5.地獄の森
「とりあえず、俺の『アニマの力』がなんなのか知りたい。」
異世界に飛ばされ二日、メシアと出会い一日が経過した。
メシアの話によると、歩けば街まであと三日ほどかかるらしい。
それまでには、自分の持つ力を知るぐらいはしておきたいのだが、、
「いいけれど……。動けなくなったら、街につく時間は伸びると思うわよ?」
メシアの言う通り、アニマの力を使うのは体力や精神的が必要であり、以前のように力が発動しても、動けなくなれば時間がかかり、余計街までの時間が伸びる。
「てゆうか、力の使い方もわかんないから、そこからか……。」
「前も言ったけど、アニマは持ち主の意志に応えるから、力を使いたいという意志があれば、発動するわ。自分がアニマの力の持ち主だということを自覚することが大切よ。」
「自覚かぁ。」
蓮永自身は、まだ自分が力を持っているという自覚がない。そもそも、異世界に来たという事実でさえまだ現実感がないのに、自分が力を持っているなど想像もでいないのだ。
「うーん。参ったなぁ。」
「とりあえず、今は街に行くことを優先した方がいいわ。街中でなら、万一動けなくなってもここよりは安心でしょう?」
「まぁ、そうだけど。」
今の第一目標は、街に行くこと。
この世界の街というものを一度見てみたいし、メシア以外と人とも会ってみたい。
そして、一番の理由はとにかく建物の中でゴロゴロダラダラすること。
恋しいベットの感触……想像したら、やる気が出てくる。
「よっしゃっ!!やるぞぉ!!」
蓮永が久々にやる気を出し、腕を上に伸ばしたその矢先に、、
「ガガガがぁぁっ」
10mはあるデカい人型の魔物が蓮永達の前を横切った。横切るだけで、そのままどこかに行って欲しかったが、そんな都合がいいわけなく、こちらに気づいた魔物が蓮永達を睨みつけた。
「はぁ、ほんとにこの世界は……。」
もはや恐怖よりも先に呆れがくるほど、この世界の命の危険は多い。
「蓮永……あっちからも来る。」
「はえ?」
メシアが指差す方向からは、5mほどの四足歩行の猪のような魔物がこちらへ突っ込んできている。
「まじかよぉっ!!」
さすがに運が悪すぎだろっとツッコミたいが、そんな余裕はない。
なにせ、前後から複数の魔物が殺しにくるのだ。
前には人型の魔物、後ろからは猪のような魔物。
まさに絶対絶命の状態……もし、メシアがいなければの話だが。
「蓮永、下がっていて。私がやるわ。」
「う……うん。」
メシアが蓮永を後ろに庇い、蓮永はメシアの影に隠れる。
メシアの影に隠れているからか、そこまで命の危険は感じない。感じないのだが、しかし、なんかこう……
「カッコ悪いな」
そんなこと言っている場合ではないのだろうが、このポジションは流石にカッコ悪い気がする。
メシアは女の子で、体格的にはおそらく蓮永の方が歳上だと思われる。
普通ポジションが逆ではないだろうか……なんて思春期男子なら考えてしまうのだ。
「うーん……ん?」
前には人型の魔物、後ろから突っ込んでくるのは猪の魔物……。
「あっ。おもしろいこと思いついちゃったぁ〜〜っ!」
蓮永は悪い顔で笑うと、メシアの手を握る。
「攻撃ちょっと待って。」
「……?なぜ?」
「いいこと思いついたから。」
前の人型の魔物は拳を振り上げて、今にも蓮永達を拳で潰すつもりだ。それに猪の魔物もすぐそこまで突っ込んできている。
『俺の合図で、地面に風の魔法をぶち込んで。俺達が横に吹っ飛ぶくらいのやつ。』
その状況で、蓮永はメシアに耳打ちをすると、メシアは少し驚いた表情をして、頷いた。
「まだねぇ……まだ。」
人型の魔物は振り上げた拳を振り下ろしはじめ、猪の魔物はすぐそこまできている。
「あと少しぃ。今っ!!」
蓮永が合図した瞬間、メシアは蓮永を抱え地面に魔法による強い風を放った。
その反動で蓮永とメシアは横に吹っ飛び、、魔物の攻撃範囲から一瞬で消える。
すると、人型の魔物は振り下ろした拳を、猪の魔物は突進を、それぞれ勢いを止めることができない。
その結果、猪の魔物は人型の魔物の腹に突っ込み、人型の魔物の拳は、猪の魔物の背中に直撃した。
両方倒れていくさまは、まさに滑稽であり、、
「だァっははははははっ!!!バカだぁっ!!」
蓮永は笑いが止まらない。
「おもしれぇっ!!ひひっ、あへへへっ!!よしっ、メシア、逃げるぞぉっ!!」
今ので魔物が二匹とも死んでればいいが、そうとも限らない。そのため、メシアの手を引っ張りその場からすぐに逃げることを選んだ。
メシアが指差した方向に走って逃げるが、その間も蓮永は笑いが止まらない。
メシアと二人で全力疾走で走り続けて、二匹の魔物が完全に見えなくなった頃、二人は歩き出した。
