第5話

 調査の結果、カトレアの実家であるパフィオ伯爵家からリネン、トリカブトのほかにふぐ毒を丸薬にされたものが送られていた事が判明した。

 伯爵家当主とカトレアの共謀である事が分かり、裁判にかけられた。結果は皆が想像する通り。


 私はと言うと。

「陛下、早く書いてください」

「分かっている、急かすんじゃない」

 それぞれ書面にサインを記す。悲しい顔でルシオが書類を私に渡す。

「これで貴女との婚姻関係は終了だな」

 今更悲しそうに言われても、と言いたくなるが私は自由になれるのが嬉しくて満面の笑みを浮かべる。


「今までありがとうございました」

 これからどうしよう、何をしようかな。考えるだけでも胸が弾む。せっかく転生したこの世界を見て回るのも良いよね。ベアトリスみたいなのどかな田舎町に住んでお店を開くとか。こいつルシオの顔を拝まなくて良いのも嬉しいな。今まで散々、冷たくあしらってきたのに最後の最後は悲しい顔をするのとか腹が立つけど今日限りだものね。優しくしてあげよう。


「次のお妃さまには優しくするんですよ」

「あ、あぁ……」

 政務は真面目にこなすから後は夫婦生活さえきちんと出来ていれば、意外と安泰かもよ。

 それを言うのは余計なお世話かしら。


 私は書面を確認し、無事に離縁が終了したので部屋に戻って荷造りを始める。

 自由になるため、ルシオと離縁する事を実家に伝えると大激怒された。

 お前の戻って来る家はないと勘当されたけど、自分の人生を謳歌したいのでダメージは食らっていない。ルシオからは慰謝料として多額の資金をもらっているので、当分生活には困らない。

 私は、これからどうするか考えながら王宮を後にしようとする。


「バーバラ様!」

 王宮の外に行こうとする私をリヒトが追いかけてきた。

「王宮を出て行くって聞きました」

 私は頷く。

「リヒトなら立派な王になるよ」

 と言うが、リヒトは照れくさそうに答えた。

「実は父上にお願いをして王籍から抜けさせてもらいました」

 びっくりする私に「僕はバーバラさまと一緒にいたいから。だめですか?」と推しは言う。

「駄目なわけない、私の大事な息子だもん」


 私は小さな可愛い息子を抱き締める。

 手を繋ぎながら私達は王宮を後にする。振り返り、今まで暮らしてきた宮殿を見た。豪奢だけど退屈だったな。悪くはないけど、私には王妃という責務を負うのは向いていない。だけど、何だかんだ楽しかったかもしれない。色々な思い出がここにあるけど、今日で全て置いていく。


「これからどうするんですか?」

「う~ん、世界を見て回るのはどう? アホルシオに貰った慰謝料もたんまりあるし」

 リヒトはけらけらと笑う。私達が笑っていると、聞きなれた声がした。


「私もその旅に混ぜてもらっても良いですか?」

「ギル! どうしてここに? 宰相の仕事があるんじゃないの?」

 矢継ぎ早に出てくる私の疑問を彼は笑顔で受け止めながら答えた。

「離縁なされるという事でしたので、次こそは貴女を俺の妻にしたいと思って宰相を辞めました」

 ギルはそう言い、膝をつき私の手を取る。そっと優しく甲にキスをする。


「結婚を前提にお付き合いしてくださいますか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る