩に触れ、涙を一滴。
「えっ……なんで泣いてんすか……?」
「だってよぉ、俺知ってんだよ。社長いつも、頭に何か塗ってるの……。」
髪が生えてこないは心中お察しするが、泣くというのは少し意味がわからず、レントが苦笑いしていると、社長は机バシンと叩く。
「なんで知ってんの!?それおじさんしか知らないはずなのにっ!!」
「いやぁ、偶然見ちゃったんですよぉ」
社長は顔が真っ赤だ。何かを塗っている現場を目撃され恥ずかしがっているからなのか、酒で顔が赤くなっているのかはもうわからない。
「にしても、レントもすごいよなぁ。普通こんなハゲ落ち込んでても放置なのに、慰めるなんて。」
「いっ……いやぁ、俺困ってる人いたら見逃せないのが俺の悪い癖っすねぇ」
《その人追い詰めたのも俺なんですよぉっ!つーかお前もハゲ言ってんじゃん》
「かっ、かっけぇよレント。みんなっ!レントに乾杯だっ!」
「「「「乾杯っ!!」」」」
結局、この日は夜遅くまで飲み明かした。
ちなみに、レントも社長から酒を分けてもらい、飲んでみたら、割とハマってしまった。
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