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それから私は春奈を避けるように会社で過ごしていた。

心配しているフリをして本当は笑っていたんだと思うといたたまれない気持ちで、今までの様になんて出来ないはずなのに、春奈はそんな私を気にする事も無く普通にしていて悪気も見せず変わらずにいた。

私には、そんな春奈が分からなかった。

どうして今までと変わらず私に話しかけられるのか、考えたくもなかった。

もう信じたくなくもなかった。

そして、心に空いた穴を埋めるかの様に私は“あの実”を1つまた1つと口にしていた。


実を口にするたび、心の中の闇が消え去っていくみたいで、気持ちが楽になって食べずにはいられなくなっていた。

沢山食べたのに、瓶の中の実は減らずに貰った時のままの状態でいつもあった。

変だとは思ったけれど、無くなってしまう方が不安にならずにすんで良かったと、私は常に側に置いて実を口にしていた。

けれど、そうしているうちに両肩のアザは少しずつ大きくなり鮮明な形を現していた。


私は誰を信じて良いのか彷徨っていた。

春奈の告白も…緑の髪の髪の青年の話も…

更に過去に逆上り、今まであった事すら《本当にそうだったの?》と思う自分がいた。

私は暗い闇に一人居るみたいにで、心を閉ざしていた。

そして毎晩、〝幻〟の店に訪れ歪んだこの現実から逃れる為に、束の間の癒しを求めていった。


〝幻〟はいつも優しく微笑み、私の気持ちを察する様にスッとカクテルを差し出してくれた。

私も何かを言う訳でも無く、ただ静かにカクテルを飲み時間を忘れるほどお店にいた。


〜この空間にずっと居られたら、どんなに楽だろう…〜


ある日、店を出ると外は朝日が差していた。

ため息をつきながら歩いていると後ろから声がして振り向いた。

「そんなに君は逃げたいんだ」

そこには、緑の髪の青年が立っていて呆れた顔をしていた。

「夏希はさ、嫌な事から逃げて何がしたいの?」

私はドキッとした。

「あなたには関係無いでしょ。

それに、何で私の名前知っているの!?」

青年は私の周りをグルグルして見ていた。

「僕は〝想〟

夏希を見ていると、危なかっしくてヒヤヒヤするよ。

楽に生きられるなんて出来ない事、わかってるよね?

その先には何も無い。

楽しい事も嬉しい事もね。」

この〝想〟が言っている事は分かるけど、この時の私には素直に聞き話せる状態では無かった。

「いつも突然現れて、色々な事を言ってるけど、あなたは何なんですか?

ストーカーみたい…」

心配して忠告してくれている〝想〟に私は酷い言い方で突き放し、急いでその場を去ろうとすると

「夏希!

君の羽はもう…このまま…」

遠くで叫ぶ声を聞かないよう、耳を塞ぎながら私は走って行った。


家に帰り、実の入った瓶を見つめながら考えていた。

〜あの〝想〟と名乗った緑の髪の青年は、何故色々知っているんだろう?

フラリと現れて私に助言して、〝幻〟の事もあまり良く言わないし…

〝幻〟も〝想〟の事を知っているみたいだけど、良くは言わなかったな…

そう言えば…

〝想〟が最後に言っていた《羽》って何の事だろう…〜


その時、私の両肩に出来たアザの辺がチクリと痛くなり見てみると、右側のアザから一枚の羽が飛び出していた。 

それに驚き戸惑い、思いっきりの力で羽を引き抜いた。

私はその痛みで、そのまま眠りに落ちてしまった。

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