始まりの街へ
1.その先には
メシアと別れ、地獄の森から出たその先にあるものは……
「転移先はランダム……できればちゃんとした街がいいなぁ、変な文化がある集落はやだ。」
地獄の森の転移の石碑は、どこに転移するかメシアでも分からないと言っていた。それはすなわちランダムということだ。
ランダムというのはどこかガチャのようなワクワク感がある。
レントはワクワクしやがら、目をつむり、完全に転移が終わるのを待っていた。
そしてついに転移が完了。
ドキドキしながら、レントはつむっていた目を開けると、そこに広がるのは、木々だ。
「え?」
鳥が囀り、川が流れ、綺麗な緑が生い茂るそこは……
「森じゃねぇーかっ!!」
レントは地獄の森から、また別の森へと転移してきてしまったのだ。
「あれ、森出たと思ったら、また森……おかしくね?」
せっかくワクワクして、新たな街へ行けると思っていたのに、結局変わり映えしない森の中。
「いや、でもあそこより明るい……気がする。それに空気もなんか綺麗だ。」
今レントがいる森は、とても澄んでいて明るい、綺麗な森だ。
地獄の森は、空気も重く、どこか薄暗い不気味な場所だったが、そう考えると、今いる場所とは全然違う。
「すげぇーな。異世界。」
流れる川の水はとても綺麗な青い色をしていて、見たことない綺麗な花が周りに咲いている。
「川……めっちゃ綺麗。泉みたいに癒しの効果とかないかな……あるわけないか。」
自分でボケて自分でツッコむ、いわゆるノリツッコミというやつをするが、周りには誰もいないため、全く無意味な時間が流れた。
しーんと静かな空間で……少しレントが恥を感じてきた頃、バシャバシャっという川の水を荒らす音が聞こえる。
「なんだっ!?」
地獄の森帰りで、とても敏感になっているレントはそんな細やかなことにさえまだ強く反応してしまう。
そして、その水を荒らした原因は……
骨でできた指サイズのトカゲが川を泳いでいた。
「イラ……!?」
骨で構築された怪物……ついさっきまで戦っていたやばい化け物を思い出し、全身に鳥肌が立つ。
だが、イラは指サイズではなかったし、トカゲのような形でもなかった。
よってこれは……
「似たような魔物……なのか?考えすぎか……。何ビビってんだよ俺。気を取りなおそ。」
せっかく地獄の森から抜け出せたのに、そんなことを考えていては台無しである。
「せっかくだ。ちゃんと景色をみないとなぁ」
よく景色を観察すると、鮮やかな色の蝶や、川を泳ぐ鮮やかな色の魚など、地獄の森では見たことのないものだらけだ。
地獄の森で、だいぶこの世界を理解した気になっていたが、、
「全然わかってねーなぁ。」
むしろ、分からない方が多い気もする。
しばらく、新たな森を探索してわかったことは、やはりどうにも気分が爽快だということだ。
レントの知っている空気とはまるで違う。重い鎖が一気に解けたような……長い刑務所暮らしから解放されたような爽快感を感じる。
「まぁ、そりゃそうか。スタート時点からかなりおかしかったもんな。いきなり、一番危険な場所って……」
ゲームで例えると、始まり地点が始まりの街とかではなく、いきなりラスボス手前のラストダンジョンのようなものだ。
「んなゲーム、あってたまるか。」
レントは流れている川で顔をバシャバシャと洗い、体を伸ばす。
本当に地獄の森ではその名の通り地獄ばかり、ロクな事がなかった……
「いや、メシアにも会えたし、存外悪くもなかったかな。」
いつかまた、メシアに会うために、地獄の森でも余裕で生き抜くために、レントは力をつけなくてはいけない。
「そういやぁ、物体の時間を戻す力って……ん?」
歩きながら、自分の新たな能力について考えていると、足に何かがぶつかった。
「なんだ?」
その足にぶつかったものは、生き物であり、、
「かわいい……。」
ツナの生えた白いうさぎである。
そのキュートな見た目に、レントは思わず顔が緩み、そっと静かに触ろうと手を近づけた。
普通なら、ツノが生えている時点で、危険を察するのだろうが、レントは地獄の森でとんでもない魔物達を見てきている。
そのため、危機感が全く無いのだ。
「あははぁ、かわいいねぇ〜。」
緊張感もへったくれもないマヌケな顔でうさぎに触れると、うさぎはレントの手を噛み、そのツノで腕を突き刺した。
「いぎゃっ!!いてぇぇーーっ!!!」
手の肉を噛みちぎられ、腕を突き刺されたことによって、ようやくレントは気づく。
「オマエっ魔物かよっ!!」
レントは急いで、うさぎの体を強引に掴み、腕からツノをうさぎごと引き抜いた。
