Question
夢に緑の髪の青年が現れなくなってから、私は自然と青年を探していた。
悶々とする日々に、ふと立ち寄った公園で大きな木の下に寝そべっている緑の髪の青年を見つけた。
私は駆け寄り青年に声をかけた。
「あの…
私を覚えていますか?…」
青年は私を見て淋しそうな表情でため息を漏らした。
「君…
あの実を幾つ食べたんだい?」
〝幻〟から貰った実の事は誰にも言っていないのに、何故青年が知っているのか驚いていると
「〝幻〟に貰ったんだろ?
その実は嫌な現実を忘れさせる、いわば〝幻の実〟だよ。
そんなの食べてちゃ、本当の自分が分からなくなるよ。」
青年の話に私はゾッとしていた。
「とにかく、あの実は食べちゃダメだね。
僕が君に今言えるのは、それだけだな。」
「私…」
言いかけて青年を見ると、もう姿は無くなっていた。
私は怖くなり、〝幻〟の店にも行かなくなり、貰った実も食べなくなった。
暫くは不思議な夢も見なくなり、平凡な日常を過ごしていたが、ふと両肩に赤いアザが出来ている事に気がついた。
そのアザは日に日に赤さを増し、何かの模様の様になっていった。
赤さを増す度、ズキズキするようになってきたので、病院にも行ってみたが理由は判らなかった。
会社帰り、春奈に誘われて食事に行く事になって、繁華街を歩いていると〝幻〟とすれ違った。
「今の人…
一緒に行ったBarの人だったよね?」
振り向くと、もう姿は見えなかった。
春奈は“気のせい”だと軽く流していた。
そんな春奈は私に思いがけない告白をし始めた。
「実はね…
もう、辞めていないから言うけど、私…夏希の好きだった神田先輩と付き合っていたんだ。」
春奈はサラリと昔話を言うような顔をして平然と言い出した。
私は突然の告白に頭が真っ白になって、春奈を見る事が出来なかった。
私を応援して励ましてくれていた裏では、私を騙していたんだなんて思うと、今までの事が走馬灯の様に過って砕け散っていた。
私は、春奈といるのが辛くなり店を出てしまった。
朦朧と歩いていながら、気がつくと〝幻〟の店の前にいた。
店に入るのを躊躇っていると、
「待っていたよ。
どうぞ、入って。」
〝幻〟が出迎えて、私は誘導されるまま席に着いた。
「何も言わなくていいよ。
君がココを必要としているから今来てるんだからね。
さあ、どうぞ。」
〝幻〟はキラキラと光る金色のカクテルを出し微笑んでいた。
私は〝幻〟に申し訳無く感じていた。
緑の髪の青年に脅かされて、〝幻〟と関わるのが怖くなっていて来なかったクセに、自分が弱るとズルさから、こうしてまた拠り所を求め来ている。
「いいんだよ。
普通の人間は、傷ついて弱るのが当たり前で、そんな時に癒しを求めるものさ。
普通の人間なんて弱いんだよ。」
〝幻〟は、私の気持ちを見通しているかの言い方をしていた。
「君は誰よりも弱い娘だからね。
だから少しでも元気になる様に“あの実”をあげたんだけど…
食べてないみたいだね。」
〝幻〟は寂しそうに呟いていた。
「ある人に、あの実は食べちゃっダメだって言われて、怖くなちゃって…
ごめんなさい…」
「謝らないで。
食べるも食べないも、君が決める事だよ。」
〝幻〟は優しく私の頭を撫でて言った。
「それにしても、君に変な事を言ったのは友達なの?」
「友達じゃないけど、最近よく会う人で不思議と“あの実”の事を知っていたの。」
私がそう言うと〝幻〟は急に顔つきが変わり、何だか怒っている様子だった。
〝幻〟は緑の髪の青年を知っているかハッキリは言わなかったが、私に緑の髪の青年の言う事は聞き流すように言っていた。
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