三つの羽
桜 奈美
color
私には入社してからずっと恋焦がれていた先輩の神田さんがいた。
気持ちを伝えるか悩んでいたけど、友達と行った店で流れていた曲に背中を押され、勇気を出してバレンタインデーに告白をした。
が、優しい言葉で見事に振られてしまった。
社内でも人気がある格好良くて優しい先輩だから、結果は分かってはいたけど、私はショックで立ち直れずにいた。
会社で会う度、諦めるなきゃいけないのに、好きで好きで想いは膨らむばかりだった。
そんな私を見かねて、同期入社してから仲良くしている春奈が会社帰りに私を呼び止めた。
「夏希、いつまでもそんなんじゃ、新たな出会い逃がしちゃうよ!
今日は金曜日だし、パーッと遊びに行こう!」
乗り気の無い私を何とか楽しませようと、人気のショップやレストランに連れ出してくれた。
春奈は部署は違ったけど、いつも明るくて私を癒やしてくれる存在。
まるでお姉さんみたいで、側に居てくれるだけでホッとした気持ちになれた。
「春奈、ありがとう。
失恋なんて慣れているのに、今回はズシッと来ちゃって…」
「好きになったんだもん。当たり前だよ。
夏希には幸せになって欲しいから、夏希を大事にしてくれる人が現れて欲しいよ。」
私達はひっそりとした路地に小さなBarを見つけ入ってみた。
紫の扉には《◯△□》と謎の記号が書いてあった。
何だか探検しているみたいでドキドキしながら店に入ると、カウンターに綺麗な顔をした緑の髪の青年が笑顔で迎え入れてくれた。
「可愛いお嬢さん達、こちらにどうぞ。」
私達は並んでカウンターに座り、おすすめのカクテルを注文した。
カクテルを作る彼は白く長い指をしていた。胸にはネームプレートが着いていた。
〝幻〟
「変わったお名前ですね。」
春奈が聞くと、彼は微笑んでカクテルを差し出した。
妙に落ち着くこの店は、他に誰も居なくて異空間のようで現実を忘れさせてくれた。
私はこの空間の居心地の良さに癒やされていた。「そろそろ行こうか?」
1時間も居ないのに春奈がそう言って会計をしだした。
私は促されるように店から出て、春奈に聞いてみた。
「どうしたの?
今の店、気に入らなかったの?」
「私、あの店はダメだな…
何だかジロジロ見られている感じがして、気持ち悪かった…」
春奈らしくない答えに戸惑っていた。
彼女はいつでも意欲的で何に対してもポジティブに考える人だったからだ。
私達以外は誰も居なかったのに、{見られてる気がした}なんて言い出して、どうしたのだろうかと心配していた。
次の日、私は何気にあのBarへ行ってみた。
昼間の路地は穏やかで、夜とは感じが違っていた。
店の紫の扉を探していたけど、紫の扉なんて見当たらなかった。
記憶を辿って行くとあの店の扉は緑色になっていた。
《昨日は夜だったから、見間違えたのかな?》
店の看板は無く、一見何の扉かすらわからなくて、私は立ち尽くしていた。
「お嬢さん、何かお探しですか?」
背後から囁かれ振り向くとお洒落な青年が微笑み立っていた。
青年は綺麗な緑の髪をなびかせて私を見つめながら首を傾げた。
「君は…
まだ羽ばたけないね…」
そう言って立ち去ってしまった。
私はただ呆然と去り行く彼の後姿を見ながら、何しに此処に来たのかを忘れてしまっていた。
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