第11話 翌朝

 いざ休んでみると相当に疲れていたようで、彼の意識はすぐに途切れ、次に目を覚ました時には木漏れ日と小鳥の囀る声が聞こえる時間になっていた。


「しまった……! 完全に寝過ごしちまった」


 勢いよく立ち上がると、隣に寝ていた結花ゆかも目を覚ます。彼女はまぶたをこすりながら起き上がる。眼鏡を外しているだけのはずだが、それだけの仕草がいつもと違って艶っぽく見える。


「おはよう、竜成たつなり君……。私、いつの間に寝てたんだろう」

「おはよう。それが分からないくらい疲れてたって事だ。いいから、まだゆっくりしててくれ」

「うん……」


 結花が再び横になると、カヴォロスは焚き木の前に座ったまま寝息を立てているエルクの許へ歩み寄る。


 エルクはそれだけで目を開けて、カヴォロスを見上げる。


「おはようございます。よく休めましたか?」

「ああ、お陰様でな。悪い、見張りを代わってやれなくて」

「いえいえ。特に問題はなさそうだと踏んだので、私もゆっくりさせて頂きました。それに、何かあればすぐに起きる事ができますから。カヴォロス殿もそうでしょう?」

「まあな。でもよかったのか? それならテントの中で休めばよかったのに」

「そんな。お二人で寝ている所に入っていくような野暮な真似は致しませんよ」


 苦笑するエルクに、カヴォロスは言っている言葉の意味が分からず、彼は何を言っているのだろうと思う。


「おや? お二人は連れ合いかと思っていたのですが、違うのですか?」

「断じて違う。家が近くて小さい頃から一緒だけどな、そういうんじゃない」


 そういう事かとカヴォロスは内心で溜め息を吐き、顔を前で手を横に振る。


 元の世界ではよく聞かれた事だったが、まさかこの世界でも言われる事になるとは。カヴォロスは再び溜め息を吐きつつ、テントを振り返る。が、そこには結花の姿はなかった。


「何が違うの?」


 と、カヴォロスの死角から声が掛かる。振り返れば、そこには結花がいた。既に眼鏡を掛けており、いつも通りのあどけない顔で小首を傾げていた。


「い、いや」

「おはようごさいます、結花殿。私はエルク。旅の吟遊詩人をしております。竜成たつなり殿とはこの森で出会い、意気投合したためキャンプをともにしております。どうぞお見知り置きを」


 カヴォロスが返答に窮していると、エルクが結花に向かって恭しく頭を下げた。助け船を出してくれたのかと思ったが、続く結花の問いに、エルクは素直に答えてしまう。


「あ、天海あまみ結花です。よろしくお願いします。……それで、何が違うんですか?」

「お二人が連れ合いではないのかということです」

「連れ合い……」


 結花は呟きながらカヴォロスを見た。目を丸くしてカヴォロスを見上げるその表情は驚きに満ちていた。遅れて顔色が真っ赤に染め上がる。


「ちっ、違います! わ、私たち、幼馴染みですけど、そういうんじゃなくて……!」


 結花は慌てて両手を大きく振り、エルクの言葉を否定する。そのまま後ろに後退する彼女は案の定、何かに躓いて転びそうになる。


「おっと。大丈夫か?」


 倒れかかった結花の身体を抱き留めると、結花は真っ赤な顔を更に赤くし、そのまま気を失ってしまった。


「結花!? 結花ぁっ!!」


 慌てたカヴォロスが身体を揺すると、


「私が、竜成君と……」


 などと、結花はうわ言のように呟くのだった。

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