cocktail

あれから不思議な夢を見るようになった。

それは…

《緑の髪の青年が私の前に現れて、ぐるぐる周り出し次第に緑の髪は伸びて私を包み込み、怖いけどその暖かさに和んでいる自分がいる》

そんな夢だった。

目覚めると私の中から何かが剥がれている感覚して、次第に力が抜けて行く日々が続いていた。


それからは会社に行っても、あれだけ恋焦がれた先輩を見ても以前の様な感情は沸かなくなっていた。

そんな私を見て春奈は心配して度々様子を見に来てくれていた。

「夏希どうしたの?

最近、〝心此処にあらず〟みたいな顔してるよ。

何かあったの?

大丈夫?」

と聞かれたけど、私は緑の髪の青年と出会ったことや夢の事を話す気になれなかった。

きっと、からかわれて笑われてしまうだけだと思ったからだった。

春奈には心配させない様に作り笑いで返答して過ごしていた。


〝そういえば、あの店は何処にあるんだろう?〟


そう考えながら会社帰り、私はあの店を探していた。

春奈とあの日歩いた道を頼りに進んでみるとファっと優しい風が吹き、目の前には紫の扉のあの店があった。キチンと看板も出ていたから間違いなかった。

私はそっと扉を開けて、ゆっくり店に入って行った。


「いらっしゃい。

やっぱりまた来てくれたね。」

ここはまさしく、あの夜、春奈と来た店で紫の髪の青年が微笑み私を見ていた。

カウンターに座ると青年は用意していたかの様にカクテルを出してくれた。

そのカクテルは綺麗な虹色をしていて、中には小さな泡がパチンパチンと弾けていた。

それは、まるで私の心の中で弾けているみたいだった。

「このお店を昼間探したんですけど、見当たらなかったから辿り着けるか分からなかったけど、お店があって良かったです。」

そう言うと青年は優しく私の髪を撫で

「大丈夫。

君は此処に来るべき人なんだよ。

君が求めていれば此処に辿り着けるから。」


それからどれ位居たのか、時間を忘れる程の居心地の良い空間に癒やされていた。

「君は自分の中の自分を開放していないから、この世界で苦しんでいるんだね。」

カウンターで青年は静かに優しく呟いた。

私は悲しくもないのに、自然に涙を流していた。

気持ちが落ち着いた頃、私は青年に聞いてみた。「あなたのお名前は〝げん〟と読むのですか?」

青年はコクリと頷いて何かを作っていた。

「このお店は、お休みの日とかあるんですか?」

青年は首を横にふり、そっと赤い実が入った小さなビンを差し出した。

私が驚いていると

「これは、僕からのプレゼント」

そう言って微笑みながら私を見ていた。

男の人からプレゼントなんて始めてで私は嬉しくなっていた。


私は家に帰り、青年から貰ったビンをベッドの横の棚に飾った。

「これって食べられるのかしら?」

ビンの中の実は見れば見るほど、どんどん綺麗に赤くなっている様に見えた。それを眺めながら私は眠りについた。


夢の中…

《私は草原で誰かを待っていた。

見渡しても見渡しても誰も来なくて、淋しくなってどうして良いのか分からなくって、不安になってうずくまってしまった。

「夏希!」

声の方に目をやると、緑の髪の青年が立って手を伸ばしていた。

私がその手を掴もうとすると、青年の後にあの店の〝幻〟が居て悲しい顔をして見ていた。

私はそのまま動けずにいた。》


目覚めると外は雨が降っていた。

私はモヤモヤした気持ちのまま、ポツポツと窓に付く雨粒を眺めていた。

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