第14話 会話をする
外、何も無い廃墟と森の木々が見えるだけの風景をわたしはただ見つめていた。
まちであったその場所で唯一病に侵されず生き残った患者の看病をすると思っていましたが、何故かわたし一人だけ外に出ている事になりました。
「はぁ…さみしいです。」
まさか薬や治療とは関係無く外で待たされる事になるとは思いませんでした。師匠に何か考えがあって私を外に立たせているのでしょうけど、実際はただただ退屈でさびしい時間が過ぎていくだけです。
はぁと大きな溜息を着きつつ頬杖をついて枯れ果てた倒木の上に座っていると、何か気配を感じ取りました。
気配のする方へと直ぐに向いて目を凝らしますが、特に何か居る様子ではありません。しかし、明らかに何かがこちらに向かって何かしらの意識を放っていたと感じました。
「師匠っ。」
患者が居るので出来る限り音を立てず、急ぎ家の中へと入り師匠に異変を伝えようとしましたが、中に入ってきたわたしを見る師匠の表情を見て、わたしは師匠が既に何かを知っている事を察しました。
「あぁ、やはり来ていたか。」
「師匠、一体何が?」
師匠に説明を求めると、師匠は別室へと移動してからわたしに向かい合い口を開きました。
「『腐肉喰い』ってのがいてな。最近は見掛けなくなったが、こいつが衰弱し出してから気配だけが周囲から感じ取れるようになったんだ。」
「…腐肉。」
「弱った生き物を喰らう獣の別称。微かに血の臭いを漂わせる、私ら妖精からすれば別格級に忌避すべき存在だ。」
聞いた事の無い様な、どこかで聞いた様な名称にわたしは思い出そうと考え込むと、師匠は話を進めるためか答えを早く提示しました。
衰弱し、命の灯火が消えかけたその生き物を狙い、日夜その生き物の様子を見張り、完全に抵抗する力を無くした瞬間を狙う非情に狡猾な生き物だと師匠は言います。
更に元は墓に埋められたシタイを掘り起こして食い荒らす、とも説明します。
師匠は自身が薬によって患者を治療していき、墓に埋めるシタイが出ない事で腐肉喰いが腹をすかし、生きている状態の生き物にまで手を出そうとしているのだろうと予想していました。
しかし、だからといって治療を止めたりそんな存在を見過ごすことは出来ません。何よりも患者が実際に狙われているとなれば当然でしょう。
きっと師匠がわたしに今回この場所への同行をさせたのも、このためなのでしょう。
「こっちは患者の治療に専念するから、お前は相手に警戒しつつ、且つ相手に分からぬ様に様子を伺え。今回はまだ初めて来たであろうお前相手に警戒いているだろうし、下手に動いてこないだろうがな。」
はい、と返事を返しわたしは窓から外を伺いつつ、患者を守る事に専念します。
そうしてわたし自身の今回の役目を認識してから数日経ちました。
腐肉喰いだと思われる気配は徐々に患者のいる家へと近づいており、わたしは外ではなく中で待機する様になりました。相手は生き物の気配にとても敏感です。なので、一応姿を隠して出方を伺うと言う事になりました。
「意味が無くとも、色々試してあっちから仕掛ける様仕向ける。」
との事です。さすがに患者の治療と外の見張りをしていては神経にきます。早く終わらせたいと言うのが本音なのでしょう。正直わたしも疲れて来ました。特に昼間は本当に眠気が来て大変です。寝そうになる度に何度師匠から蹴りを入れられた事か。
師匠が別室で薬を調合をしている最中、わたしが患者の看病をしていました。
この患者も厄介で、師匠が話していた通りこちらを警戒してか、薬どころか僅かな食糧にさえ口を付けようとしません。
「余所者の手に触れたものなど食えるか!」
そう言ったのが、元気になってきて最初に放った一言だと思うと、師匠の心境に同情してしまいます。だからと言って師匠の態度ややる事には賛同出来ませんが。
何度食べないと体がもたないと言いましたが、聞く耳持たずと言った状態です。困りました。
「…ふん、余所者の悪種族が。」
また同じ事を口にしていました。何度も聞いて来て、最初こそ腹が立ちましたが、だんだんと慣れてきたのか、聞いてもお怒り所か飽きを感じてきました。
「…悪種族はともかく、確かに棲む場所は違いますが、そんな余所者と言う程違いは無いと思いますが。」
フと思った疑問を口にすると、そっぽを見ている患者の耳に入ったのかどうかは知りませんが、微かに肩が跳ねた様に見えました。
「ちゅんと腕が二本に足が二本、頭部も胴体も一つずつと同じ見た目をしているじゃないですか。」
そっぽを向いていた患者の頭部が微かにくちらに向けました。ほんの少しだけ見える目は、こちらを馬鹿にして視ているのが分かりました。
「後、刃物が肌に食い込むと痛いと思うし、目に異物が少しでも入ると痛かったり痒かったり、お腹がすいたら食べ物を食べて、そして排泄する。体の仕組みだって同じですよ。」
「…全然違う奴がいるだろう。」
返事が返ってきました。ちょっと嬉しくなり、わたしは話をつづけました。
「確かに、獣人さんは耳や尻尾、後頭部がまんま動物だったり毛深かったりしますね。後背中に羽が生えていたり、色々と特徴がありますが、でもそれって人間の中でも変わりませんよね?」
男性はわたしが言った事が理解出来ないと言う
「だって、背の高いヒトに低いヒト、鼻の大きいヒトに丸いヒト。他にも目が大きなヒトに顔の形が丸かったり四角だったり、種族が同じでも身体的特徴が異なるヒトは沢山いますよね。
それに人間だけでなく、色んな種族が異なる容姿をしていて、全く同じ容姿のヒトって、案外いませんよね。双子でも多少異なる顔つきをしていたりしますし。」
つらつらと並べて見ると、異種族だからとか住む場所が違うから、という理由は全く機能しないと改めて思いました。案外余所者を思っているだけで、わたしたちは遠くて近い隣人なのだと思いました。
「…ちがうだろ!…性格とか、思考とか。」
何やら男性は自分らが他の種族と同じだという発言が気に入らないらしく、あれこれ考えつつ言い返そうしていましたが、わたしはそれに自分なりの答えを出します。
「ヒトの性格は環境や教育で形成されますから、種族は関係無いじゃないでしょうか?」
言うと男性は苦そうな表情になり、何かを言いそうになりましたがそれは溜息に変わり、顔を背けてしましました。もしかして話し疲れてしまったのでしょうか。わたしとした事が、話す事に夢中になり患者に体調を軽んじてしまいました。
「直ぐに師匠が薬を持ってきますので、それまで休んでいてください。」
わたしは患者を置いて部屋を出ました。そのすれ違いに師匠が来ましたので、大丈夫だと判断し外へとまた見回りに行きました。
以下はわたしの知らない、師匠と患者の会話となります。
「よう、まだくたばり損なっているな?」
最早師匠は患者相手でも軽口を叩く様になり、患者は苦々しい表情をしますが、師匠は素知らぬ顔をしていたらしいです。
「…どうだったアイツ。なかなかの馬鹿だっただろう。話をしているとこっちの頭が可笑しくなりそうな程天然で、少し話しただけで疲れる。
でも、憎めないだろう?」
師匠の言葉に何の反応も示さなかったが、そんな無言の状態となった患者に師匠はどこか満足気な表情を浮かべていたとか。
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