負傷した箇所からは血液が流れ出て、肉が裂け骨が見えかけている。
涙が出るほどの激痛がレントを襲い、普通ならば、完治するまで相当な時間がかかるのだろうが、、
「へっ……へへっ、残念でしたぁ〜、俺のアニマの力で一瞬でぇす。」
レントは痛みで涙を含みながら、引き攣った顔で笑う。
すると、レントの身体の時間は戻っていき、食いちぎられた肉片や、流れた血がレントの体に戻っていった。
「10秒身体の時間を戻せばあっという間に元通りぃ」
うさぎの魔物に、これ見よがしに元通りになった腕を見せつけると、イラついたのか、ツノを向けてレントの腹へ突っ込んでくる。
「うっうわぁっ!!」
なんとか危機一髪で回避したものの、うさぎの魔物はすでにレントへ二度目の突撃をかまそうとしていた。
「このクソ魔物、地獄の森で受けた恨み、てめぇーで晴らしてやるよっ」
地獄の森では散々魔物に襲われて、レントも鬱憤がたまっている。
全くうさぎの魔物は関係ないが、レントからすれば同じ魔物であり、鬱憤ばらしに丁度いいのだ。
突っ込んでくるうさぎの魔物のツノがレントの腹に突き刺さる直前……
「止まれ。」
レントの呼びかけに反応した魂の時計は止まり、それと同時に世界の時は止まる。
当然うさぎの魔物もレントの腹の寸前で止まり、動かない。
レントは拳を強く握ると、思いっきりうさぎの魔物をぶん殴った。
丁度1秒が経過し、、
「動け、世界。」
レントが命じるままに止まった世界は動き出す。
世界が動き出したことにより、時間差でうさぎの魔物は殴られた衝撃でぶっ飛んでいった。
「へへぇ〜ばーかばーかっ!!俺に喧嘩売るからだよぉ〜ん!!」
つもりに積もった魔物への不満をぶつけたことですっきりし、一点の曇りのない笑顔でぶっ飛んでいった魔物をバカにする。
「見たかぁクソまも…の……あれ……なんかふらついて……」
一人で騒いでいると、唐突に身体がふらつき、力が少しだけ抜けたのを感じた。
そして、異変は他にも、、
「鼻血……?」
たらりとレントの鼻から血が流れていたのだ。
「なんで……鼻血?」
今までこの世界に来てから、一度も鼻血は出していなかった。普通なら、鼻血が出ることもある、で片付けられるが、しかし今回に限っては身体のふらつきと共にきたため、普通の鼻血とは言い切ることができない。
そして、ふらつきと鼻血はアニマを行使した直後……十中八九、原因はアニマの使いすぎである。
「だけど、まだ1秒しか………いや、時間戻しの体力も使うのか……。」
レントのアニマは時間操作の能力だ。
最初は、世界全ての時間を停止し、その中を動くことができるというものだけだった。
しかし、現在は時間停止に加えて、物体の時間を逆行させる能力を行使することができる。
ついさっき、最強の魔物……イラとの戦いで身につけたため、まだ詳細もわからず、体力や精神力をどれくらい消費するのかもわかっていなかったが……
「そりゃそうだよなぁ。んじゃあこの鼻血はアニマの使いすぎのせい……動けなくなる一歩手前ってところか。」
身体の力の抜け具合といい、鼻血といい、これ以上アニマを使えば動けなくなると、レントの身体が告げていた。
「とりあえず、さっきぶっ殺した魔物……。」
地獄の森でレントが学んだこと……それは魔物も大切な食料になるということ。
そのため、殺した魔物は必ず回収することにしている。
「確か、こっちにぶっ飛んでいって……おっ、あった。」
生い茂る草の中から白い毛の塊を見つけ、引っ張ると、先程レントが殴り飛ばしたうさぎの魔物で間違いなかった。
間違いはなかったが、、
「うわっグロいなこりゃあ」
魔物の顔面は潰れ、流れる真っ赤な血がところどころ白い毛を汚している。
少し持っていくことに躊躇しつつも、貴重な食料を無駄にするわけにもいかないため、持っていくことにした。
「やべぇ〜、なんか頭クラクラすんなぁ。やっぱ疲れてんのか」
地獄の森では身体を真っ二つに両断され、肉体の時間逆行で元に戻し、こちらに来てからは、うさぎの魔物に物体の時間逆行と、時間停止を使ってしまっている。
相当な体力と精神力の消費だ。
「物体の時間を戻す能力……時間停止よりは体力の消費が軽いな。今の俺の体力で何秒……何分前まで時間を戻せるんだ?」
新たな力の発現により、疑問点はいくらでもある。
第一に、レントの体力や精神力が最大値の時に、物体の時間逆行をした場合、一体どれくらい前まで時間を逆行できるのか?
第二に、時間逆行する対象はレント以外の生き物や、物質も、対象なのか?
第三に、世界そのものの時間は逆行できないのか?