「いやあぁ面白かったぁ。やっぱ魔物ってバカなんだねぇ。」
「驚いたわ……。あの状況であれを思いつくなんて……。
今まで恐怖を与えられ、不安にさせられたムカつく魔物共に一杯食わせてやった爽快な気分と、間抜けな魔物の姿が相まって、蓮永の笑いの沸点を大きく刺激していた。
「まっ、俺は頭がいいからなっ!」
学校での勉強の成績はそれなりに良く、ほとんど面倒で勉強などしなくても成績をとれるくらいには地頭が良い……頭の回転も早い方であると自負している。
「それを自分で言うかしら……。」
メシアは、人生を舐めたような目で笑う蓮永を見て、小さなため息をついた。
メシアがいるとはいえ、巨大な魔物に襲われている状況で作戦を思いつく冷静さ、この状況で笑っていられる精神のタフさ……。
「私がいなくても、簡単にこの森を抜けられるんじゃないかしら?」
「えっ、やめてよ。そうゆうこと言うの。怖いから……本当にいなくなったら、たぶん俺、すぐ死ぬって。」
「どうだか……。」
何か含んだように微笑むメシアの顔を見て、蓮永はとんでもない不安が押し寄せてきてしまう。
「ほんとにやめてよ?マジで死ぬからね、俺。ねぇ、ちょっと、聞いてる?」
先に歩いていくメシアに、蓮永は冷や汗をかきながら、ついていった。
――――――――――――――
「にしても、この森本当に不気味な森だよなぁ。」
日中なのに薄暗く、やけに大きい樹木。時々人の顔のようなものをしている樹木もある。
薄気味が悪く、お化けでも出てきそうな森だ。
「それは仕方ないわ。『地獄の森』ってゆう名前なぐらいだもの。」
「地獄の森っ!?なんだその物騒な名前は……。」
突然出てきたこの森の名称は、思ったよりも物騒であるが、、
「まぁ確かに、ピッタリな名前ではあると思う。」
この不気味さと、うじゃうじゃいる危険な魔物達……確かに地獄だ。
「地獄だもんなぁ〜〜この森。」
「そう?ここはまだまだ安全な方よ。奥の方に行けば、もっと強くて危ない魔物達がうじゃうじゃといるわ。」
「へ……。」
何気ない顔で言うメシアに蓮永は、引き攣った顔を見せ、情けない声を出す。
「えっ、じゃあなに、ここまだ安全地帯ってことぉ?」
「そうなるわね。奥に行けば、まず生きて帰れない。ここは、世界の一番端で、おそらく一番危険な地帯だもの。」
「おい、なんっつうところに転移してんだ俺は……。普通、始まりの街とかじゃないの?なんで、いきなりラスボス前みたいな場所から始まってんだぁ。」
また初めて知る驚愕の事実。今いるこの場所は世界で一番危険な場所らしい。
なぜ、よりにもよってこんな場所に転移したかは分からないが、もし蓮永の運だとしたら、呪いたくなる運の悪さである。
「なんで、そんなうじゃうじゃいるんだよ。そのヤバい魔物がさぁ?」
「それはきっと、この森の一番奥にある『地獄門』が影響してるわ。」
知らない新たな単語がまた登場だ。名前を聞くにロクなものではなさそうだ。
「また、おっかない名前の門だね。」
突然、歩いていたメシアは立ち止まり、空を見上げる。
「そうね……。地獄門には行ってはいけないわ。あそこはこことはまた違う恐ろしい世界に繋がっているから……。決して開けちゃだめな扉。」
メシアは哀しそうな顔で、こちらを見ているが……
「開けるもなにも、そもそもそんな奥までいかねぇよっ!!」
「それは、そうね……。」
メシアの哀しそうな顔を見ていると、こちらまで哀しくなってきてしまう。
「なに?その地獄門?を開けたやつでもいんの?」
「ちょっと……昔にね……。」
メシアの哀しそうな顔から何があったかはわからないが、何かがあったことは察せる。
「はぁ、もおっ!そんな哀しそうな顔すんなよ。俺まで気分下がるじゃん。」
なんとか、励まそうとするが気の利いた言葉が思いつかないため、率直な意見を言うと、メシアは少し驚いた顔をして、口に手をあてて笑った。
「そうね……。歩きましょ。」
と言って、再び街を目指して歩き出す。
蓮永も、メシアも、一言も話さずに歩き、その空間を静寂が支配していた。
聞こえるのは、地面に生えている草を踏む足音だけ。
メシアはなんてことのない顔で歩いているが、蓮永にはこの静けさが気まずくて仕方ない。
それでも、その気まずさに耐え歩くが、どうにもムズムズしてくる。ついに耐えきれず、、
「あのさぁっ、俺のアニマのことなんだけど、やっぱり使ってみたいんだよねぇ。」
喋ると、メシアは不思議そうに顔を傾ける。
「別にいいけど……。貴方がやりたいなら、やってみたらいいんじゃないかしら?」
「う……うん。だよねぇ。少し時間伸びても大丈夫だよね。」
………………。
会話が途切れ、お互い喋らず再び気まずい静けさが訪れた。
