vortex
その夢の声は一度きりで見る事は無かったけど、あの声はずっと頭から離れなかった。
澄んでいるのに、何故か刺さるように私に入り込んでチクチク心を痛ぶっていた。
相変わらず不安な気持ちで、通り過ぎるだけの人すら怖くてたまらなかった。
ビクビクしながら歩いていると目の前に〝幻〟が笑みを浮かべ立っていた。
「久しぶりだね。
店に来ないから心配していたよ。
どうしたの?そんな顔して。」
突然現れた〝幻〟。
私は忘れようとしていたのに、おどけて首を傾げている〝幻〟に何も言葉が出なかった。
「嫌な事あったんだね?
そうだよね…辛かったね…
さあ、僕が今の君にピッタリのカクテルを作るよ。
行こう。」
〝幻〟は私の手を引いて歩き出した。
お店の前まで来ると私は入るのを躊躇った。
〜また、きっと私は…〜
「大丈夫だよ。辛い事は忘れてしまえばいいからね。」
〝幻〟の言葉にフッと力が抜けていって店に入ろうとしていた。
「そこには、君が望むモノは無いよ!
分かっているだろ?
止めときな!」
声のする方を見ると〝想〟が走って向かって来た。
「お前、何しに来たんだ?
僕とお前は分裂しただろ?
お前は自由。
そして僕も自由。
邪魔はしないで欲しいな。」
〜えっ!?
二人は知り合いなの??〜
「それに…
お前にもわかるだろう?
僕のこの痛みが…
お前も“あの痛み”を忘れた訳じゃないないだろ?」
いつも穏やかな〝幻〟なのに、感情を露わにして強い口調になっていた。
「もう、昔の事だ…
恨んだって、僕達は元には戻れない。」
宥めるように〝想〟は答えていた。
私は二人を呆然と見ながら、少し後退りしていた。
〜何??
話が分からない…
“痛み”って?
私がどう関わっているの??〜
辺りは妙に静かで気味が悪い位だった。
「確かに元には戻れない…
だけど僕は…
やられた事をやり返しているだけだ。
やった本人が僕らの痛みを分からないなんて、腑に落ちないじゃないか…
このまま時をただ待ち、消えて逝くなんて…
耐えられない…」
〝幻〟は震えながら涙をこらえていた。
「お前の気持ちは分かるけど、この娘は普通の人間なんだ。
なのに、お前は自分の大事な羽を植え付けて、それを取り出すようにしむくなんて…」
〜どういう事??
私から出た羽は私の羽じゃないの??
何故〝幻〟はそんな事したの??
あんなに優しかったのに…
私を癒してくれたのに…〜
私は色々な出来事を思い返しながら、力が抜けて座り込んでしまった。
「お前は十分この娘を傷つけた。
もう、止めよう…」
〝想〟はそう言って〝幻〟の腕を掴み、暗闇の中に消えて行った。
降り出した雨の中、雨に呑み込まれるみたいな感覚で私は一人動けないでいた。
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