奇術師が見たものは

雲条翔

天才奇術師にインタビュー

【奇術師 イライジャ・“イリュージョン”マクニコル二世(46)にインタビュー】


 私はこれまでも、いくつもの「不可能」を「可能」に変えてきた。


 十個以上の南京錠と鎖で固縛された「箱」に閉じ込められてからの脱出劇。

 サメのいる海に落とされた、海中の「箱」からの消失。

 時限爆弾と老朽化した吊り橋の合わせ技、高所の「箱」からの瞬間移動。


 今回、日本でも大規模なショーを開催することになった。

 これまでに見せたことのない、新しい脱出技を世界初披露だ。

 あっと驚く刺激的なショーになることをお約束しよう。

 その目で確かめてほしい。

 ゼヒ、ミナサン、ミニキテクダサーイ。


 これでテレビ収録は終わりかい? お疲れ様。

 最後は、教えられたとおりに話してみたが、発音は合っていたかな? 

 日本人は、日本人以外の人種に、日本語を言わせたがるよね。


 なんだって? 私がなぜ、箱からの脱出奇術をするようになったか?


 日本のインタビュアーさんは、ユニークなことを聞くね。

 いいだろう。特別にお教えしよう。理由はふたつある。


 ひとつは、私の名前に「二世」とついていることからも分かるように、父の仕事を継いだんだ。父は偉大な奇術師だった。

 父の仕事を間近に見て、「箱」に魅せられた、というところかな。


 それと、もうひとつの理由は……日本で、素晴らしい奇術師を目撃したからさ。


 両親の離婚騒ぎのゴタゴタに巻き込まれて、私は小さい頃、日本の知人の家にしばらく預けられていたことがあるんだ。

 今では、うちの両親はとっくに復縁して、故郷で仲良くやってるんだけどね。


 あれは、1985年のことだったな。


 日本の知人の家のテレビで、アメージングなものを見たんだ。

 実に衝撃的だったね。


 ひとりの男が、握り拳で「箱」を叩くと、中から色んな物が出てくる手品だ。


 男は、「箱」から取りだした物を使って、様々な奇跡を起こして見せた。


 火の玉を出現させたり、時には、自分の身長を二倍ほどの大きさに伸ばしたりもした。


 アクロバットも得意で、高い所から、細い旗のてっぺんに掴まって、余裕でするすると降りてきたりもしていたな。

 彼の身体能力は半端じゃないからね。

 

 服装も、一瞬で早着替えなんて、お手の物。

 こっちの穴に入ったかと思ったら、離れた別の穴から登場したり。

 まさにイリュージョンだったよ。


 テレビの前で、心からワクワクしたもんだ。


 そうそう、彼が叩く「箱」には「?」マークがついていたのも、ミステリアスな象徴で良かったよね。


 今でも現役だよ、彼は。

 当時と変わらない、赤と青の衣装でね。

 私の特徴的な口ヒゲだって、尊敬する彼を真似して、整えているんだ。


 その奇術師の名前? 世界的に有名だよ、君だってきっと知っているだろう。




 マリオっていうんだ。

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奇術師が見たものは 雲条翔 @Unjosyow

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