第10話 休息

「顔を上げよ、エルク殿」

「はい、では――」

「許す代わりに喰らっておけ」

「ぐっ――おおおおおおおお!?」


 カヴォロスは、顔を上げたエルクの額を指で弾いた。でこぴんである。


 あまりに痛かったのか、エルクは額を抑えて地面に転がった。この美丈夫のリアクションに、思わずカヴォロスは吹き出してしまう。手加減はした筈なのだが。


「フッ、済まん済まん。けどまあ、俺も自分の事を話さずにいたんだ。これで今度こそ、痛み分けって事でいいよな?」


 張り詰めていた気が抜けた事で、竜成の言葉が強く出てくる。信頼を得ようとしたという事は、あちらに騙す意図がなければ、こちらを信頼しますよという事に他なるまい。ならば、こちらも信頼の証として砕けた口調になるのはやぶさかではない。


「……少し、高く付いたようですが、お話を伺うのはこちらですからね」


 なんとか痛みが薄れてきたようで、エルクは額を抑えたまま身を起こす。


「それで、何を聞きたいんだ?」


 焼けた魚を手に取りながら、カヴォロスは問うた。


 同様にエルクも魚を取り、質問を投げかけてくる。彼の質問は本当に興味本位のもののようで、カヴォロスという魔族に纏わる話を聞きたがってきた。カヴォロス自身の生まれの事、カヴォロスがどうして魔王軍に加わり、四魔神将よんましんしょうと呼ばれるまでに至ったか。四魔神将とはなんなのか、など。


「それにしても、俺がララファエルに倒されてからもう500年が経ったんだな。そりゃあ魔王城もあんなザマになるか……」


 話の合間に、カヴォロスはそう独りごちる。むしろ500年も無人の廃城がまだ形を残していた事に驚くべきかもしれない。


「お話を聞かせて頂きありがとうございます。大変興味深いお話でした。見張りは私がやりますので、どうぞカヴォロス殿もお休みください。あなたも疲れていない訳ではないでしょう」


 エルクの言葉に、カヴォロスは苦笑する。


「お見通しか。それじゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな。エルクは明日どうするんだ?」

「そうですね、明日は一度村に戻ろうと思います。情報自体は充分過ぎるほどのものが集まりましたから」

「分かった。じゃあ少しだけ寝かせてもらうよ。交代の時間に起こしてくれ」

「ええ。どうぞごゆっくり」


 エルクに見送られつつ、カヴォロスはテントに向かう。結花は安らかな寝息を立てていて、朝まで起きる気配はなさそうだった。


 何かあればすぐに起きれるように警戒しつつ、カヴォロスは結花の隣に腰を下ろして目を閉じた。

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