「よっ……よし、じゃあ使おっかなぁ〜。」
チラチラとメシアを見ながら反応を確かめるが、ずっと黙っていて全くの無反応だ。
力を使うと言っても、発動の仕方もわからないので、どうしようもできない。
しかし、その話題を出してしまった手前引くことも出来ずに、とりあえずそれっぽい動きをする。
気まずかったとはいえ、厄介な話題を出してしまった。
「こいっアニマ!!そらっ!!」
腕を振り回し、空気を殴るがなにも起きずに、発動する気配は全くない。
これでは一人で騒いでいる恥ずかしい人だ。
そう考えると、途端に恥ずかしくなってきて、顔を赤く染め上げていく。
「あ……あの……、うーん。」
この蓮永にとって地獄な空間を打ち破ったのは、蓮永自身でもメシアでもない。皮肉にも……魔物だ。
「蓮永……そんなことしてる場合じゃないわ。囲まれてる。」
「またぁ?」
さっき襲われたばかりで、また魔物……自分の運の悪さに心底呆れながら、周りをよく見るとメシアの言う通り、草陰から気配が感じる。
草陰が動き出し、そこから出てきたのは、体長2mほどのトカゲのような魔物だ。大きさはそこまで大きくないが、しかし問題はそこじゃない。
「うっそ……。多くね?」
「モルスラケル……何十匹という群れで移動する魔物だわ。」
姿を現した魔物……モルスラケルは、黒に白い斑点模様がついた気味の悪いトカゲであり、メシアの言う通り数十匹で蓮永達を囲んでいた。
「これ……いくらなんでも逃げようがないだろ……。」
「少しまずいわね。倒せはするけど、貴方を守り切れるかどうか……。」
「えぇ!?確かに、それはやべぇ。」
単体ならメシアがタイマンを張ってすぐに魔物を倒すことが可能なのだろうが、この数十という数の中、蓮永というお荷物を抱えて戦うのはメシアでもさすがに難しいらしい。
「よし……メシア、俺は木に登って逃げてるから頑張ってくれ。」
という情けない言葉を残し、蓮永はそそくさと木に向かった。
当然、それを魔物達が許すはずもなく蓮永をジロリと、狙いを定めるような目で見ている。
「もう一つ、モルスラケルが厄介なのは、その速さよ。」
「えっ?」
その瞬間、モルスラケルは弾丸のごとき速さで牙を向けながら蓮永に突っ込んだ。
「させないわ。」
メシアは風の魔法で鋭い風を起こし、それをモルスラケルに的中させる。
蓮永に襲いかかったモルスラケルはスパリと首が飛び、血を撒き散らしながら倒れていった。
「うっ……うおぉ……。よかった、これで木に登れる。」
蓮永は一本の木に到達すると、その木によじ登る。
魔物達が蓮永をジロジロ見ているが、そんなのは気にせず、一心不乱に登り続けた。
「やべぇやべぇ……うおっ!!」
蓮永が登っている最中も、モルスラケルは突っ込んでくるが、メシアの魔法によりその胴体は両断される。
「メシアさんマジ感謝ぁぁっ!!」
自分に襲いかかるモルスラケルを相手にしつつ、蓮永に襲いかかるモルスラケルも倒すメシアは、ものすごく強かった。
その幼なげな容姿からは想像もできないほど強い。
「速く登り切って。いつまで守り切れるか……。」
数十のモルスラケルは、その凄まじい速さでメシアを襲い、蓮永を守りながら戦うのは手一杯な状況だ。
そんなメシアにとても申し訳なくなり、蓮永は急いで木を登った。
「よしっ……ここまでくれば流石に襲えねぇだろ。メシアっこっちはもういいよっ!!」
「わかったわ。」
登り切った蓮永を確認すると、メシアの動きがいきなり変わり、モルスラケルの群れを蹂躙していく。
「すっ……すげぇ……。」
蓮永という重荷が消えたことで、戦闘だけに集中できるようになったのだ。
その動きは、激しいというよりは華麗であり、一切の無駄な動きなく、素早いモルスラケルの突進を躱す。
流れるようにモルスラケルに触れていき、触れられたモルスラケルは、以前の時のようにピクリとも動かない。
「かっけぇ……。俺もああゆう戦いしてみてーよ。」
触れ損ねたモルスラケルは、風魔法で遠距離から攻撃し、どんどんと倒していく。
その数分後……モルスラケルの群れはメシア一人によって壊滅した。
魔物の群れを一つ壊滅させたというのに、メシアは汗一つ流さず、至って冷静な顔をしていた……のだが、何かに気づいたメシアは急に焦り始め、
「主がいない……!!」
「えっ?」
蓮永がメシアの焦りの言葉に顔を傾けていると、なにやら生暖かい空気を感じる。
「なんだ?」
気になって後ろを振り返ると、
「終わった……。」
全長5mはある大きなモルスラケルが蓮永の背後にいた。
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