「うーん……。世界そのものの時間を戻せる気はしねぇーな。とりあえず実験しなくちゃかぁ。」
己のアニマをよく知ることは、強くなることに必須だとメシアも言っていた。
レントがブツブツ唱えながら、よそ見をして歩いていると、『何か』に身体をぶつける。
「あれ?なんかデジャブ感。」
以前にも『何か』とこんなぶつかり方をして、ロクな目に合わなかった。
若干嫌な予感を感じ取りながらも、顔を上げぶつかったものを確認すると、、
「あ……ははは、、こんちはぁ〜〜。」
レントがぶつかったのは、全長2mほどの緑色の苔のような色をした化け物……魔物だ。
レントが地獄の森で最初に出会した魔物に似ている。
「やっぱデジャブぅぅ〜〜。」
「ぐばぐぁらぁぁぁっ」
醜い唸り声を上げ、レントを睨みつけ、じっくりレントを観察すると、
「がるあガラァァっ!!!」
急に声を荒げ出した。
「ひっひぃぃっ!!ちょっ、何怒ってんすかぁぁ……?俺なんもやってないっすよぉぉ!!」
おっかないヤンキーにでも絡まれた時の恐怖心。多少なりとも地獄の森で魔物への恐怖心は薄れているが………
《こえぇぇぇっ!!ってかやべぇぇぇっ!!今、アニマを使ったらこの森の中で動けなくなんぞぉぉ》
「おっ落ち着いてくださいよぉぉ〜、、ねぇほらぁ」
「るがしゅあアアアっ!!」
「ーーひっ!!」
なんとか引き攣った笑顔で説得しようとするが全くの無意味。
時間を停止させて、殴り飛ばせば勝てるのだろうが、そうすればレントは動けなくなる。
この森の中、一人で動けなくなるというのは=死だ。
「メシアがいればなぁぁ。」
ただでさえ、頭がクラクラして疲労が溜まっているというのに、この状況だ。
レントは本当に自分の不運を呪った。
「かくなるうえはぁっ!!」
レントは落ちていた小さい石っころ手のひらへかき集め、緑の魔物の目へ投げつける。
投げた小さい石達は、見事緑の魔物の目に直撃し、、
「がぎゅららぁぁ。」
顔を抑えて悶絶していた。
「今ぁぁぁっ!!!」
顔を抑えているうちに、レントは全力疾走で逃げ出す。
「はぁはぁひぃ〜〜はぁひぃはぁ」
元々疲労が溜まっていたのもあり、今のレントには全力疾走でさえとてつもなくツラい。
このまま撒いてどこかで休憩したいところだが、、
「おっ追ってきてるぅぅぅーーっ!!」
怒り狂った緑の魔物がレントを追って走ってきていた。
そして、、
「はっはやっ!!なんであんな巨大で速ぇーんだよっ!!」
そのスピードはレントに追いつきそうなほど速く、レントも残っている体力振り絞って全力を出し走る。
「うっうおおおぉぉっ!!追いつかれてたまるかぁぁっ!!」
先程から顔が引き攣りっぱなしだ。もはや人相が変わってしまうほど顔が引き攣っている。
「ぜぇぜえ、やべぇ……死ぬっ、まじ死ぬっ……。」
もはや体力は限界……しかしまだ魔物は追ってきていて、、
「あ、終わったこれ……マジ終わったぁ。」
そんな時、、
「あれっ……あれ人じゃん!!」
大剣を携えた大柄な筋骨隆々な男が、植物とにらめっこしていた。
「剣持ってるおっさんだぁぁっ!!」
明らかに歴戦の猛者のような風貌で、身長は2m近くはある。おそらく戦いのプロというやつだろう。
「あっあのぉぉっ!!そこの人ぉ!!どなたか存じませんがぁぁ、後ろのやつぶっ殺してくれませんかぁぁ?」
全力で声をあげ、その男に救援を要請すると、男はジロリとレントを睨みつけた。
「あぁ?なんだ小僧。ってなに後ろに引き連れてんだぁぁ!!」
おおかた、知らない小僧に話しかけられ、追い返そうと睨みつけたのだろうが、レントの後ろにはそんなものが通じない化け物がいるのだ。
これには流石に男も目の玉が飛び出るほど驚いており、、
「おいっ!!ガキぃっ!!テメェなんっちゅうもん連れてきてんだっ!!」
「お願いしますよぉぉっ!!じゃないと俺、おじさんの方いっちゃいますよ?巻き込んじゃいますよぉ?」
レントもレントで命がかかっており必死なのである。この男がレントを助けなければ、おそらくレントは死ぬだろう。
「ったく。クソガキがっ」
男は大剣を鞘から引き抜き、構える。
すると、辺りの空気がいきなり重くなり、大剣を持つ男の髪は逆立ち、異様なほどの力を放っていた。
辺りが一瞬でその男の力に支配されたのがわかる。
その圧倒的なオーラのようなものに、レントが気圧され、思わず足を止めてしまう。
背後の緑の魔物はそんなレントを狙い、その鋭い牙で噛みちぎろうとするが、、
その次の瞬間、男はその大剣を使って、上から下への軌道で、その緑の魔物の胴体を両断した。
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